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ケイジー・ストレイト・アヘッド  作者: 刀根 貴史
16/19

オリエンテーションコンサート Part2

 AM 10:00


 リハまであと10分。


「キックです。キックです。」

「ハイハットです。ハイハットです。」

「ヴォーカルです。ヴォーカルです。」


 PAヤーボがヒソヒソとマイクに話しかけて、メイン卓の宮村さんと、モニ卓の小倉さんが手を上げる。マイクチェックをしているのだ。

 

「管楽器3番、来てなーい!」


「すぐ確認します!!」


「小倉!!リハ5分前だそ!!」


「すみません!」


 PAヤーボは、前日、全ての機材とシールドのチェックをする。NGシールドは半田付けをして修理もするのだ。


…が、当日になるとなぜか音が出ない、新たなNGシールドが出現ということがあるあるのあるあるなのだ。


 特にPAヤーボのヘッド、小倉さん(D年)は、前日ほぼ丸一日をかけて機材をチェックしていて、ライブの度にそれをするので授業は欠席だらけ。すでに、2年は留年するだろうと言われているのに…。


 どうにかこうにか、すべてのマイクチェックを完了すると、本番前のリハーサル開始。


 AM 10:10


当然だが、授業時間に屋外の広場で大きな音は出せない。チャペルアワーに設定されている40分間の長休みにプラザライブのリハーサルは行われる。


「ベジタブルブルース、サウンドチェック開始します!ドラム、スネア行きます!」


 中澤さんが、メイン卓の宮村さんに伝えると、ベジブルのドラム、河村さん(F年)がスネアドラムをパン!パン!と叩き始める。


 スネアに向けられたマイクを通して、メインスピーカーからはスネアを叩く音がする。宮村さんはヘッドホンでその音を聞きながら、メイン卓で音を作る。マイク、シールド、卓、シールドを経てスピーカーから出る音を、できるだけ生の音に近づけたり、曲やバンドの要望、雰囲気に合わせて加工するのだ。


 これを、全てのマイクと機材に行う。それがサウンドチェック。


 ドラムはスネアに加えて、タムが2つか3つ、シンバル系はハイハットに一つと、他のシンバル…ライド、チャイナ、スプラッシュと色々あってもマイクは2つが限界。結局ドラムだけで7,8個のマイクの音を作って、その後、ドラムセット一式全部で音のバランスを作る。


 《次は弦楽器行きましょう。》


 ギター、ベースはアンプにマイクが一本向けられている。ギタリストがジャラーーンと音出したらそれで終わり……なわけもなく。

 

 《ギタリストの足元に、何かスイッチみたいな物があるのを見たことありますかね?》


 エフェクター。音色を変えるための機材なのだが、ギタリストによっては大学生といえども、一つのライブで音色が10個位あったりする。一番シンプルな「クリーン」、歪ませる「ディストーション」、少し遅れた音を混ぜる「ディレイ」、ペダルを踏みながら音を出すことで周波数を変えて、ワウワウワウワウと音に変化を与えられる「ワウ」。

 足元のエフェクターを曲のタイミングに合わせて踏んでギターの音色を変える。サウンドチェックでは原則、全ての音色を確認する。


 《音色ごとの音量が全然違うプレイヤーとかのチェックが面倒なんですよねー》


「最大行きまーす!」


《音量Maxのチェックなのですが、心のなかでは最大から行ってくれよ…と思ってても当時は先輩後輩の上下関係もきつくてなかなか言えなかったんですよね…》


 次はベース。ギターに比べれば音色の数は少ない。


「指弾きでーす。」


「OK」


「以上でーす」


 弦を指で叩いて音を鳴らす「チョッパー」もサウンドチェックをするのだが、それが無ければだいたい直ぐに終了。


《さーて、キーボード行きましょうか。》


「ピアノでーす」

「オルガンでーす」

「エレピでーす」

「グラビでーす」

「ストリングスでーす」

 …こんなものではなく…

「オケヒットでーす」

「変な音でーす」


 それ何??本当に必要ですか?ヤーボは皆思ってるわけですよ。


「XP終わりです!トリニティ行きます!」


 どっちもキーボード。2台セッティングだ。


「ピアノでーす」

「オルガンでーす」

「エレピでーす」

「グラビ……


 もう、いじめなのだ。少なくともヤーボはいじめられているような気分になる。


《どっちか1台でいけますよね?》


 ヤーボの皆が心の中で思ってる。でも言えない。先輩が怖いから。「F年さん怖い」なのだ。


《では、管楽器参りましょう!》


 ベジタブルブルースは、Chaka Khanや、Brand New Heaviesなんかのコピーバンドで、R&B、ファンク、アシッド・ジャズをかなり高いレベルで演奏する。そんなバンドの構成として、管楽器「ホーンセクション」は欠かせない。


「トロンボーンから行きます!」


 バストロンボーンの堤さん(E年)。無錫旅情を一人演奏。


「テナーサックス行きます!」


 テナーサックスの兒玉さん(F)。むちゃくちゃ上手い。色んなスケールを吹きまくり。


「アルトサックス行きます!」


 田端さんのフラジオを交えたスケーリングが鳴り響く…のだが…


「来てない!」


 ヘッドホンを当てた宮村さんの顔が険しい。今日のトラブルポジション「管楽器の3番マイク」だ。

 

「シールド変えます!」


「先にトランペット行きます!」


 PAヘッドと進行のコンビネーションで、リハーサルは続く。


 トランペットは二人。まず花咲さん(F)。カーペンターズの「sing」を。


 OK、と宮村さん。


 もう一人は、黒田さん(F)。花咲さんも黒田さんもチャリオと掛け持ち。


 宮村さんからOKが出るころ、中澤さんは再び「3番」に目をやった。


 小倉さんから「×」のサインがでたので、中澤さんが宮村さんに大声で連絡する。


「管楽器3番、もう一度シールド替えます。その間ヴォーカル行きます!」


 ベジブルのボーカル、菊池倫さん(F)なんでも各方面からスカウトが来ているのだとか。


「おーひるやーすみはーーー軽音ライブーーー」


 どこかで聞いたことのあるフレーズで軽音ライブを宣伝する。不思議と場が明るくなって、プラザを通る学生達も少し足を止めてリハーサルに見入ってしまう。それほどの魅力が菊池さんにはあった。


「OK!管楽器3番行ける?」


「雄哉!OK」


 小倉さんから中澤さんに小さく合図。


 管楽器3番、アルトサックス、田端さんが再びフラジオを鳴らし、立ち止まる学生達から拍手が起こる。今度はメインスピーカーから音が聞こえる。


「OK! 管楽器全体で貰おうか!」


 管楽器5人全員で曲中に出てくるフレーズを。宮村さんはホーンセクション全体のバランスを調節する。


「OK! 曲で下さい!」


「一曲目行きます。」


「ワン トゥー・・」」


 影月さんの指示でドラムの河村さんがカウント。お先にベースインの後のドラムフィルイン。全体サウンドが心地よく流れ出す。まだリハなのに人が集まって足を止め始める。菊池さんが歌い始めると小さく拍手をする人まで。


「止めてくださーい!」


 中澤さんがストップの合図でバンドは演奏は中止。


「小倉!ベースのモニター返ってないぞ!!」


・・・・・影月さんの怒りの顔・・・怖すぎ。


 メインスピーカーから出ている音は、演奏者には聞こえない。演奏中、モニターが無ければ演奏者は近くの楽器の音しか聞こえないので、バンド全体で息を合わせるなんてことは到底無理になる。


「すみません!」


「すみません!ベースモニターのジャック、半刺しでした!」


  ブン!!!


「ふざけんな!!」


 ・・・・えーと、何が起きたかと言いますと、影月さんに向かっているベース用のモニタースピーカーから音がしていないことがわかったので、ヤーボは原因を探すわけです。アンプヤーボのC年がモニターから出ているシールドが、卓に行く途中に経由する「ボックス」の所のコネクターが半刺しになっていることを発見したわけですが、これをいきなり差し込んでは絶対いけません。メイン卓、モニ卓のベースアンプ用のボリュームを「0」に下げてから差し込まないと、ジャックから急に電気が流れる、それが音になってメイン、モニターの全てのスピーカーから「ブン!」という音で出るわけです。これは喩えではなく、本当に「耳が痛い」。


「影月さん、もう一曲貰っていいですか?」


「ラストの曲行こうか。」


 再び演奏開始。今度はモニターにも音が流れている様子。この間にメイン卓(宮村さん達PA幹部)はメインスピーカーの音のバランスを作る。モニ卓(小倉さん達PAヤーボ)は、各パートのヤーボが演奏者の横でモニターのバランスを確認して、モニ卓に向かって合図を送って、各モニターを作る。


「止めてください!!」


 時間の都合上、2曲を少しずつが限界。


「ベジブルの皆さん、本番宜しくお願いします!」


「お願いします!」


 全ヤーボから挨拶をして、さて・・


「てんかーーん!」


 ビッグバンドへの転換。只今・・・・10:33・・・チャペル終了は10:50・・・



 間に合うの????


次回、オリエンテーションコンサート Part3


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