ルピナス〜貪欲
ここ、城塞都市ルーベンハイムはゴーレムの件が一段落し、復興を進められていた。
城壁もよく見るとかなり抉られていて今回の件がとても打撃だったことを示唆する。
「今回もお手柄だったな!俺たち。」
「いや、エレノアあなた酔っ払っていてほとんど攻撃いなしてるだけだったわよ……。」
「全く……こういう時だけは自分の手柄にするの好きだなビーツ野郎。」
「なんだと!てめぇこの鎧野郎!」
「はいはい……2人とも落ちいて。」
「ちっ!」
2人ともすぐ喧嘩をしてしまう。
これぞ犬猿の仲とでも言うのだろうか。
私こと魔法使いのアイリス(本名はあやか)と、赤髪の剣士エレノア、そして聖騎士ヴァルトハルトの一行はゴーレムの首謀であるシャドウを討伐し、これからギルドへ報告することになった。
「それにしても……なんで知られても無い魔物を倒しても実績として認められるの?」
ギルドは実績を直接見てないのに多額のお金をくれる。
これ、悪い人なら言っただけでお金をくすねることも出来るんじゃないかしら。
「実はギルドカードには倒したモンスターのソウルを1部すいとって記録することができるんですよ。ギルドカードは実績によって自然記録してくれるのでそこから読みとって実績の反映を行うような仕組みになってるんですよね。」
ヴァルトハルトが丁寧に説明してくれる。
なるほど、それなら仕組みが納得だわ。
「凄いわね、ギルドカードってなんでも出来るじゃない!通貨とかもギルドカードでまとめられるんですもの!これ作った人は天才だわ!」
これはSuicaとかそのレベルの発明である。
意外と異世界というものの現代ととても近い技術が存在する。
「ああ、なんでもこのギルドカード発明した人は別の世界からきたらしいぞ!なんでもトーキョーってところから来たとか。」
「東京!?」
かなり聞いた事のある街……というか私の知ってる世界じゃないの!
「ねえ、その人はどこにいるの!?」
エレノアとヴァルトハルトは困惑そうな表情を浮かべていた。
「あ、えーっと……だな、もう50年ほど前に亡くなってるぞ。」
「やっとこの技術も世界に流通しましたからねぇ……。」
え、そうなの?Suicaみたいなものをイメージ出来るってことは少なからず現代人かと思ったんだけど……、
もしかしたら転移する時代は一緒でも転移した先だと時代そのものは別々になってしまうのかもしれない。
少し落胆したけどもしかしたら私と同じような異世界人はどこかしらにいるのかもしれないね。
「まあ、一目お会いしたかったけど仕方ないわ。さて、ギルドはもう少しね。」
☆☆
私たちはギルドに到着したがとんでもない結果だった。
「はい、手続き完了です!えーっと……今回ゴーレム事件の解決ということで国からの謝礼金、そしてユニークモンスターの討伐などなど含めまして……金貨300枚を贈呈します!ギルドからも感謝致します!」
想像以上の実績だった。
金額にして3000万円ほどの金額になっている。
私たちは巷でも有名な金持ちの仲間入りだった。
え、こんなにお金あって冒険するって結構やばくない?
「もう俺たち完全に英雄だな。今日は飲むぞー!」
「おい、飲みすぎるなビーツ野郎!お前と言うやつは……。」
「なんだと……!この鎧野郎……!」
後ろで2人が勝手に喧嘩してるがそれも頭に入らないくらい私は呆然としていた。
300万失って死のうとしてたのがバカみたいね。
でも、悪くない気分だ。
「じゃあ2人とも……船出の準備ね!」
☆☆
ヴァルトハルトが退職の手続きがあるとの事で今はエレノアと港でにいったがここに来てとんでもないことになった。
「え!?船が出せない!?」
そう、近年海の魔物や海賊などの影響でここから先は船を旅客船は客にリスクを出せないとの事だったんだ。
「そうなんだ、ごめんなお客さん。うちらも観光局から出てるから安易にリスクは取れないんだ。」
私たちの旅路はここで遮られてしまった。
この世界は島が沢山あるので陸路はほとんどない……つまり船が必要なんだ。
「こりゃあ参ったな。どうする?」
「いやどうするって……船が出せないのよ?」
「だったら……いっその事買っちまったら?」
「あ、そうじゃん。」
ハッと思い出したのだが私たちはお金を沢山持ってるんだった。
これを使わない手は無い。
「そしたら市場にいかなきゃね!船を買いに行きましょ!」
こうして私たちは造船所のある市場に向かうことになった。
☆☆
造船所には船が並べられていた。
大体中世の木造のものがほとんどで現代を経験してる私にはとてもレトロに感じた。
「すごい……これはワクワクするわ。」
そう、自分の船を手に入れるなんて夢に見た事か。
叶わぬ夢がひとつ叶いそうになるのだ。
「お、あんた船を探してるのかい?」
筋肉質のオレンジのバンダナを被った大男が話しかけてきた。おお……以下にも船大工と言わんばかりの見た目をしている。
「ええそうよ。」
「おお……ちなみに予算はいくら位なんだ?」
「金貨300枚くらいなんだけどどうかしら?」
「そうだな〜、最新の大型とかになると金貨2000枚くらいが相場になるのだが……その金額でも中古の良い船があるぞ。」
男は港の船を案内する。
大体長さ15メートルくらい、全高が11メートルほどの船が多かった。
「どう思う?エレノア。」
「まあ、悪くは無いと言った印象だな。」
「そうね〜。でももう少し頑丈そうなものがいいわね。」
「んー、そうなるともう少し金額が高くなってしまうなぁ……大砲とかもオプション性なんだよなぁ。」
「困ったわ……。」
「ちょっと待った!」
考える私を静止する一声……この声は。
「ヴァルトハルト!もう仕事は終わったの?」
「まあ、退職というか休職ということで話したらスムーズにおわったよ。それより船が必要なんだな。」
「おお!?ヴァルトハルト様!この方たちとお揃いで?」
船大工がかしこまってる。
まあ、憲兵騎士団やってたくらいだもんね、そのくらいの威厳はあるか。
「ああ、この人たちとパーティーを組むことになってな。」
「え?組んでたっけ?」
「黙れ!ビーツ野郎!」
「えっと……組まれてるんですかい?」
船大工が困惑する。なんでこんな時に茶々いれるの!エレノア!
「あ、ああ!組んでいる!この前ゴーレムの件も我々で鎮静化でき……。」
「いや、お前足手まといだったろ。」
「おいいいい!」
「あんたちょっと黙りなさい!」
エレノア……もう少しヴァルトハルトと仲良くしてよぉ……。
ヴァルトハルトもちょっと涙目だった。
「ま、まあ……。仲間だからさ、この顔に免じてもう少し負けて貰えないだろうか。」
「わかったよ、ヴァルトハルト様には以前海賊の件でも助けられたし今回は安くしとくよ。」
「恩に着る。して、良い船は無いだろうか。」
「あんただったらこの船はどうだい?」
船は20メートル程の高さの船で大砲が構えられており、お風呂も完備の綺麗な船があった。
「これなら金貨500枚はくだらないが……今回300枚でいいよ。」
「え!?いいの!?」
「ああ、ヴァルトハルト様は恩人だ!恩を仇で返さないのも商人の美学なんだ!」
「ヴァルトハルト〜!あんたは大事な仲間よ!ほら、エレノアも!」
私はエレノアにも頭を下げるように言うと素直に頭を下げた。
それにしても立派な船だ、これなら魔物にもビクともしない。
しかもパドルシップもできるからスピードも悪くはないわ!
「じゃあ!この船にしましょ!」
私たちは船を手に入れ、船を出すことにした。
☆☆
錨を上げて、帆を張り、舵を取る。
船はパドルを動かし出航する。
いよいよ船出の時だった。
「凄いわね!自分たちの船が動く感じ!ヤバない?」
「アイリス、はしゃぎ過ぎですよ。」
「おおー!めっちゃ快適じゃんかよ!ふうう!」
「お前はもう少し大人としてふるまえ!ビーツ野郎!」
船は港を出て、ルーベンハイムは徐々に小さくなっていき、気がついたら周りは大海原になっていた。
私は海に飽きて今はキッチンを使って料理を作っている。
今日の献立は、牡蠣のパエリアと真鯛のアクアパッツァである。
私は料理だけは家の中でモラハラを受けながらやっていたので板に着いていた。
包丁も子気味良い音を立てパプリカを切っていく。
「アイリス、手伝いますか?」
「ヴァルトハルト!ありがとう〜。」
ヴァルトハルトは鎧を脱いでエプロンを着て、料理を手伝ってくれる。
こいつは気遣いのできるいい男だぞ。
ただ、あまり料理はしないとの事だったのでアクアパッツァのトマトを切ってもらうことにした。
「あ、うーん……。」
ヴァルトハルトは少し困惑をしながらトマトを不格好に切っていた。あまりにもぎこちない動きをしている。
「もしかして、料理は初めて?」
「し…使用人にはやって貰ってたんだけどな。」
「それはやってるうちに入らないわよ。あれ、使用人ってことはもしかしてあなた家は裕福なの?」
するとヴァルトハルトは頬をかいて目を逸らした。
「まあ、親は元大臣だったからな。学問と武術をしっかりと学ばしていただいて憲兵になることが出来た。」
おっと…これは結構なボンボンみたいね。
それは料理を作る機会なんて作ろうとしなかったら来ないのも不思議では無い。
「でも、旅をする以上はみんな平等だ。おれも仲間に貢献できるようにならなくては。しかし…なかなか難しいものだ。私は料理をできるようになるだろうか。」
そう話すヴァルトハルトの表情はどこか自信なさげだった。
可愛いなこいつ。
「大丈夫よ、わたしも昔はほとんど出来なかったけどこうして出来るようになってるもの。」
思えば私も色んな男と同棲してきて、料理を作れない男と住んでは努力をしたり、理想が高い男と一緒に住んでは罵倒をされたりと色んな思い出があったな…、まな板で包丁を鳴らすとその様子が鮮明に思い出される。
「そうか、それなら少しづつでも頑張ってみます!」
ヴァルトハルトはこどものように目をキラキラとさせて両手の拳をにぎった。
そう、それでいいのだ。小さな努力を繰り返すことで人は大人になっていく、色んなものを試して見なさい。
「じゃあ、アクアパッツァ仕上げてもらえるかな?」
「アクアパッツァか…たしか白ワインを入れて…あ、お酒ってことはフランベをすればいいのか…直接食材を燃やし…うわあああ!」
後ろを振り向くと、キッチンは火柱がたっていた。
☆☆
「うい〜、ん?おお、これはアクアパッツァか!」
「そうよ!お酒にも合いそうでしょ!」
「ワインと合わさると美味いんだよな?それ!どれどれ…うん、食感はバリバリ、苦味が強く変な甘みがあって焦げが強く石鹸の味が…ぶはっ!」
エレノアは頬張り、味を解説をするとあまり不味さに白目を向いてしまった。
「どうだ?おいしいか?」
ヴァルトハルトもは不安げに料理の感想を聞き出す。
「いやクソマズ…。」
「えい!」
罵倒をしようとするエレノアに食べ物を無理やり突っ込む。ごめん、これはヴァルトハルトに自信をつけるためなの!
「もぐぐ…。」
「ご飯はよく…かみましょう!」
私は無理やり咀嚼をすると、エレノアは飲み込み再び白目を向いてしまった。
「おお…こんなに一気に食べてくれるとは…見直したぞビーツ野郎!」
エレノアには少し可哀想なことをしてしまったがエレノアは先程ヴァルトハルトに酷いことを言っていたので天罰として食してもらうことにした。
ごめん…でもあのヴァルトハルトの純粋な顔を見ると飯まずなんて認めて欲しくなかったの。
わたしは静かにエレノアを自室のベットに寝かせることにした。
☆☆
「ぶはっ!お…俺は一体何を!?」
「おはよ…目が覚めたみたいね。」
「お…おお、おはようアイリス。なんか、おれさっきまで酒を飲んでいて…そのあと何か食べたような気がするのだが。どうしても思い出せん。何かわかるか?」
「そ…そう?私もお酒入ってたからちょっとわからないかも。」
「そうか…それならいいんだが。」
エレノアはあまりのマズさに記憶を失っていた。
いやどれだけヤバいものだったのよ。
ヴァルトハルト…たしかにアクアパッツァは「狂った水」という意味だけど物理的に作ってとは言ってないわよ。
「そういえば鎧野郎は?」
「ああ、今は見張りをお願いしてたわね。」
エレノアは少し気だるそうだった、多分アルコールとヴァルトハルトの料理のダブルコンボのせいだろう。
時刻も深夜の2時ぐらいだろうか…私も少しは眠かった。
「俺は少し休むよ。」
「そう?じゃあ私は部屋を出ようかしら。」
「いや、もう少し…一緒にいてくれないか?」
エレノアが私の手を取り制止をする。
どうしたのだろう…少し心細いのかしら。
「仕方ないわね。ちょっとだけよ。」
「俺は実は…先が見えない不安があるんだ。」
エレノアは普段は悩みが無さそうだが本人も怖いものがあるみたいだ。
「あんたが酒好きなのもなにか理由があるのか?」
「まあ、それに関しては俺は定職にもつかないでブラブラしてるから将来こんなんで大丈夫かな、将来後悔しないかなとか先のことを考えると怖くて酒を飲まずにはいられねえんだよ。」
まあ、それはわかるわね。
私もあの街にいた時はとても不安だったな。
あの男と一緒に住んで、それでいてDVを受け続けて何をしてるだろとは思ったけど終わらせ方が分からなくて酒飲んでたかな。
エレノアはあの頃の私に重なることもある。
「大丈夫よ、あなたは強い!生き方とかは人それぞれだから一概に言うことは難しいけどこの旅を通すと私もあなたも成し遂げることで見える事もあるはずよ。それに私はあなたに沢山のことをもらってるのよ。
もっと自分を好きになりなさい。わたしはあなたの事が好きだから。」
「アイリス…ああ、ありがとう。まずはそのためにゴールドぶっ飛ばそうな。」
「ええ、ぶっ飛ばして答えを見つけましょ。」
エレノアはしばらく笑ったあと眠りについた。
私も前世での後悔を拾っていくんだ。
もっと貪欲に生きていることを実感していかないと。
☆☆
数日が経ち、私たちは次の街へとたどり着くことができた。
緑の大きな木々が生い茂っていて、中心には大きな木をくり抜いて出来た図書館と、気の中に研究所が幾つも並ぶルミナリエの島だった。
「すごーい!以下にも魔法都市って感じね!」
なんというか…頭が良さそうな感じがする。
辺りを見回すと魔法使いが至る所に歩いている。
「なんか…こういう所にいるとおしりがムズムズするなぁ。」
「お前は脳みそまで筋肉でできてるからな。」
「ちょっと待て。流石に俺もそんなに馬鹿じゃないぞ。」
エレノアをヴァルトハルトがいじる。
急に喧嘩する程ではなくなったがちょっとトゲトゲしている。
「わたしも魔法能力開花するかしら…。」
「んー、アイリスはどっちかと言うと魔物を倒したり経験を経た方がいいタイプだな。もしくはユニークスキルを手に入れるのがいい気がする。」
確かにエレノアの言う通りだ。
私は理論とか考えるのは苦手なので直感のみで覚えていく方がしっくりくる。
これぞキャバ嬢としてのやり方である。
「そうですね…まずは大図書館でも行ってみますか。」
確かにここに来ても埒が明かない。
まずは大きいところに行って情報を集めなくては。
そんな時だった、緑の髪をした半ズボンの綺麗な足をした美しく小柄な男性が話しかけてきた。
「やあ、とても強そうな人達だね。冒険者かな?」
男性はゆっくりと近づいてくる。
特に尖った耳をしていて人間とは違うものだとひと目でわかった。
「なんだおめぇ!」
「アイリス、気をつけてください。コイツやばいです。」
2人が構えて私を背後に置く。
わたしも背中がピリピリとする。
こいつ…今までの敵よりも強いかも。
「へぇ〜、僕を見て恐るなんて強いんだねぇ。大抵のやつは見た目で舐めて木っ端微塵になったやつもいたねぇ。申し遅れたよ、僕はエルフのネヴァロス…この島の住人だ。」
ヤバい感じはするけど邪悪な感じをしないので魔族では無いとは思うんだけど、それが不気味さを更に際立たせていた。
「なぁに、殺しはしないから安心してよ。3対1でかかってきな。」
「ちっ!後悔するなよ!」
エレノアが抜刀の2連撃をするがこちらをすらりとかわして行く、そしてネヴァロスはすらりとエレノアに近寄った。
「ふぅん、いい太刀筋だね。でも隙だらけだ。」
拳をかまえ正拳突き、えんぴ、膝蹴り、回し蹴りをしてエレノアを吹き飛ばした。
「ぐぉっ!?」
ほとんどエレノアを格闘で吹き飛ばしてしまった。
こいつ…めちゃくちゃ強いじゃん。
「とどめだ。」
そういい、音速のごとく浮遊し、エレノアに突っ込み拳をぶつけようとネヴァロスは突っ込んで行った。
「はぁあ!」
突如ヴァルトハルトが乱入し盾で攻撃を受けた。
「くっ!今だビーツ野郎!」
「よくやった鎧野郎!褒めてやる!」
そういい、いつの間にかネヴァロスの脳天めがけジャンプしたエレノアが刀を振り下ろした。
「素晴らしいカウンターの連携だ。でも僕の方が強いかな。」
左腕で刀を受け止めて、前蹴りをしようと脚を振りかざす。
しかし、ネヴァロスは慢心してしまい足元の罠に気が付かなかった。
私は事前に地雷をかまえ、ネヴァロスの片足を沈ませる。それをきっかけに炎の弾幕をいくつも浴びせる。
「おー?」
「今だ!」
私は魔法で2人の武器を強化し、ヴァルトハルトは槍を
エレノアは刀をつかいネヴァロスを切り裂くと、ネヴァロスは膝を着いた。
「あはは…はは、あはははは、あーっはっはっは!」
ネヴァロスはまだ笑っている、まだ終わり余力がありそうか!と思ったのも束の間だった。
「つよいね、聞いてるよ。君たち、ゴーレムの事件を止めた人たちでしょ?噂通りだね!」
ネヴァロスは子供のような純粋な表情で私たちを見つめた。
「お前もデタラメにつよいな…ネヴァロスだっけ。」
「エレノアとヴァルトハルトもとても連携が良くて長期戦に持ち越されたら僕もまずかったかもしれない。いいコンビネーションだね!」
「「それはない。」」
2人は声を揃えて否定した。
でも確かに2人の息はピッタリだった。
「ネヴァロスはとても強いのね。こんなに強い武闘家は初めてよ。」
こんなにエレノアがダメージを追うのも初めてだ。
ヴァルトハルトもガードはできたが反動でクタクタだった。きっと素晴らしい武闘家なのだろう。
しかし、ネヴァロスは不思議そうな表情を浮かべていた?
「ん?何を言ってるの?僕は賢者…魔法と回復のスペシャリストだ。」
え?ちょっと何言ってるか分からない。
こんなに戦闘向きなのに?
「何言ってるんだ小僧。普通賢者は魔法を使うもんなんだぜ?アイリスみたいに沢山魔法をぶちまけるもんなんだぞ。」
ネヴァロスはさらに顔を斜めにして不思議そうだった。
「いや?僕はそんな事はしないかな。だって考えてみて?魔法使いは魔力がなくなったらどう戦うの?」
確かにネヴァロスの疑問もご最もだがあまりにも外道な考えで、私たちの思考は追いつかなかった。
そういえば魔力は私は忘れてたけど魔力に制限があるものだった。
「改めて僕は、ネヴァロス。職業は賢者だけどほとんどの時間を体の鍛錬に使ってきた。使う魔法は拳に魔力を込めるのとパッシブ魔法がほとんどさ。」
そう、この肉体派に見えるエルフの少年は賢者を活かした格闘スタイルだった。
☆☆
「いやぁ〜、ネヴァロス!恐れ入ったよあんたは強い!」
「いやいや、エレノアさんも隙のない動きだったよ。」
2人は意気投合して酒を飲む。
あれ、でもネヴァロスは若そうだけど酒なんて飲んで大丈夫だろうか?
「ネヴァロスって何歳なの?」
「んー、エルフって歳を取らないからな。でも140は超えてた気がするかも。」
見た目は14歳くらいの少年だから、エルフの10歳は人の1歳程度なのだろうか?
「ここにエルフはいないの?」
「ああ、僕だけさ。みんな怖がってねぇ。」
妙に明るげに話すが内容は暗い。
これは生きた年数がメンタルの安定を生み出してるのか…私には理解が難しかった。
「だから僕は貪欲に勉強をし、体を鍛えてたんだ。そしたらここの魔物を全滅させてしまったんだ。だからギルドもここには仕事がないと嘆いてるくらいだよ。」
「恐ろしいな…生態系を変えてしまうなんて、こんな奴がいるんだな。」
「お陰でかなり強くなったよ。もう一通りの魔法も使えるようになったから強くなりようがないんだよね。」
長年退屈だったのだろう。
例えるなら夏休みの宿題を初日に終わらして夏休みに望む天才の学生の気持ちと近いのだろうか。
「それにしても、ここは大きな図書館ね。何でこんなに大きい木がおおいのかしら?」
「ああ、それはね…この木の地下にはヴァルドリウスっていう恐ろしい魔物が眠っているからだよ。」
「ヴァルドリウス?」
少年は怪談話をするようにニヤニヤと話を続ける。
「そう、闇竜ヴァルドリウス。元々ゴールドの配下のユニークモンスターだったんだけど、エルフの祖先たちに負けて今はこの大きな世界樹に闇を吸収されながら地下深くに眠っているんだよね。」
以下にもヤバそうな名前をきいて私達は唖然とする。
「ねえ?そのヴァルドリウスってやつ強いの?」
すると、ネヴァロスは困惑しながら考えて…
「んー、世界樹が光っていて、この光を変換される前のヴァルドリウスの闇の魔力と仮定した場合…多分僕たちが束になっても勝てないかも。」
とんでもない回答が返ってきた。
そりゃそうだ、明らかに規模が違いすぎるのである。
私たちはゴールドを倒す旅に出ているのだ。
こんな所でつまづく訳には行かない。
「大丈夫ですか?アイリス。」
ヴァルトハルトは心配そうに私を見守る。
そりゃそうである。私たちは強いと思ったが、じつは世界規模にみたらまだまだだということが分かった。
「ねえ、ネヴァロス?私たちに修行をつけてくれない?」
「いいけど何を企んでるの?」
「ちなみにだけどこの島って魔物はもう出ないの?」
「んー、ヴァルドリウスの付近の地下ならユニークモンスターが出るくらいには強いモンスターは出るかもしれないね。ちなみに、企みについては答えでてないから聞いてもいいかな?」
「ヴァルドリウスをぶっ飛ばす!」
ネヴァロスは驚きとかのリアクションはほとんどなかった。
真顔そのものだぅた。
しばらく考えた後に言葉を続けた。
「そう、それはいいかもしれないね。」
「じゃあ僕が3人を強くしてあげるよ。僕も君たちがどう強くなるのか気になるから一緒に修行してあげてもいいよ。」
「おい、本当にいいのか?結構留まるかもしれないんだぞ?」
「そうです、無理に戦わなくてもいつか倒せる日が…。」
2人が制止するが私は続ける。
「ヴァルドリウスって近いうちに目覚めたりするの?」
そう、微かだけど闇の気配が地面から強くなっていくのを感じた。
「そうだね、3ヶ月後には目覚めると思ってるよ。」
「3ヶ月後!?割とすぐじゃねえか!でも言われてみれば木々が一部腐ってるからな…。」
「これは確かに放っておけないですね。」
「まあ、そういうことよ。きっとゴールドは部下を全員ぶっ飛ばさないと戦えないかもしれないからここにいると分かればぶっ飛ばすの。でも時間は無い…みんなで強くなった必ず倒しましょ!」
「「おー!」」
こうして、私たちは明日から修行の3ヶ月間を過ごすことにした。
道端に生えていたルピナスは紫に真っ直ぐと上に花を咲かせる。
ルピナスの花言葉は貪欲、私たちの貪欲を示唆するかのような花であった。