身バレ
―知り合いと言えば、知り合いですかね。岡田美穂さん。
『やまぎわ』からのDMを読み、美穂は一瞬、頭が真っ白になった。
(身バレしてる!!!私がヅイッター上、自慢の髪の写真や動画を投稿していることが知りあいに知らている?髪フェチ相手に、抜け毛プレゼントしたりしたことも?どうしよう!!!)
美穂は、動揺する気持ちを何とか抑えながら、『やまぎわ』へ返信した。
―お願いします。このアカウントの事は、どうか内緒にしていて頂けないでしょうか?
美穂は、絶対にこのアカウントの存在を知り合いに知られたくなかった。自分がとんでもない自信家でナルシストで、髪フェチ男性にチヤホヤされて調子に乗っている年増女。知り合いから、そんな目で見られたら・・・。想像しただけでも恐ろしい。そうこう考えているうちに、『やまぎわ』から返信が届いた。
―んーっ、どうしようかな?私のお願いを聞いてくれたら、黙っていてあげますよ。アスカさん(笑)
『やまぎわ』の反応にイライラしながら、美穂も返信をする。
(何なの、こいつ。焦らさないでよ。)
―お願いって何ですか?
少し間が空いてから、『やまぎわ』から返信が届いた。
―今週末に、お会いしませんか?アスカさんのサラサラロングヘアを間近で見たいですし。駅西口の階段下で待っています。時間は、土曜日の18時でお願いします。三つ編みはしないで、髪は下ろした状態で来てくださいね。
この『やまぎわ』からの返信を読み、美穂は胸を撫でおろした。それと、同時に笑いがこみ上げてきた。『やまぎわ』の魂胆がわかったからだ。
美穂「この人は、私の髪のファンだから、髪を生で見たいだけね。きっと、少し髪を触らせるだけで、簡単に丸め込めるわ。髪フェチって、ホント単純。あー心配して損したわ。」
美穂は笑いを堪えながら、DMを返信した。
―OK。わかったわ。念入りにトリートメントして行くわ。その代わり、絶対にこのアカウントの事は内緒よ。約束だからね。
レディースアデランズで髪年齢38歳と言われたこと。恵美ちゃんに白髪を指摘されたこと。縮れた抜け毛がコートに付着していたこと。ここ数日、ショックなことが多かったが、美穂は『やまぎわ』のこの反応を受け、少し自信を取り戻した。
美穂「あれだけ探して無いんだから、白髪なんて絶対無い。・・・そうだ、ヅイッターでフォロワーに聞いてみよう!」
美穂はスマホと鏡を使い、自慢のサラサラロングヘアの後ろ姿を、上から下までよくわかるようにゆっくり撮影をした。そして、すぐさま、その動画をヅイッターに投稿した。
―今日は三つ編みしてたからウェーブヘアだよ。会社の後輩に、アスカの髪に白髪があるって言われたよ。酷くない?一生懸命探したけど、白髪見つからなかったよ。みんなも探してみてね(笑)
投稿するやいなや、髪フェチのフォロワー達からコメントが付いた。
―全然、白髪見つけられないです。こんな綺麗な髪に白髪あるなんて信じられません。
―動画ありがとうございます。ウェーブヘアもゴージャスで綺麗です。
―艶が眩しすぎて、白髪なんて探せません。
―意地悪な後輩ですね。きっと、アスカさんの美髪に嫉妬したんですよ。気にしないで。
―うわーっ、このツヤツヤのウェーブヘアを手櫛したら、気持ちいいんだろうなー
美穂は冷蔵庫からビールを取り出た。キンキンに冷えたビールを飲みながら、ツイッターのコメントに目を通す。自然に顔が緩んでいく。
美穂「ふふふ。ほら、やっぱり白髪なんて無いじゃん。これは完全に恵美ちゃんの見間違えだね。髪年齢38歳だって、アデランズの営業トークで嘘に決まっている。ゴワゴワの縮れ毛は私の毛じゃないわ。きっと。あー、もしかしたら、博美の天パの縮れ毛が、たまたまコートに付着しただけかもね(笑)」
ビールを飲み終える頃には、美穂は完全に自信を取り戻していた。
(みんな私の髪を褒めてくれる。そう、私の髪は特別なのよ。)




