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スターチス〜変わらぬ心

ここは魔法都市ルミナリエ。

大きな世界樹からなる図書館を中心にたくさんの研究所が施されて、武具にも魔法を施される魔法都市。


ここでは先日ヴァルドリウスという400メートルの魔物と対峙をしたことで木々は崩壊し、街全体も半壊をしていた。


幸いギルドに関してはまだ壊れてなかったので周辺は難民キャンプとしての機能を果たすこととなる。


「それではご精算を致します。緊急クエスト、ヴァルドリウスの討伐お疲れ様でした。こちらの魔物は本来複数の冒険者をあつめて討伐をするレイドクエストになる可能性もあるほどの高難易度のところをひとつのパーティーで攻略し、街も半壊でしたが魔法都市としての機能を守りましたので報酬金として金貨1万枚ほどの報酬となります。」


受付嬢からはいつもの金貨ではなく、高額の場合はギルドカードに直接入れる事になる。

いわゆる振込もこちらでできてしまうとの事。


「いえ、受け取れませんわ。」


ざわざわ……っと回りがまわりが疑問視する。

「え?で……でも報酬は払いませんとギルドとしての機能が果たせませんわ。」


受付嬢さんも少し困惑していた。

そりゃあそうである。

「だって、魔物もすべて居ないわけじゃないですし、街の人達は復興支援金が足りないことでとても大変な生活をしている。……でも一つだけ条件はあるわ?」

「条件……と言いますと?」


私は息を止めて、ゆっくりと話し出した。

「ネヴァロスを街の人達は怖がらないようにして欲しいの。私の力じゃないわ、少し前からネヴァロスは孤独に悲しみながらも私たちに修行をつけてくれて今回の討伐に至った。つまり、ネヴァロスの功績なのよ。」

「そんな……そんな事。」


珍しくネヴァロスは動揺している。

彼はあんなにニヤつくのは……きっと孤独に耐えるための癖なのだ。だからこそぎこちない笑顔は目が笑ってないので不気味に感じる。

実際、街を守るためにネヴァロスはとても尽力をしていた。


「承知しました。それでは魔法都市ルミナリエの復興支援金として寄付をさせていただきます。」


受付嬢は納得したのかすんなりと手続きをしてくれた。そういう時に私情とか切り抜いて行動できるからきっと仕事ができる人なのかもしれない。


「おい!ネヴァロス!」

すると、後ろから声をかけられた。見知らぬ男である。

「すまなかった、お前を受け入れられなくて。」

「わたしも!あなたには近寄っては行けないと子どもに教育をしたのは私ですわ!」

「わしも、君を無視してしまったこともあった。こんなにもわしらを思ってくれてたのに……すまん!」


様々な懺悔の言葉がが後ろから飛び交っていた。

きっとみんな怖かっただけなのかもしれない。

今回の頑張りは…みんなも見ていたのでネヴァロスの孤独を終わらせることが出来た。


「そんな……そんな……ひっく……うわあああ!」

ネヴァロスはその場で崩れ顔を隠して泣き出す。

きっと……今までの孤独の辛さがダムの決壊するように感情として流れ出したのだろう。


しばらく私たちは彼を見守ると、もう夕方になっていた。


☆☆


私たちはあと1週間ほどでルミナリエを出るのでそれまでは体の療養ということで街に滞在することにした。


ついでにお金はそこまでなかったので復興作業でお金も稼いでいた。


「しかしよ、さすがアイリスだな。」

「何がよ。」


エレノアが作業をしながら話しかける。

私は壁を塗り、エレノアは釘打ちをしている。

「まさか報酬金を街全体とネヴァロスのために使うなんてな。最初はびっくりしたけど最前の選択だったと思うぜ。」

「そうね……おかげで仮設住宅も幾つか建設することが出来たし、街の人達は私たちとネヴァロスに感謝をしている。」


「それにしても、今回のヴァルドリウスを倒したことで魔王の配下の五大魔とらも半分は倒した事になるな。」

「そうね……魔王ゴールドとやらもどんなやつなのか気になるわね。」


なにかと順調に敵の中心核を攻略していた。

偶然なのかもしれないけど。

でも、今回の敵でギリギリだった。

敵が大きすぎるが故に時飛ばしもそこまで決定打にならなかった。

サファイアで復活できたけどヴァルトハルト1度は死なせてしまった。計画も殆どはネヴァロスが考えたので私は魔力砲を起動させただけだった。


「私は無能かもしれないわ。リーダー失格ね。」


ふと、そんな弱音を吐く。

果たして私はこのパーティーを守ることが出来るのだろうか。

楽観視してみんなを巻き込んでしまっていた


「ああん?おめぇ、それ二度と言わない方がいいぜ。」

「へ?」

エレノアは顔をしかめた。


「だってよ、リーダーって統率力があるとか強いとかそんなの必要ねえと思ってるんだわ。むしろそんなものにこだわってるやつは人を引っ張るなんてことは一生できねえ。」

「え、じゃあどうするべきなのよ。」


するとエレノアはいつもの不敵な笑みを浮かべて声を貯めた。

「そりゃあな……行動する意志があればそいつはリーダーなんだよ。確かにお前は剣を使えないし、料理も中途半端だし、戦術も考えられないかもしれない。」

「ちょっと……ディスってるの?」

「でもな、誰よりも前に進もうとすることが出来る。なーに、足りないところはみんなに助けてもらいながら行けばいいんだよ。だって俺たちは仲間じゃねえか。1人で背負いすぎるなよ〜。」


私は少しハッとした。

この下り……聞いたことある。

私の好きな漫画の主人公のセリフに近かった。

彼もまた、剣を使えないし、航海術もできないし、料理も出来なければウソもつけない。そんな彼をみんなが着いてきたのは敵をぶっ飛ばし、みんなに助けてもらえる力があるからなのだ。


こんなに好きだったのに目の前のことで忘れていた。

何やってんだろ。


「あんた、もしかしたら天才かもしれないわね。」

「何がだ?」

「私の故郷の物語の主人公がね……同じこと言ってたの。面白いわね、どうしたらそんなセリフが思いつくのよ。」

「なんだよ、そんなにすげー物語なのか?」

「すげーわよ、何せ100冊以上出てるんだから。」

「百冊だァ!?そんな書籍あるのかよ。文豪だな。」

「かもね。いつかあなたにも見せてあげたいわ。」

「お、じゃあこの旅が終わったら見せてくれよ。」


エレノアは軽いが楽しそうに話してくれる。

悩んだ時には彼はとても頼もしいな。


「じゃあ、残りの仕事終わらせるわよ。」

「おう!」


私の心は変わらない、この冒険を楽しむんだ。

ドライフラワーにしても紫が色褪せることの無いスターチスのように。


☆☆


遂に……1週間がすぎた。

長いようで短い時間だった。

「いやはや……皆様にはなんと感謝するべきでしょうか。復興のお手伝いをしてくださったおかげです復興もかなり進みましたぞ。」


街の町長をなのる高齢の男性が頭を下げに来た。

なんと律儀なのでしょう。


「いえいえ……この期間たくさんの人達に色んな魔法も見して頂きましたし、勉強にもなりましたわ。」

「そんなそんな……、お礼と言ってはなんですが……この魔導書をお授け致します。」

「これは?」

「古くから伝わる魔導書です。アイリス様に相応しいかと思います。街の平和の証でしたが真の平和にお使いください。」


私は古びた魔導書を貰い出航の準備をした。

「あれ、ネヴァロスは?」

「いつものところに呼びに行きましたが……ネヴァロスはいませんでした。こんなにも沢山のことをして頂いたのに。」


何故かネヴァロスはヴァルトハルト曰くいないとの事である。別れを言いたかったがもう会えないのだろうか。

しかし、こちらも今日出発したと伝えた以上はこの島を出なければならない。

「行きましょ。」

私は船の出航の指示を出した。


「ありがとう〜!お世話になったわ!」

「皆様も!健闘をお祈り申し上げます!」


町中の人達が港まで手を振りに来てくれた。

なんだかんだ3ヶ月もいたから愛着湧いてきたなぁ。

「よかったのか?ネヴァロスに会えなくて。」

「なんか、あいつはまた会えそうな気がするの。」

「はは!まあ確かにいつも急に出るもんな!」


「急で悪かったね!」

すると私たちの後ろにネヴァロスがいた。

「ネヴァロス!?」

「いたのかよ!」


探してもいなかったのに……どうして?

「あれ、言ってなかったっけ?僕これから君たちと冒険を共にするよ。君たちと一緒にいるのも楽しいからね。……悪かったかな?」


「そんなわけないじゃない!今日はネヴァロスの歓迎会よ!」

「おー!最高だな!飲むぞ飲むぞ!」

「じゃあ……私は得意のアクアパッツァを」

「おいー!飯はアイリスにお願いしよう。」


私たちの船出は早速の宴から始まった。


「ネヴァロス!何飲む?」

「んー、じゃあウイスキーのロックで」

「え、あんた成人してるの?」

「140も生きてるからねえ、歳を重ねるとこういうお酒を飲みたくなるもんさ。」

ネヴァロスは見た目は少年だが好みは完全におっさんだった。


☆☆


「ねえ、ヴァルトハルト?」

「どうしたんですか、アイリス。」


私は震え上がりながらヴァルトハルトに話しかけた。

時刻は正午だと言うのに、天気は曇天の雪模様で辺りに氷山が浮かんでいる。


「ここ……寒くない?なんでこんなに天候が変わるのよ。」

「ああ、ここはノーザリスという地域なのですがここは冷涼な地域なのですよ。」

「え、ここって海の真ん中の海域じゃなかったの?」


昔学校で受けた地理の授業によるとここは赤道を通る海域なため熱帯に属されるのだ。

現に今までは熱帯というくらい暑かった。


「基本的には世界は北と南の端にいくと冷涼になり、中間になると温暖な気候になるのですが、時折その法則を外したところもあります。ここは年中雪の降る地域なのですよ。」


さすがはエリート騎士様。地理に精通しているのも頼もしい。

「じゃあこの先停泊する予定は……。」

「とても寒いノーザリス国になりますね。防寒着も常に着なければなりません。」


やだな……寒いのは結構苦手だったりする。

千葉県がそこそこ暖かいのもあるのかもしれないけど。

「お、鎧野郎もいたか……寒いだろ、ボルシチ作ってみたんだ。」

エレノアがボルシチを持ってきた。

この世界は食べ物の名称などは現実と何故かほとんど一緒なのである。

「ボルシチこの世界にもあるのね。」

「ああ、これも突如として広まったんだが上手いんだよな。」


差し出されたボルシチにライ麦のパンと上にはサワークリームが乗っていた。

食べるとサワークリームの酸味と、ビーツの香りが顔を包むようで体が温まるようだった。


「おいしいわ!エレノアは料理の天才ね!」

「うむ、ビーツ野郎としては面白い発想だな。」

「黙れメシマズ。」

「め……めしま。」

「あー!おいしい!ほら、ヴァルトハルトも飲んで!」


ヴァルトハルトは料理が苦手な自覚がないので変に気づかせるとショックを受けそうだから私は何となくその時は誤魔化す。


「そういえば、ノーザリスと言えば寒いのに踊り子の土地なんだとな。」

「踊り子?普通に踊るってこと?」

「まあそうなんだけどな、舞を踊るってことで攻撃をしたり魔法を強化したりすることが出来るんだ。元々は寒さを紛らわすためにやっていたらそこから能力者が増えていったらしい。」


え、それちょっと凄いわね。

私は今は魔法使いではあるのだけれど、ネヴァロスの修行により回復呪文も使えるようになったので今のステータスを見ると賢者という肩書きになっている。

ちなみにネヴァロスは異端賢者ということになっている。


とはいえ、まだ自分の実力もまだまだなのでここでダンサーのスキルを身につけてもいいのかもしれない。

「ひとまず、ノーザリスのダンス見に行きましょう。」

「そうだな。あと2日ほどで到着するからそれまではゆっくりしてようか。」


寒いのはとても嫌なのだけれど、少しノーザリスに行くのが楽しみになっていた。


☆☆


数日が経ち、私たちはノーザリスに到着をした。

港を降りて内陸部に行くとたくさんの人が雪かきをしていた。

「おりゃ!くらえ鎧野郎!雪玉だ!」

「やめろビーツ野郎!冷たいのは無理なんだ!やめてくれー!」

「……やれやれだわ。」


エレノアは雪がほとんど触れたことがなかったため大はしゃぎだった。

まるで冬のシベリアンハスキーみたい。

でかいし、イケメンだけど少しバカなところがよりハスキーっぽさを彷彿とさせた。


一方でヴァルトハルトは勇敢だけど寒いのがダメで吠えてるのでチワワみたいな感じがする。

「2人とも子供だなぁ。」

「ネヴァロス、あなたは達観しすぎてるのよ。」

「そりゃあ140なんだもん。この中では長老だよ。」


ネヴァロスはなんだろう……何考えてるか分からないけど見た目に幼さもあるからな。案外柴犬とかが近いのかもしれない。


ちなみにノーザリスは寒冷地につき酪農が盛んな町である。意外と農業が盛んになっていて町は賑わっていた。

漁業も蟹がならんでいる。

「なんか北海道みたいだわ。」

「ホッカイドー?呪文か?」

「私の故郷の島よ。」


市場を歩くと乳製品も多く並んでいる。

ひとつのものが目に入った。

「お兄さん、これは?」

「ああ、これはブラータってやつだ!モッツァレラチーズのひとつでね!チーズと生クリームを混ぜたものをモッツァレラチーズで包んであるから食べると濃厚なクリームを食べることができるんだ!」


白い巾着はモッツァレラチーズだった。

すごく美味しそうである。

「みんなでこれ食べましょ!」

「いいな!」


私たちはブラータをたべる。

表面にジェノベーゼとルッコラをのせて、塩コショウをしてもらった。

とても美味しそうである。

フォークを刺すと中からトロリと生クリームが漏れ出す。

私はそれを口に運んだ。

「なにこれ!美味しすぎるわ!」

ねっとりとクリームが濃厚さを出している。

モッツァレラチーズって淡白なイメージだったけど程よい塩気と酸味がした。

すごい……冷涼な地域は上質な乳を作り出すのね。


ちょっとしたグルメだった。

その後も私たちは市場の珍しい食べ物を食べて言った。


☆☆

「かなり遊んだわね。」

辺りはもう暗く静まり返っていた。

夜の風が一段と冷たく感じた。


「これからどうするよ。」

「んー、どうしようかしらね。」


時間に余裕を持ちすぎたので宿などを探すのを忘れていた。港までは時間があるからこちらとしては久しぶりに地面のあるとこのベッドで眠りにつきたいところである。

ひとまず情報が欲しいな。

「ねえ、そこのお兄さん。」

「なんだァ?綺麗な姉ちゃんじゃねえか。どうしたんだ。」

「褒めてくれてありがとう。実はね、私たち度のものなんだけど宿がないのよ。どこかいいところは無いかしら?」

「あるぞ!エイダの酒場宿だな!ここは踊り子が踊っていて、宿が併設してある人気のところだ。」


宿と酒屋か、めっちゃいいじゃん!

あ、でもそっか……寒いから建物複合してるのか。

これも雪国の営業戦略と言うやつかな。


「ほお〜……久しぶりの居酒屋だな。」

「いや、エレノアあなたは普段から飲んでんでしょう。」

昨日もビールをたんまりと飲んでいた。

樽ごと飲んでいたのに次の日も飲み足りないとはさすがビーツ野郎。

とりあえず私たちはエイダの酒場に行くことにした。



☆☆


エイダの酒場はとても大きなところだった。

私は昔言った渋谷のクラブを思い出すな〜。

私が友達とバニーガールの格好をしてテキーラ貰ったんだっけ。


「かぁ〜!うめえ!やっぱビール最高だな!」

エレノアは既にジョッキを8杯ほど飲んでいた。

酒豪にも程があるわね。


ちなみにヴァルトハルトは向かいの席でゆっくりとワインを飲んでいた。

「上手いな……このワイン。」

「ヴァルトハルトもワイン好きよね。私ワインはよくわからないのよね。」


ワインはキャバ嬢だったのでシャンパンを飲むだけだったけどドンペリとか名前はわかるけど味は美味しいとかその概念は少し難しい。

「ワインはブドウの品種によって香りや味が異なるんだ。そっからは醸造によって味がかわったりする。」

「例えば?」

「話すと長くなるけど……醸造で樽を使うと木の香りがしたりするんですよ。他にも醸造が長くなると味がまろやかになる。これを美味いと評価されることが多いですよ。」

ヴァルトハルトは勉強をよくしてるから私には少し分からなかった。

ワインもいつかは勉強できる日があるのかな。


「そういえばネヴァロスは?」

「未成年だと思われて入店を断られました。今は宿部屋で本を読んでるとのことですよ。」


まあ、そりゃそうね。

パッと見未成年に見えるんですもの。

ちょっといじけてる姿が思い浮かぶな……。

あとでお酒持っていこうかな。

そんな時だった。


「おおおおー!」

突如として一斉に歓声が溢れた。


「え、なに?」

「もしかして噂の踊り子ですかね。」

中心にはダンスホールがあって中心には女性が踊っていた。

踊りは中華の舞のような動きをしている。

まるで蝶のようだった。


「すごい……。」

なんて体幹と柔軟性なんだろう。

私も昔はクラシックバレエの先生をしていたから凄くわかる。

あれは並大抵の人がなれる練度じゃない。

それに……

「音楽と一体化になっている。」

集中力が極限まで行くと人というのは初めて曲と……会場と、自分と一体となって空気を自分のものにしていくのだ。


私もそこまでは行けたことは無いな……。

そう、たとえば白鳥の湖はこんな感じに体を動かす。

キレの良い動きと緩急をつけて……。

気がついたら私は昔踊った白鳥の湖を何となく舞っていた。

そう、確かこうやって回転は片足で…無駄なく回る。


そしてフィニッシュはキッチリと止まる……。

白鳥の湖の真髄は緩急である。

つい、踊りすぎちゃったな。音楽無視して場違いな感じに踊っちゃったな。でもちょっと昔を思い出した。

異世界に行っても私の心はかわらない。

それだけでもちょっと良かったよ。


パチパチ……

すると拍手が後ろから流れた。

後ろを振り向くと先程の踊り子がいた。


「ブラボー!素敵な踊りね。」

「え……。」

「ねえ、私と踊らない?」

「え、でも私バレエしか……。」

「こんだけ素敵な舞がおどれるのなら、行けるはずよ私はあなたと踊りたい。」


踊り子は私と2人で舞を舞う。

最初はぎこちないけど、2人の動きが自然とシンクロをする。

「いい感じ!あなた最高だわ!」

これは……私の動きに合わせてくれて、次の動きをリードしてくれてるんだ。

すごい、この人は天才だわ。


徐々に後ろのバンドも曲のBPMをあげてボルテージは最高潮に上がっていく私の動きもどんどん激しくなっていった。

そして、徐々に音楽はフィニッシュへと近づいていく。


終わりを終える頃には2人は華麗なポーズでフィニッシュを迎えることが出来た。


すると……空気が1度静まり返った……。

しまった、少し出過ぎてしまったかな……。


「すげえ!踊り子のティナと一緒に踊れるやつがいるなんて!」

「姉ちゃん!すげー演技だった!おい!ウォッカをくれ!」

周りは大盛り上がりだった。

さっき以上の歓声と拍手と酒で賑わっている。


凄いな……人を感動させるってこんなに素晴らしいんだな。

私、バレエやっててほんとに良かった。

元いた世界の私が教えてた生徒も元気にしてるかな。


「ティナよ。あなたは?」

「わたしはアイリス。」


ダンスを終えると、私とティナは晩酌を交わしていた。

「ねえ、ティナはウォッカをストレートに飲むのね。」

「そうよ、雪国の文化は体を温めるためにウォッカを飲むのよ。」

「へぇ〜すごいわね。」

「アイリスのお酒は?」

「私はこの国のウォッカをオレンジジュースで割ってスクリュードライバーにしてるわ。」

「そうなの。甘いのが好きなのね。」


なんというか、私はあまり女友達と深く接したことは無いのだけれど、ティナとは相性がいい気がする。

酒を飲む頻度も一緒で踊りや酒が好きなのも一緒だった。


「アイリス……あなたは冒険者?」

「そう!東の果てに行く旅に出てるのよ。」

「東?東は魔王ゴールドがいるって噂だわ?ファンキーなことしてるのね。」

「そうね〜かれこれもう半年近くは旅をしてるわ。」

「じゃあ強いのね?」

「いやいや、でも楽しい旅をしてるわよ。」

「じゃあ……私と手合わせしてみない?」


え、今なんて……。

この子戦うの?


「私……そこそこ強いわよ。」


大丈夫かな……、つい先日400メートルの化け物は倒してるから自信はないけどそこそこ強いはずなんだけど。


「大丈夫よ、私も多少は戦えるのよ。」


ティナは短剣を2つ構えた。

え、剣士?露出が多いから剣なんて危なくない?

彼女は舞台に跳躍して構えた。


舞を踊るようなキレのある動きをして蝶のように舞い蜂のように刺すとはこの動きを指すのかな。


「え、ほんと?やるの?」

「大丈夫、仮の手合わせよ。」


彼女は一気に詰め寄り刀を振り上げた。

くっ!時飛ばし!

私は時間を止めた、世界は音までも停止をする。

私は一度様子を見る。

すると刀は私の首を20cmより短くなっていた。


は……早くない?

刀を躱して体制を整える。

しかし、上を見ると違和感に気がついたら。


「え、上……?」


上を見ると短剣が幾つも私を目掛けていた。

11本ほどの短剣がこちらを向けていた。

え、いつの間に投げていたの!?


時間は動き出す。

刀は幾つも降り掛かっていた。

シールド魔法でガードをするも何本も間に合わずに私を切りつけた。


いた……!

なんなのこの子、強すぎる!

私は炎魔法で迎撃をするけど既にティナはいなかった。

え……ティナはどこに行ったの?

しまった、時飛ばしは最低でも1分はインターバルをとらないともう一度使うことは出来ない……!


すると後ろから衝撃が走る!

2、3発は切られた。


「なんなのよ!もう!」


体は負担がかかるけど無理やり時飛ばしをする。

辛うじて相手を捉えることが出来たので相手の行先に水弾をしかける。初速が早いしダメージは与えられるはず!


私はめいっぱいの魔法と速度をかけて撃った。


時は動き出す。


しかしティナはそれも予測し、より素早い動きで紙一重で躱す。

彼女は何人かに分裂したように見えて私に連続の斬撃を繰り出した。


「う……そ……。」


私の意識はどんどんと遠のいて、辺りはどんどんと暗くなっていく。

まさか、負けちゃったか。


☆☆


「お、気がついた。」

目を覚ますとエレノアたち3人が私のベッドの前で座っていた。


「私……何してたんだっけ。」

「ビックリしましたよ、いきなり踊り子とやり合うんですから。」


ぼんやりとした気持ちからすっと記憶を思い出す。

そうだ、私はティナにやられたんだった。

凄く速い動きで私はどうすることも出来なかった。


「あれ、何だったんだろうね。」

「そうですね……、アイリスの時飛ばしで動きは早かったんですけど、ティナはどんどん早くなってきて徐々に圧倒していきました。」

「ってことはあの動きは……。」

「加速、とでもいうべきでしょうか。踊り子は基本的に仲間をサポートしたりする職業なのに切りながら舞ってました。」


3人は腕を組んで考えるとネヴァロスはポンっと手を鳴らした。


「まとめると、ユニークスキルの加速と連続攻撃の剣の舞、そして刀の投げるキラージャグリングを使ってるて事みたいだね。他にも色んなものを持っているのかもしれない。」

「せいか〜い♡やるじゃんエルフくん!」


パチパチ……と拍手が聞こえた。

後ろを振り向いた、聞き覚えのあるこえだった。


「ティナ!」

「アイリス……あなたの時飛ばしとても面白かったわよ。私もユニークスキルのワイルドセンスを使わなかったら魔法が当たっていたわ。私……攻撃はほとんど当たらないんだけど1発でも当たると負けちゃうのよ。」


楽しそうに拍手をして近づく。

ゆったり……2歩、3歩と近づいていった。


「てめぇ!」

「アイリスには近付けさせません!」


エレノアとヴァルトハルトが止める。

しかし彼女は歩く。


「いい男たちに包まれて幸せそうね?私の加速は早いけど初速はそんなに早くないのよ。安心してよ戦意は無いわ。」


彼女は2人をさっと躱して私の前に立つ。

なんて速さなの。


「ねえ、ティナだっけ。君どうやら人間じゃないみたいだね。耳はとがってないみたいだし、異形は無いみたいだけど何者なのかな?」

「おー?珍しい子ね!エルフなんてまだこの世にいたのね!ヴァルドリウスのせいで大量絶滅をしたからもう居ないかと思ったわ。」


なんと彼女は私たちが先日倒した魔竜ヴァルドリウスの名前も知っていた。

本当に只者じゃないかもしれない。


「まあ、端的に言うと人間と悪魔の混血児、ハーフデビルってところかしら?あ、でも歳は24だから長命では無いから安心して?」


彼女は自らをハーフデビルと名乗っていた。

つまりは彼女は魔族なのである。


「もし、私がゴールドのことも知っていたらどうかな?欲しいわよね。」


彼女は気品のある笑顔でこちらを向けた。


「ねえ、あなた魔族側なら私を殺さないの?さっきから殺意が見えないんだけど。」

「あなたが五大魔を倒してるのは知ってる。だって私は最年少最短でゴールドに五大魔に選ばれたのですもの。でもあなたのことが好きだから殺すのは惜しい。」


「ゴールド……呼び捨てだねぇ。他の五大魔は様呼びなのに。」


すると、ティナは少し顔を曇らせた。


「私……ゴールドのこと好きじゃないの。だから言うことも聞かない。私は踊って喜ぶ人が好きなのよ。

でも、一応役割だからあなたと対峙しなければならない。言ってる意味……分かるわよね?」


少し、彼女の心情がわかってきた。

彼女は戦闘の意思は無いけど仕方なく役割を果たしているだけなのだ。

私は彼女に勝たなければならない。

「明日、街の広場で私と全力で闘いなさい。」


☆☆

「なあ、どうする?俺たちで求められなかったぞ。」

「やるしかないじゃない。」

「あ?無策かよ……。あんなのどうやって戦えばいいのか見当もつかないぞ。」


珍しくエレノアも困惑の顔を見せていた。

ティナは早く恐らく4人で正攻法で言っても物理的に負けてしまう。

「特に加速が厄介だなら基本的に攻撃が当たらないのなら埒が明かないぜ。」

「私の仁王立ちで攻撃を集めるのはどうでしょうか?」

「んー、だめかも。後ろに回り込まれる可能性が高い。」

「僕の竜化ブレスも当たらないかな。」

「ワイルドセンスを1度使わせるのにはいいかも。」


しばらく私たちは考え込んだがなかなか攻略は難しかった。

すると、私たちの足元を黒い何かが過ぎ去った。

「きゃっ!?」


そう、これは見慣れたアレだった。

黒光りしていて、物凄い速さで走るあの不快害虫である。宿のくせにゴキブリがいるなんて最悪よ!


私は新聞紙を丸めたり反射神経で倒す事は出来なかった。

だから私のやる手としてはひとつだった。

そう、早く動かなくても倒せるあの方法が。

あれ、今回の敵も早く予測不能の動きをするところは共通をしている。


すると、私はひとつの閃きにたどり着いた。

「……もしかしたら、ティナの倒し方わかったかも。」

「「「え??」」」


私達は円となってコソコソと作戦会議に乗り出すことになった。

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