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ケイジー・ストレイト・アヘッド  作者: 刀根 貴史
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甲山でサボタージュ

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「練習終わったら、タンポは必ず拭いて。キーからカチャカチャって音がする前に、定期的にオイルさしたり、ネジも適度に締めて。」


「キーって何でしたっけ?」


「は?」

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今日の予定は1限目の講義だけ。このあと予定もない。図書館で行動学の書籍に目を通そうと思っていた。けどまあ、こんなに天気が良い日には学園の裏山散策も悪くはないと、今年に入って何度目かもわからない近隣ツーリングに出かけることにした。


50ccのミニバイクは快調に、仁川沿いの細い道を過ぎて五ヶ池ハイキングロードを登る。


1月の晴れの日。厚着でもしていればそれなりに気持ちの良い火曜日。なぜか聞こえて来るのはスイング。ビッグバンドジャズ、緩やかめのナンバー。


あの日見失った音を探して、長い間、同じ道を何度も行ったり来たり。

校舎の裏に高くそびえ立つ六甲山に繋がる甲山の頂上付近、ずっとそこにあるカフェはいつも誰かを待っているように雰囲気を変えずにいる。


「今日はいいか・・・」


いつもならそこでカフェオレを注文して、講義には絶対使わないような人類学の書籍を片手に2時間はスイングを聞いているのだけれど。


その日はなぜか、探し人が見つかるような、そんな気がして居ても立っても居られなかった。


甲山を下って、中津浜線を阪神競馬場前を通って高司たかつかさ小林おばやし逆瀬川さかせがわ・・・万代?木曽路? 神戸屋の隣はデニーズだろ!何つぶれてんだ・・・とかどうでもいい事も考えながら。


国道176号線は50ccの原付バイクにはそれなりに危険なほど車が多く、左折してそこから北側にある「旧」国道176号線に移動。こちらは古い道で、車線は細く、主に近隣住宅に住む人だけが使う道路。のんびりと時間が流れている。


宝塚市 山本


阪急宝塚本線沿いのハイツ 2階一番奥の部屋。ベッドの奥の、押入れの奥の、衣装ケースの奥。金のラッカーが所々に剝がれてはいるそのサックスは、今もちゃんと息をしているのだろうか。


部屋に戻ると、朝、雨戸を開けずに家を出たことを思い出した。寝坊したからなと寝起きの心境を思い出しつつ、足元でカタカタと回し車が回っていることに気づく。


ハムスターにとっては暗い方が眠気が覚めて元気なのに。

悪いねと一声かけて、雨戸を開けた。


ベッドをどけて、何年も開いていないなかった押入れの扉を開けると、暗がりの奥に、体半分くらいの長さのケースとそれよりもう少し大きいケースがあって・・・。その大きめの箱達がそろそろ開けてくれと頼んでいる事にした。


彫られた模様の上に、黄土色と茶色、割って入るように金色が繋がっている。




 もう見ないつもりだった。


 もう聞かないつもりだった。





次回:1994年4月 


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