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ケイジー・ストレイト・アヘッド  作者: 刀根 貴史
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部会の後はKG Swing Charioteers

「プハハッ! そりゃそうだね。心配しないで良いよ。このあと、チャリオの練習があるから、時間あるなら残って見学する?そうすれば今日市山君が感じた疑問は大体解消できるかも。」


「チャリオの練習、見学できるんですか?」


僕よりも先に隼人が食いついた。


「あ、藤川君。良いよ。歓迎します。」


僕よりもぐいぐい前にでる隼人を横目に、なんとなく部室の外に出ると、部室周りでは多くの部員たちがそれぞれの楽器の練習を始めていて、談笑している人もいた。


「おーい、ホーネットー!」


部室前、プラザを臨むパラペット(胸の高さの囲壁)に持たれている先輩がこっちを向いて呼んでいるようだった。


「よーっ、バリトン。あれ、お前のホーネットだろ?」


プラザに止めたバイクを指さして先輩は嬉しそうだった。


「はい。僕のです。」


「おーー、いいねえ。250ccだがタイヤが太くてスケール感がある。で、音が良いんだわ。」


「あ、先輩もバイク屋乗るんですか?」


「乗るよ。あっちのあれ。」


先輩の指差す方向にはスポーツタイプの中でも座席の前傾が強めで、且つ緑色。


「Ninja!」


「ほう、さすが。」


「速そうっすねー」


「いやいや、速そうじゃないのよ。速いのよ!」


「あ、でも400っすか?」


「そうだよ、なんだよ。」


「Ninjaは250(cc)の方が小回りも効いて気持ち良いって聞いた事あるんすけど。」


「生意気だねええ。いやいや、直進性も大事でしょうよ。そしたら400でしょって。」


「坪内!」


しばらくバイクの話で盛り上がっていると、部室から大きな声がした。


「おっっと、大先輩がお怒りだよ。」


「リズム体、練習はじめるよーん」


「はーい。先輩。」


お互いふざけているのだろうし、いつもこんな調子なんだろうなという雰囲気だった。


「悪い、ちょっといくわ。今日アンサンブル見て行くんだろ?」


「え?アンサ?・・


「チャリオ。全体演奏のことよ。いつもは4時半位から。」


「あ、はい。」


「じゃな」


そういって坪内さんは部室に入っていった。


「4時半か・・・」


なんとなくできた空き時間で、なんとなくその辺をぶらぶらすることにした。


部室前では管楽器の先輩らしき人たちが個人練習をしていた。


 部室のある4階の、更に上、5階なるものがあり、そこには長髪、金髪、スキンヘッド、いろんな頭の人がギター、ベースを手にアンプの前に座っていた。


 「あ、ミスチルバリトン」


 とにかく僕の自己紹介は失敗だったようだが、何を覚えてもらったのか分からないが、何かは覚えて貰えたようだった。


 「こんちは」


 「どうも、F年の沢入です。普段ミスチル以外は何聞くの?」


 「えっと‥スピッツとか‥」


 「ああ、JPop」


 「そうっすね‥」


 「ふーん」


 「あの‥」


 「♪おさないびねーつをー さげられないまま〜♪」


 「♪神様〜のか〜げ〜を〜‥♪」


 沢入さんがギターを弾きながら歌い始めると、隣の金髪のギタリストも一緒に歌い始めた。


 「変な音色で入ってくんなよ。」


 金髪の方が怒られた。


 「ま、チャリオをアンサンブルでも見学していきなよ。」


 そう言って沢入さんはなんだか難しそうな練習を始めた。


 やっぱり自分のような特に音楽のジャンルやなんかにこだわりの無い、TVから聞こえてくる音楽だけを聞いてきたようなやつが来る所じゃなかったかなあ?とか思い始めていた。


 その時間の旧学生会館は色んな楽器の色んな音が聞こえたけど、知っている音は1つもないような、そんな感覚だった。


 「市山君!」


 なんとなくこのまま帰ろうかなと思いながら階段を降りて2階に着くころ、久しぶりに名前を呼ばれた気がした。


 「市山君、良かったらパー練も見ていきなよ。」


 「パー練?すか?」


 「パート練習。全員でアンサンブルする前にサックスパートだけで音合わせしてるんだよ。」


 「あ、海老川さん。」


 「そうそう、この海老川君の楽器がバリトンサックスね。」


 「でかいっすね。」


 「そう。大きい体の市山君にぴったりかなあと思って。ごめんね。勝手に楽器決めて。」


 「いえ、まあ、正直もうそれどころじゃ・・」


 「で、これがテナー。まあ、私のアルトとバリトンの間の音域だね。」


 「どうも、テナーの古賀です。F年です。」


 「アルトの澤田です。F年です。」

 

 「テナーの梅田、E年。」


 「あ、市山です。よろしくお願いします。」


 先に自己紹介されてしまうと、自動的にこちらもしてしまうもので。


 「そこで少し聞いてて。」


 体育館前の壁に楽譜を貼り付けて、5人の先輩が並んでいた。電子音のメトロノームがリズムを刻み、回りもなぜか静かになっていった。


 「1・・・2・・・1,2ーーー」


 石川さんがカウントを取って、5人全員が同じタイミングで息を吸って、次のタイミングからサックスパートのパー練は始まった。


 経験がなくても、この距離で聞くとそれぞれの楽器の役割的なものが理解できるもので。すると少しずつその魅力みたいなものも分かってしまうもので。


 バリトンの低音は地面を伝わるような気がした。テナーとアルトが2本ずつあるのも聞けばその理由はわかる。石川さんが他のメンバーに細かい点の指摘をして、何かしらの改善を試みているらしい。へー、市山奏汰、楽器の音聞いてちょっとかっこいいとか思ったりするんだ。とか思いながら、パー練を最後まで見学した。


 「じゃ、あとはアンサンブルで確認しましょう。」


 「はい。」


 「あ、市山君に言ったわけじゃないよ。」


 「え。すみません。」


 楽しそうに笑う、明るいサックスパートの先輩達だった。


次回:チャリオ1994


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