記憶の扉 【月夜譚No.270】
小学生の時に貰った賞状が押し入れの奥から出てきた。丸めてあったそれを広げると、自分の名前と読書感想文のコンクールの名称が目に入る。
角は多少折れて、用紙も僅かに黄ばみが見えるが、状態は良い方だろう。こんなに古いものを、よくこれだけ綺麗に残してあったものだ。当の本人はその存在など、つい数秒前まで忘れていたというのに。
しかしながら、ちょっとしたきっかけで記憶の扉は開くものなのだと実感する。教師からこれを受け取った光景に紐づいて、友人との会話や教室の匂い、黒板にした落書きまでもが甦る。
青年は賞状の表面を指先で撫で、ふっと笑みを浮かべた。
そういえば、六年生の時にタイムカプセルを埋めたのを思い出す。自身の記憶が確かなら、そろそろ掘り返す時期だと思うのだが。
年末の掃除を再開する青年の耳に、ポストに手紙が投函される音が聞こえた。