ダリア〜栄華
ここは魔法都市ルミナリエ。
至る所には学術研究所があり、中心には世界樹をくり抜いて図書館のある大きな街。
私たちはそこでネヴァロスと手合わせをしてヴァルドリウスというとてつもないモンスターと戦うことになった。
しかしながらこちらの戦力では太刀打ち出来ないかもしれないということでしばらくこの島に滞在し、私たちは修行をネヴァロスに手伝ってもらうことにした。
「ねえ、ネヴァロス?」
「どうしたのさ、アイリス?」
「2人は体を鍛えてるけど私だけなんで瞑想ばかりしてるの?」
エレノアは太刀筋の矯正とネヴァロスの作った精霊の攻撃を見切る練習をしていた。
ヴァルトハルトは光魔法を限界まで放出しては休むの繰り返しをしていて、以下にもやってることは修行っぽい。
私もパッと見は修行をしているように見えるが目を閉じるだけで退屈になってしまうのだ。
「ふむ…、アイリスは2人に比べて特異な存在かなと思ったんだけどね。難しかったかな。」
ネヴァロスは基本的に真顔が多いので何を考えてるか分からない。不気味と感じてしまうくらいだった。
「アイリスはユニークスキルで魔力は解放されてるんだけど精神がそこまで鍛えられてないんだよ。」
「どういうこと?」
「魔力をいくらでも打ち続けることが出来るのと無理やり魔力を放出してるから正しい撃ち方が精神からなるものだと理解しきれてないんだよ。いくら上位呪文をたくさん撃っても雑念が多いと魔力が雑念に分散されちゃってるんだ。」
確かにネヴァロスの言ってる事には筋が通ってる。
魔力の回復が早いとはいえ、最近は魔法が決定打になっていないことに違和感を感じてはいた。
「たとえば…だよ?水を飛ばす魔法を今からやるね。」
「それは私にもできるわよ。」
「そう、基本的には誰でも出来るつまらない技だ。でも今の話は集中すれば魔法の質があげられるという話だ。」
ネヴァロスからチョロリと水が垂れる。
威力もなく量もとてもない魔法である。
「じゃあ、水の事だけに意識と魔力を集中して撃つと…はぁ。」
ひゅんっと目にも見えないものが風を切ると大岩が木っ端微塵に砕け散った。
「え。」
何が起こったの?威力が桁違いじゃない。
「海の底に行ったことはあるかい?そこはとてつもない圧力で水を圧縮しているんだ。鉄でさえもぐちゃぐちゃになるほどにね…、それを空気で撃つと水は砲丸に早変わりしてしまうんだ。君にはこれをできるようになってもらう。」
改めて目の前の少年の恐ろしさを肌で実感する。
水を出すだけの魔法だと思ったら意識次第ではこんなに威力が出てしまうのか。
「じゃあ次の修行をしてもらうよ。」
☆☆
「はあ…はあ…ちょ、待って…!」
次の訓練はネヴァロスとのランニングだった。
「ほら、早く走らなくていいからペースをきちんと作ってみて!魔法使いは基本的に魔法がないのも想定して身体を鍛えるんだ!それに体力はなにごとの資本にもなる!体力と集中力を意識して!」
ネヴァロスは軽々と走りながら喋った。
ちょ…待ってよどこからそんな体力出てくるのよ。
「はあ…はあ…おいおい、へばってないか?ビーツ野郎。」
「ああん!?てめぇこそ足元がおぼつかないぞ鎧やろう…脱がしてやろうか?」
ちなみにヴァルトハルトとエレノアもランニングには参加をする。
どうやら全体的に体力は無いものだと思われてるみたいだ。
そ…それにしてもキツすぎる走るだなんて何時ぶりだろう。
学校のマラソンは上位にいたけど走るの嫌いだったから早めに終わらしたくらいなのに…!
こんな感じでネヴァロスは中々ハードの修行をつけられることになった。
☆☆
それから1ヶ月は反復で同じ修行をしていた。
私は瞑想とランニングをひたすらやる。
それまでは一切の魔法の放出は許されたなかった。
とにかくキツかったが2週間もすると慣れてくる。
それどころか走るのになれて少し気持ち良さでさえ感じたくらいだった。
それにしてもあと2ヶ月なのにこんな基礎的なことで大丈夫なのだろうか?
「アイリス。1ヶ月よく着いてきてくれたね。」
「お陰様で走ることが昔より好きになったかな。」
「いい事だ。試しに水魔法撃ってみてよ。」
「えー!変わんないわよ。」
正直自信ない。普通魔力をあげるとか強いものと戦わないと強くなった実感がわかないからだ。
「いい?海の底から水を取り出して放出するイメージで撃ってごらん?」
「あなたほどは出ないわよ。…深海ね…ひぇ!??」
新幹線のようなスピードで水のたまが出ると1ヶ月前に見た水が岩を粉砕する光景が再現されてしまった。
「…できてる。」
私の魔力は飛躍していた、
身体も頑丈になったが魔法に対する集中力が上がっている。
「瞑想は純粋に雑念を捨てる訓練だ。身体に優先順位を覚えさせるようにしてみたよ。
ランニングは体力を付けるだけじゃなく、雑念を捨てて無心にさせるための近道だったんだ。」
驚いた。私こんなに強くなれるんだ。
これなら今までの敵なんてあっという間に蹴散らすことが出来る。
水魔法は基本だから他の魔法にも応用が効く。
「あなた、めちゃくちゃ凄いやつだったのね。」
「まあ、長い事生きて魔導書を読むと案外近道とは近くにあるものさ。」
ネヴァロスはふふんっと笑う。
子供みたいなところあるんだよな。
でも筋は通ってるしとても凄い。
「じゃあ次は、2人と組手をしてみるか。」
ネヴァロスは2人に対して構える。
以前はコンビネーションで無理やり耐えてたけどどうだろうか?
一気にネヴァロスはエレノアに近づき、正拳突きをする。
「よっ!」
余裕そうに見切りをして、ネヴァロスに1太刀をする。
ネヴァロスには深くは無いが切り傷ができていた。
「やるね。太刀筋に無駄がないから攻撃力が飛躍してるよ。」
「ああ、あんたにはかなり鍛えられたからなぁ。」
しかし、ネヴァロスは治癒魔法をしながら動くことが出来る。
器用なので魔法をためずとも撃つことができるのだ。
「いいね!じゃあ全力で攻撃するよ!」
雷をまとうかのようなオーラを放出し。上段の前蹴りをするが、エレノアは抜刀をしてタイミングをあわせて刀を抜いて2人はすれ違う。
「ぶはっ!……いいね、強くなってる。」
刀の幾つもの太刀筋が描かれたかと思うとネヴァロスには複数の切り跡が出来ていた。
「へへっ!新たなスキルが身についたぜ。もう俺一人でも戦えるんじゃないかな?」
「ふふん、調子に乗るのはまだ早いかな……。」
ネヴァロスは指をあげると沢山の剣が生成されてエレノアめがけてきた。
「お!?おいおい!それは反則だぞ!」
流石のエレノアも焦りながら剣を刀で捌く……。
それでも反射神経は鍛えられているのが分かる。
「じゃあこれならどうかな!ぐおお……」
ネヴァロスは魔力を解放すると、紫の魔力が身を包み中から緑の竜が現れた。
「え、竜魔法もつかえるのかよ!ありゃあ禁術の古代魔法だぜ!」
「ふっふっふ……、君にも少し本気を使わないと失礼かと思ってさ!是非とも味わってみてよ!」
ネヴァロス竜は息を吸い込むと、勢いよく街を壊してしまいそうな炎のブレスを吐いた。
50メートルほどの炎の波が私たちを目掛ける。
「え、ちょっとこれやばいんじゃ……。」
「うおおおいい!これは物理的に無理だぞ!?加減!加減しろバカ!」
ちょっと……これ死ぬんじゃないの!?
私とエレノアな避難を始めていた。
「ふんっ、こんな炎……。」
するとヴァルトハルトは盾を構え向かっていた。
「ヴァルトハルト!やばいわよあれは!」
「無茶するな!逃げろ!」
「はああ……!」
ヴァルトハルトが仁王立ちをすると炎は全てヴァルトハルトに向かいだす。
それでも炎がヴァルトハルトに集中するだけなので食らったら一溜りもない。
「逃げて!ヴァルトハルト!」
「こんなもの……こんなもの!!」
すると炎の並がヴァルトハルトにぶつかると徐々にそれがヴァルトハルトの盾の中に吸収されて炎が無くなった。
「名ずけて……悪食とでも言うべきかな。」
眩い光がヴァルトハルトを包み込むと、その光はヴァルトハルトの槍に凝縮された。
「そしてこれが……お返しだァ!」
光の槍が緑のドラゴンを吹き飛ばすと、雲をつきぬけてその一帯が晴れてしまっていた。
光が通り過ぎさると、元の姿になりボロボロになったネヴァロスが治癒魔法で体を治しながら降りてきた。
「うん、少しやりすぎかなとおもったけどどうやら大丈夫みたいだね。」
「鎧やろういつの間にこんなユニークスキルを覚えやがった。」
え、今のユニークスキルなの?
確かサファイアで覚えるものじゃなかったかな。
「いいね、君は光魔法を放出し続けて疲弊させて貪食になってもらったけど狙い通りユニークスキルに目覚めてたんだね。1番成長したのは君だよヴァルトハルト。」
「ふふん、とてもよい修行だった。まさかユニークスキルは自分で拓けるというのもすごい発見だな。」
どうやら2人のやり取りから察するに訓練次第でユニークスキルが発言するみたいだった。
「もちろん、2人にもユニークスキルを取得してもらうよ。とはいったもののアイリスは既に半分発現してるようなものだけれどね。」
「え?私?」
どうだろう。魔力と筋力はたしかに上がってるように見えたけど特殊能力なんてほとんど分からなかったな。
だがネヴァロスはふふっと笑いながら全てを見すえてるようだった。
「さっき僕の業火の終焉から逃げてる時……2人は一斉に走ったはずなのにアイリスがエレノアよりも5メートルもさきにすすんでいたんだよ。」
走ってから今の位置に気づくと確かに私の方がエレノアよりも先に走ってる。
足の速さならエレノアのほうが早いのにだ。
「ほんとだ。なんででしょう、気づかなかったわ。」
「おい、こりゃあどういうことだ?なんでアイリスが先に動いてたりするんだ?」
「これはね……時飛ばしとでも言うべきかな。逃げてる時に無意識に数秒だけ時間を飛ばして数歩はやく行動ができてるんだよ。」
本当に時飛ばしというものがあれば恐ろしい能力だ。
本の数秒でも将棋で言うと一手多く行動してるのだから。
「ユニークスキルっていうのは本人の過去に起因するものが多いんだよ。トラウマとか成功体験でもなんでもいい。君は過去にかなり追い詰められていたこととかあるかい?」
「……あるわ。」
ハッとする。過去にDVを受けてた時に私の時は止まっていたように感じた。身体というか精神の回復もとても遅くもどかしく感じたことがあった。
「君はトラウマが多いみたいだからね……でもそれはひとつの才能でもある。向き合えば無敵になっていける素晴らしい体験をしたんだ。」
ネヴァロスは手を差し伸べた!
「……やめて、そんなろくな経験はしてないわ。」
私は過去を思い出すと腸が煮えくり返りそうになる。
私をおいつめて時間と金を奪った男に対する憎悪が止まらなくなる。
こんなもの何も産まないとわかっているのに頭が痛くなる。
すると、私の肩を誰かポンッと叩いた。
私はハッとする。
「少しこいつと2人にしてやれないか?」
エレノアはそういい、私の手を引っ張った。
引っ張るといっても足の速さは私に合わせてあるし、手を引っ張るのもとても優しい。
「……大丈夫か?すげー怖い顔してたぞ。」
「ちょっと嫌なこと思い出しちゃった。」
「だろうな、もう半年くらい一緒にいるから少しはお前のことも理解してはいるつもりだ。」
「ごめん、心配かけたね。」
きっとエレノアは私に気を使っているのだ。
あのままだと私も過去を思い出してパニックになっていたのかもしれない。
そこも汲んでいるのだ。
普段は酒しか飲まないがこういった時のエレノアは誰よりも優しい。
「過去を変えるのはすげー難しいからさ、思い出すといつまでも苦しいもんだ。」
「何が言いたいのよ。」
「俺も過去の失敗やトラウマなんていくらでもある。あの時なんでこうしなかったんだ!とか今でも悔やむこともあるもんだ。」
エレノアの過去はあまり私はしらない。
だけれどもきっと……若い青年が酒に酔うのも理由があるのだ。
「俺も昔な……すげー好きな人がいたんだよ。弱かった俺をいつも助けてくれてた。俺に生きる意味をくれたんだ。でもな……その人はある日一緒にいた男の日頃の罵倒や暴力に耐えきれなくなって自害しちまったんだよ。おれは話を聞いてあげることしか出来なかった。もっと俺にあの子に対して覚悟を持って接してあげればあんな事にならなかったなってさ……。」
エレノアはいつになく真剣な顔だった。
いつも死んだ魚のような目をして前を見てるのか分からないのに。
「俺はそれから数年間ずっと廃人のような酒を飲んでは賞金首を狩る生活をしていた。目標もなくただ生きることしか出来なかった。その時お前に出会ったんだよ。」
エレノアはポンっと肩に手を置いた。
いつもの少し子供っぽさが入り交じったような食えない顔だ。
「お前はな……似てたんだよ。あの時守れなかった人とよーくな。だからお前を見て俺は贖罪もあるが今度こそ人を守るって目標ができたんだよ。なあ、アイリス……過去に何かあったかは知らねぇ、でも一緒に未来は変えられるんだよ。一緒歩こうぜ。」
エレノアは私を抱きしめた。
少し背の高く、筋肉質の強い体だった。
なによりも温かかった。
「……ありがとう、もういいわ修行に戻りましょ。」
それから私たちはまた修行に戻った。
☆☆
それから、2ヶ月の歳月が経った。
今日は決戦の日…ヴァルドリウスの目覚めの日だった。
「いよいよだね。みんなよくやった。100年以上も鍛錬をした僕にたった数ヶ月で追いつき出したからやっぱり君たちは天才だよ。」
色々あった。
とにかく鍛えては魔法を叩き込まれ、実践をしてボロボロの日々だった。
でも何故だろうとても心が晴れやかなのである。
「ネヴァロスもここまでありがとうね。お陰様でこんなにも強くなれたわ。」
「私もルーベンハイムに居た頃で強さは限界かと思ったがここまで自分の可能性に気づけたのも驚きだった。」
「そうだね、みんな噂通りの凄まじいポテンシャルを持っていて教えてて楽しかったよ。
それじゃあ、今回の戦いを説明するね。ヴァルドリウスは世界樹を破って出てくるだろう……それに今までの敵よりも遥かに大きい。きっと大暴れすれば島そのものが無くなってしまうだろう。」
「ちなみに今回ヴァルドリウスってやつはどれくらい大きいのかしら?」
「ざっと300メートルの大きさを持ってるわ。」
え?300メートル?ゴジラなの?
「……ねえ、勝算はあるのかしら?」
戦車とかで戦ってもやばそうなのにそんな敵と戦うのは腰が引けるほど恐ろしい。
「勝算はあるよ。大きい分動きが遅いからねえ。
それに今回は、極大の魔力砲を事前に用意させてもらったよ。」
「魔力砲!?」
すると、魔法陣と一緒に20メートルほどの極大の大砲が現れた。
横には細かく魔法陣のようなものが掘ってあり、ミスリル銀が施されていた。
「これは古代龍から取れた燃料をつかって魔力そのもので動かす大砲だ。これをアイリスに打ち込んでもらう。そして、牽制としてエレノアの剣術、炎のブレスはヴァルトハルトの暴食スキルと仁王立ちで防いでもらう。僕は竜の呪文でブレスとかで注意を引きつけるよ。」
要は様々な兵器を使って相手を撹乱して最後にこの大砲で倒すという戦法である。
「わかったわ、住人の避難はどうなの?」
「こちらはギルドに伝えて既に避難勧告を出している。ネヴァロスだけだとみんな怖がって信じないからな。」
「大砲はどれくらいで撃てるの?」
「大体5分魔力を解放すれば充填完了だ。すぐ発射する。……おっと、もう目覚めみたいだね……。」
広場の図書館が少しずつ盛り上がると、あっという間に山ができ大地が徐々に割れだすと中から石炭を覆ったような恐ろしい魔物が現れた。
「きゃー!なんだありゃ!?」
「怪獣よ!怪獣が現れたわ!?」
住人たちの指さす方向には400メートルほどの巨大な恐竜のような見た目をした龍が二足歩行で少し猫背のような姿勢でいる。
その様子は魔物と言うには荒々しくも神々しかった。
「ついに目覚めの時が来たか。
忌まわしい世界樹と女神の封印も最早これまで……。」
声は恐ろしいほど低く大地のうねりと共に聞こえてきた。
「やあ、ヴァルドリウス……久しぶりだねえ。大きくなったかい?」
「貴様は……我が弟ネヴァロス。かなり大人になったな。」
ネヴァロスが突如話しかける。
え、弟!?いやいや確かに竜にはなれるけど……。
「まさか、貴様だけが生き残っているとはな……あとのエルフは全て絶滅したようだが。」
「そう、みんな死んじゃった。かつてはエルフの島だったはずなのに兄さんが力欲しさにサファイアを、大量に手に入れて暴走するかだよ。」
「ふっふっふ……ゴールド様より寵愛を受け私はついに力を手に入れた。どうやらウジ虫を何びきか集めたようだが私には勝てぬ!」
巨龍はオーラを全開にし、火蓋が切って落とされる。
それを合図にエレノアが抜刀し閃光とともに巨大な一太刀を浴びせる。
「ぐおおおおおお!?」
「なーに……デカイだけで肉質はそこまで固くは無いなぁ。ネヴァロス、とにかく切ればいいんだよな!」
「ご名答、ヴァルドリウスはまだ全開じゃあない!だから速やかにとどめを刺すんだよ。」
ネヴァロスも魔法陣とともに50メートル程の緑龍へと姿を変えて巨龍にブレスを浴びせる。
「はぁ……!」
私も巨龍の周りに魔法陣を仕掛け、呪文の準備をする。
「穿て!水砲!」
海底の水弾をあびせると、爆発音とともに8発の穴ができていたが少しずつ穴が塞がり始めていた。
「ぬぅ……私が眠っている間にここまで力をつけるとは……だが。」
龍は息を貯めると煙が大量に流れ、それが炎になり、徐々に凝縮されてレーザーへと変わっていった。
「嘘っ!?あんなのあり!?」
こんなのダメージなんてものではない、即死だ。
レーザーが地面を抉りながら真っ直ぐ下から私たちへと飛んできた。
「ここで私の出番なわけだ……、はぁ!悪食の盾!」
ヴァルトハルトがレーザーを自分に集中させ、光の魔法で中和して吸収する。
「なに……薙ぎ払えぬ……奇妙な技だ。」
ブレスとヴァルトハルトは2分ほどぶつかり合って、巨龍が疲れてブレスを辞めた。
「大丈夫!?ヴァルトハルト!」
「ああ……だが威力が強すぎて吸収は出来なかったからほとんど魔力を使い切ってしまった。」
「鎧野郎でも止まらねえのか……。」
「今回ばかりは弱音を吐かせてもらうよビーツ野郎。」
珍しく煽りをしないってことはエレノアも危機感を感じている。
体制を整えている間に竜ネヴァロスはブレスを吐きながら牽制をして空中戦をしている。
「やっぱり……終わりなんだ。」
後ろから声が聞こえてハッとする。
きがついたら後ろには一般人たちがこちらを見守っていた。
だが、目は絶望をしている。
恐ろしいほどの強敵に叶わないと嘆いていた。
「みんな!諦めるのは早いわ!」
「んなこたぁ言ってってな……お嬢ちゃん。もう街も壊滅的だ、お嬢ちゃんたちもボロボロじゃねえか!」
ベストを着た一般人がそう私を説得した。
そう、傍から見ればこちらが不利で勝ち目のない戦いだ。
「私たちは諦めない!絶対にもう負けないって決めたから!ここでまけたら私たちは何もすすめなくなる!」
私が一括すると、エレノアとヴァルトハルトが私の肩をポンッと叩いて前に出た。
「よく言った!それでこそアイリスだ!」
「ここでの3ヶ月……ここでぶちかましましょう!」
そう言うと2人は的にめがけて跳躍をする。
エレノアは雷魔法を刀にまとい、ヴァルトハルトは光の魔法を槍へとこめて同じ感覚で構えをとる。
私も魔力砲に力を込めないと……、きっとあと5分で決着が着くはず。2人が傷をつけたところにこの魔力砲をぶち込んでやつにトドメを刺さなければネヴァロスの言った通りやつはサファイアを幾つも吸収をしてるからとてつもない成長をしてしまう。
どうしてこんな序盤にヤバいやつと戦うことになるのだろう。
きっとこれはほとんど終盤で戦う敵だ。
「行くぞ!ビーツ野郎!」
「遅れをとるなよ、鎧野郎!」
「「はああああ!終戦の十字架!!」」
その掛け声とともに龍に光と雷の十字架が切り裂き、巨龍から滝のような血が流れ出す。
すごい!めちゃくちゃ効いている!
「俺の剣技の方が強かった!」
「いいや!私の方が強い!」
2人は落下しながら喧嘩をする。
ちょっと……2人ともせめて最後までかっこよく居てよ。
「なんだと!?今ここで決着……うぉ!?」
するとヴァルトハルトを龍の爪が被さり……吹き飛ばされる。
「鎧野郎!くっ!」
次にエレノアを襲うが紙一重でよけて腕を切りつけた。
流石はカウンター得意なエレノア、とはいえヴァルトハルトが心配だ……。
「必殺の一撃だったが油断した……強いなあの龍。」
瓦礫からヴァルトハルトが起き上がった。
どうやらこちらに飛ばされただけだったようだ。
「ぐるるる……小賢しい……なにもかも無に帰してやろう。私はゴールドを殺し真の魔王へとなるのだ。」
龍は炎を貯めると余りのパワーにまわりの空間が歪み出していた。
ちょっと……これやばいんじゃない?
魔力砲全然たまらないじゃない!
「そこで何やら小細工をしているようだが、こちらを攻撃すれば貴様らは決定打はないようだな。」
不味い、バレている。
「させないよ。ぐおおおおお!!」
ネヴァロスが体当たりをするが体格が大きいので少しグラつく程度だった。
ヴァルドリウスはネヴァロスの尻尾をつかみ、地面へと叩き潰した。
「……あはは……はは。どうやらこっちも戦闘不能みたい。」
ネヴァロスの体は緑龍から元の華奢なエルフへと姿が戻り一気に劣勢と化す。
やばい……くる!
「終わりだ……滅べ。」
そう言うとまたヴァルドリウスから熱線がこちらへと真っ直ぐ飛んでいく、これは時飛ばしで避けることはできるけど街ごと消えてしまう。
それだけは絶対にできない。
だが、そう考えてるうちに熱線が私に襲いかかってきた。
ああ、これが死なんだ。
「あれ、まだ生きてる。」
光は少し前のところで留まり、その先に男がいた。
あれは……ヴァルトハルト?
「ヴァルトハルト!あなたもう悪食は使えないはずじゃあ!」
「ぐ……ぐぐ。私でないと守ることができないのでな。早く……魔力砲を……撃ってくれ。」
「やってるわよ!でも……まだ魔力が動かないの!」
魔力はあと少しなのにまだ発射出来るほど充填はされてなかった。
どうして……早くして欲しいのに。
額から汗が止まらない。すごく吐きそうだ。
早くしないとヴァルトハルトが死んじゃうのに……誰か……。
「お嬢ちゃん、これに魔力を与えればいいのか?」
「え?」
後ろから声が聞こえる。
「こうか?」
次々声が聞こえる。
後ろを見ると魔法使いたちが魔力砲に魔力を込めるのを手伝ってくれていた。
「みなさん!」
「俺たちはお嬢ちゃんたちに勇気を貰ったよ。俺たちの島だって言うのにこんなにも必死に戦ってくれてさ……俺たちにも手伝わせてくれないか?
魔力が必要なんだろ?幸い……この島は魔法で栄華を作り出した国だ。」
何十人もの魔法使いが魔力砲に魔力を込めると比べ物にならないくらいのスピードで魔力が充填されていく。
すごい、これならすぐにでも……。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!」
ヴァルトハルトが悲鳴をあげると盾は大きく融解し始めて左手が少し炎で焼けていた。
大変!このままだと5秒も持たない。
「時飛ばし!!」
風がやみ、光が止まり、音が消える。
世界の時が一時的にだが止まり出す。
つくづく恐ろしく最強の能力だと思う。
だが、私の時飛ばしは10秒程度で動き出してしまう。
でも十分だ。やつを殺すのに10秒は要らない。
魔力砲の砲撃を魔力で放出をすると、中からやつのブレスよりも大きなエネルギー砲がやつの胴体めがけて飛んでいきヴァルドリウスにぶつかった。
そして……時は動き出す。
「ぐおお!?こ……これは!?さっきまで何も無かったのに!?」
「いっけええええええええ!!」
「ば……馬鹿な、全ての頂点に立つ……この私が……この私があああー!!」
断末魔と共に巨龍の上半身はレーザーと共に吹き飛んでしまった。
「やった……やったぞ!勝ったんだ!俺たち……!」
住人たちは全てが終わりみなが安堵し、騒ぎ立てるものさえいる。
私だけが焦燥に駆られていた。
「ヴァルトハルト……ヴァルトハルト!!」
そう、ヴァルトハルトはほとんどレーザーを食らって瀕死だった。
「なんであんな無茶をしたの!」
「ははは……大事な君を守れて幸せだな……。」
「ふざけないで!」
いつもは力強いヴァルトハルトの手はとても弱々しかった。
体もほとんどボロボロである。
「おい!何へばろうとしてるんだヴァルトハルト!」
珍しくエレノアもヴァルトハルトを鎧野郎とよばない。
珍しく焦っているのだ。
「私の役目は……民を……仲間を守ることだから……やく……めを……はたせた。」
「もういい!喋るな!」
「くっ……私の治癒魔法じゃあ全然回復しない!」
さっきから治癒魔法を使っているがブレスに毒があるのかどんどんダメージが大きくなっていた。
「アイ……リス……、君が……好き……だ。」
こんな時に何とんでもないこと言ってるのよ!そんな事もっと元気な時に言いなさいよ!
「わた……しの運命を……ぐはっ、変え……てくれて……たのしかった。あり……がとう。」
そういい、ヴァルトハルトの手から力が抜けていく。
「ヴァルトハルト……?ヴァルトハルト!!」
目は少しづつ濁り焦点が合わなくなってくる。
嫌よ!私が死ぬのはいいけど仲間が死ぬのは……無理。
街の喜ぶ声を尻目に私とエレノアはとても喜べなかった。
こんなの……酷すぎるよ。
「大丈夫だよ。彼を助けることは出来る!」
すると、その中で声が後ろからした。
後ろを振り向くとネヴァロスがニコニコしながらこっちに近づいてきた。
「酷くやられたみたいだね。」
「酷くっていうか……もう死んでるわよ。」
「通常……死んだ人間はこの世界は生き返らせることは出来ない。」
酷く辛い現実をネヴァロスは叩きつける。
感情が薄いネヴァロスだが、この時の彼の軽い声は私の胸を締め付けるくらい残酷に感じた。
「でも、彼には可能性がある。兄さんのサファイアだ。」
ネヴァロスから10個のサファイアが現れると、魔力でヴァルトハルトの上へと魔法で浮遊させていた。
「こいつを移植する……。何が起こるかは分からないけど彼の可能性を考えるともうこれしかない。」
サファイアは光り始め、ヴァルトハルトを包み込み、消失をした。
暫く沈黙がする。
すると……、ヴァルトハルトから白いオーラがしたから現れた。
「……これは?」
「加護の力かもしれない。」
10秒ほど光ると、光は収まりヴァルトハルトの瞼がゆっくりと開き出した。
「こ……ここは?」
「ヴァルトハルト……ヴァルトハルトー!」
私はヴァルトハルトを抱きしめ泣き出す。
奇跡だ、本当に死んじゃったかと思った。
「あ……アイリス……そんなに抱きしめられると……その、恥ずかしい。」
「うん、ごめん。」
「たまげたな。まさか暴走もなく生き返るとは。」
ネヴァロスは相変わらずリアクションは薄目だけど驚きを隠せないでいた。
「すまない、君が力尽きたのでサファイアを10個使わしてもらった。そしたら女神の加護が発現したみたいだね。」
「女神……?あ、ああそういえば体が徐々に治癒しているな。」
「良かった〜ヴァルトハルト〜!もう無茶すんなよマジで〜!」
私は少し子供っぽいが声を荒らげ泣き出してしまった。
「ああ、約束する……。」
「それにしてもお前アイリスに好きだって言っちまうのはドン引きだったぜ。」
「あ!?あ……あれはな、その……えーっと。」
「何?アイリスは遊びだったのか?」
「ち……ちがーう!やめろ!」
「……バカ。」
こうして私たちは島の事件を終わらせることになる。
私はこうして繋がりに感謝を強く感じた。
周辺には赤いダリアの花が気まぐれに風に揺られていた。