公開処刑①
美穂「そろそろ、恵美ちゃんが来る頃かな?」
時計を一目した後、髪をさらりとかき上げながら、美穂は改札の方を見た。電車が着いた直後の為、人並みが改札へ押し寄せている。美穂は、人並みの中に、恵美の姿を探した。今日は、恵美と約束していた山下との3人での飲み会。美穂は、駅で恵美と合流してから、お店に向かう予定だ。
恵美「岡田さーん、お待たせしました。」
美穂は呼ばれた方を振り返ると、ひざ丈のスカートに、黒いロングブーツ、ファーのついたベージュのコートを身に纏った恵美が、手を振っていた。
美穂「恵美ちゃん!私も今、着いたところだから、気にしないで。それにしても、今日の恵美ちゃん、すごく女子力高いね。可愛いと思う。」
恵美「そうですか?ありがとうございます。でも、いつも私服はこんな感じなんです。会社には、もっと落ち着いた格好で行くようにしていますが。」
美穂は、私服の恵美を見て、直感的に可愛いと感じてしまった。今まで、あんまり意識していなかったが、それなりに可愛らしい顔立ちをしている。その可愛らしい顔立ちと女子力高めのファッションと相まって、いつもよりも可愛く見える。美穂は、何とか粗探しをしようと、恵美を下から上まで、こっそりと観察した。やはり、髪に目が留まった。恵美のセミロングの髪は、染髪を繰り返している為、痛みが目立った。お世辞にも、綺麗な髪とは言い難い。美穂は、明らかに恵美よりも自分が勝っている点を見つけて、心の平静を取り戻した。
(確かに可愛いけど、髪は相変わらず残念ね。もし恵美ちゃん髪が、私の髪質だったら、もっと素敵なのにね。ふふふ・・・。)
美穂「さぁ、お店に行きましょう。もう山下君も店に着いてるみたい。」
美穂は、恵美を連れて、近くの居酒屋に向かった。駅から、徒歩5分の距離の店なので、2人は程なく、店に到着した。店に入り、店員に予約名を告げると、2人は個室に通された。部屋では、山下が二人を待っていた。
山下「お二人とも、お疲れ様です。まずは、乾杯しましょうか?何を飲まれますか?」
美穂は、コートを脱ぎながら、生ビールと山下に伝えた。恵美も、上着を脱ぎハンガーに掛けた後に、美穂と同じモノでと伝えた。山下は、店員にオーダーを伝えた。暫くすると、テーブルに生ビールが3杯届けられた。
三人「かんぱーい!」
恵美は、飲み会が始まるや、色々な質問を山下にしていった。本当に、山下に興味があるんだなと美穂は思った。次第に話題は、仕事に移っていった。恵美の仕事の愚痴、悩みに対して、山下が先輩としてアドバイスをする構図。美穂は、時折、話に口を挟む程度。帰国子女でもあり、仕事で海外に行くことの多い山下の話は、新鮮で面白かった。美穂は、客観的に、山下は後輩から慕われる良い先輩だと感じていた。程よく酔いが回ってきた頃、恵美が核心に近い質問をし始めた。
恵美「山下さんって、どういった女性がタイプなんですか?」
山下「うーん。どちらかと言えば、年上の方が好きかな?」
恵美「年上、そ・・・そうなんですね。じゃあ、年齢以外で好みとかあるんですか?外見でも、性格でも何でもいいです。例えば、優しい子が好きとか、ショートヘアが好きとか・・・」
山下「まあ、ちょっと言うのは恥ずかしいんだけどね、髪が長くて綺麗な人が好みかな。」
恵美「年上で、長くて綺麗な髪って・・・例えば、岡田さんみたいな感じですか?」
恵美は、山下の好みが自分とはかけ離れていることにショックを受けながら、冗談っぽく聞いてみた。程よくアルコールのまわっている山下が照れながら、答えた。
山下「うん、そう。美穂さんみたいな感じ。」
美穂は、ビックリして、グラスを落としそうになった。会社での付き合っていることは内緒にしている。それなのに、酔った山下が2人で居る時のように、下の名前で呼んだからだ。
恵美「えっ、美穂さん?お二人はどういう関係なんですか?」
恵美は動揺した。美穂の名前を出したのは、完全に冗談だった。自分よりも20歳近く年上のおばさんが、恋愛対象になるはずはないと思っていたからだ。それなのに、山下の反応は、満更でもない反応。
恵美の表情を見て、山下も我に返った。だが、時すでに遅しだった。美穂の方を一瞥すると、美穂はうなだれていた。もう、ここから取り繕うことは出来ないと思い、山下が口を開いた。
山下「実は、僕は美穂さんと付き合っています。」
美穂「恵美ちゃん。そうなの。今まで、黙ってて、ゴメンね。」
そこから、極端に恵美の口数が減った。憧れていた先輩が付き合っていたのは、まさか自分よりも20歳近い年上の職場のおばさん。相当、ショックを受けたようだった。
一方で、美穂は、飲み会の空気に気まずさを感じながらも、心の中では、恵美に対しての優越感に浸っていた。
予約の時間が迫ってきて、飲み会を閉める直前に、美穂がある提案をした。
美穂「折角だから、3人で記念写真を撮らない?店員さん、私の携帯で、写真お願いします。」
美穂は店員に携帯を渡すと、恵美の隣に移動した。山下にも恵美の隣に来るように促してから、自分は自慢の髪を肩から前に流して、笑顔になった。
―パシャリ
美穂「はい、ありがとうございました。写真は後で、みんなに送るね。今日は楽しかったねー。」
3人はお店を出て、それぞれの帰路についた。
美穂は、自宅に到着するやいなや、スマートフォンを取り出して、先ほど撮った記念写真の加工を始めた。まず、写真をトリミングして、美穂と恵美の2ショットにした。その後、髪質の違いが判るように写真のサイズを調整し、美穂と恵美の顔にモザイクを掛けて、写真をヅイッターへ投稿した。
―今日はアスカの会社の25歳の後輩と飲みに行ったよ。さあ、どっちの髪が25歳でしょうか?わかるかな?(笑)
投稿するやいなや、たくさんのコメントが付いた。
―えっ、このスーパーロングヘアの方が25歳ですよね。セミロングの髪はアラフォーの方ですか?(笑)
―髪質が違い過ぎて、勝負にならないです。
―相変わらず、綺麗な髪ですね。後輩を公開処刑ですか?アスカさん性格悪いですねw
―25歳じゃなくて、10代の髪じゃないんですか?アスカさんの髪、お綺麗です。
―セミロングの子、雰囲気可愛いのに、髪質が残念過ぎるww
美穂はニヤけながら、ヅイッターのコメントを飲んだ後、「ふふふ、だよねー(笑)」とコメントにレスを付けて、スマートフォンを閉じた。
美穂「これ楽しいなー。今度は、博美の縮毛矯正ヘアを公開処刑してやろうかな。ふふふ。」
美穂はいい気分になりながら、ビールを飲みなおした。今日の恵美の表情を思い出して飲むビールは格別に旨かった。




