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ケイジー・ストレイト・アヘッド  作者: 刀根 貴史
15/19

オリエンテーションコンサート

 楽しい演奏は時間を忘れるものですね。そんなこと、何度も感じて、それが嬉しくて楽しくて、ただただ楽器を吹いて、音楽をした時間がありました。


(全部俺が悪いから…)


「先輩、また泣いてます?」


 感情って、抑えられなくなるんですよ。よく歳取ったらとか言いますけど…


「やっぱり気持良いですね。大音量に囲まれるの。」


「寒いのに、先輩よく指、動きますね。」


「??指だけ温くなりません?吹いてる間に。」


「あ、わかる!確かになぜか指だけ温かくなる。」


「ホントかよ?」


「ハハハ、ペットとボーンのトップ。二人共、よく引っ張ってますね。」


「楽しだけで良い。か。なんか分かるような分からないような。でも学内イベントだって、オリテンの頃が一番ハリがあるって言うか…他がつまんないってわけじゃないけど、それ以降はどんどん大変さが大きくなっていくというか…」


「新入生には初ヤーボだしね。」


 ほうほう…春になったらまた忙しくなりますね。


「先輩は関学軽音のライブ、見たことありますか?」


 軽音のライブ…あれから見てないんですよねぇ。プラザ方面から音が聞こえると、自然と反転して離れていく自分が居ると言うか… 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


1994年5月


 KGLMC オリエンテーションコンサート


 初日がプラザ、二日目が旧学生会館2階ホール.最終日はまた、プラザ。


 楽器を買ってここまでの間に、CDコンパと新歓コンパ、大々的な宴会がいくつかあって、そこで関学軽音の大凡の活動について先輩方から教えて貰った。


「お、新歓コンパで大スベリしたホーネット君。確か、照明警備ヤーボだったかな?頑張りたまえよ。」


 坪内さんはニヤニヤしながこっちを見ている。


「お、奏汰。」


「おはようございます。」


 それに比べて海老川さんは爽やかですよ…


「『友達の家まで匍匐ほふく前進で行く人』タイトル聞いたときはオッ?と思ったんだけどなあ」


 だめだ、海老川さんまで悪い顔をしているよ。


 CDコンパ:2回生(D年)主催の新入生(C年)の歓迎会。CD年のみの会で、D年から関学軽音のしきたり、ルールを教えて貰ったり、軽音主催コンサートでの役割「ヤーボ」の担当について説明してくれる。会の途中でEF年さんが乱入してきて、会を盛り上げつつ、会費のカンパを置いていってくれるのもまた優しくて楽しい。


 新歓コンパ:全学年参加の新入生歓迎コンパ。なぜか会場が梅田。ワンフロア貸し切りでマイク、音響使用のそれなりのスケールのイベントなので西ノ宮には会場がなかったのかも。


 この新歓コンパでC年は、自己紹介がてらに一発芸を披露することになっていた。


 トランペットの隼人は、「ジャズプレイヤー漫談」。先輩からジャズプレイヤーの名前を言われたら速攻でそのプレイヤーのうんちくを一つ言う…みたいオシャレなやつ。少し隼人が嫌いになった。


 強烈に印象に残ったのは西神雄大。ピンク色の全身タイツに金髪のカツラ。左手前にはブルボンピッカラの細長い筒。何かを警戒しながらも堂々と登場し、一言。


「スペースコブラ」


 ガリガリの高身長がなんともみすぼらしくて。それが悲しいくらいに面白い。


「奏汰!来年はお前がスペースコブラやれよ!」


 いやいや、C年の登竜門でしょ。とかなんとかやってる間に、オリエンテーションコンサート(プラザ版)の1日が始まる。


 AM 8:00 機材運び出し


 部室の前で奥井さんが集合をかける。


 奥井さんの後ろにE年さん、幹部と言われる人たちがズラリ。


 向かいにCD年。ヤーボな僕たち私たち。


「C年にとっては初めての軽音ライブだ。ただ、大事な大事なライブなので、D年の指示に従って、コンサートを潰すようなことが無いように頼む。では、始めよう!」


 奥井さんの掛け声と共に、ヤーボは走り出す。旧学生会館4階の部室から、1階の広場、プラザにコンサート用機材を下ろす所から1日が始まる。


 メインスピーカーは大きくてめちゃくちゃ重い。モニター、これは演奏者に向かって音を出すためのスピーカー。

 まずこのあたりの会場設備用機材は照明警備ヤーボが率先して運び出し。

 ドラムヤーボ、キーボードヤーボは出演者の楽器を。アンプヤーボがギター、ベース。マイクと、全てのマイクから音を集めて音質やヴォリュームなんかを調整するためのミキサー等の楽器以外の音響機材をPAヤーボ。

 あと、本番前後やバンド間のMCを担当するMCヤーボ、お客さんを会場に呼ぶ情報宣伝ヤーボ、ライブ当日は楽屋になる部室の管理をする楽屋・部室管理ヤーボ……などなど、皆で機材をプラザに運び出す。


 プラザに荷物を運ぶとその日のステージに合わせて機材の置き場所や、搬送をスムーズに進行させるための、文字通り進行ヤーボが、声を出して仕切っている。


 AM 9:00 位置決め、結線


 進行ヤーボの中澤さんは、ステージ全体を見ながら、スピーカーの位置や当日の出演者とバンド毎の各楽器の位置を決める。


「奏汰!!下手メイン、内振りすぎ!」


 薄らデカ男はその体の大きさから、とにかく大きな物を運ばされ、高い所のものを取ることに長けていた。


「ピアノもう少しドラムに寄って内振り、ベーアンはドラムのちょい前で。」


 バンドマスターの黒田さんと話しながら、ステージのヤーボに指示を出し、バンドプレイヤーの位置を決めて行く。進行ヤーボとはなんだかちょっと格好良く見えるヤーボ。


「奏汰!ちょっとデカイ!」


 中澤さん、まあ、ウケたので全然良いですよ。好きなだけイジって頂いても。


 中澤さんが影月さんにに最終確認を取って、お互いに頷いた。


「チャリオ、位置決めOK!そこでバミって!!」


 バミる:ステージの本番での機材設置位置に印を付けること。大体はガムテープでバツ印を貼って「チャリオ、ベース」とか書く。


「てんかーん!!」


 次のバンドの機材の位置決めに「転換」。チャリオみたいなビッグバンドはとにかく準備が大変。ドラム、ピアノは電子ピアノだけど、ベース、ギター、トランペット5本にトロンボーン4本、最後にサックス5本。

 

 そこから、次のバンドの位置決めに…っとある時、BGMを流し始めていたメインスピーカーから「ボン!」と音が鳴った。

 会場最後尾、客席後ろのミキサー付近でずっと見ていたE年さん達から怒声が飛ぶ…よりも前に、


「おい!!引き締めろ!!」


 中澤さんが場にきの入った声を掛けて、皆が一斉に返事をする。


「裕也!メインスピーカーから音全部を出てる?」


 客席後ろのミキサーは通称「メイン卓」。そこでPAチーフのE年、宮村さんがメインスピーカーから出る音のバランスや左右のスピーカーへの楽器の割り振りなどをする。

 位置決めと並行して、PAヤーボはドラムの太鼓一つ一つ、ヴォーカル、管楽器にマイクを向ける。そのマイクやキーボード、アンプからの「シールド(線のこと)」をステージ真ん中のボックスに結線する。ボックスからメイン卓と、ステージ袖のモニター用ミキサー、通称モニ卓の2つの「卓」にシールドが結線される。

 そのボックスを、位置決め中のヤーボの一人が躓いて蹴ってしまい…その「ボン!」である。

 その手の音は、スピーカーを酷く痛める。最悪の場合はスピーカーの心臓部分、振動して音を出すための部品が壊れてしまうこともある。これを、「スピーカーが飛ぶ」と言うのだが、軽音のメンバーは、その「ボン!」を聞いて瞬間的にスピーカーの故障を気にしたのである。


「宮村さん、大丈夫です!」


「頼むよ〜」


 中澤さんと宮村さんの掛け合いが終わり、E年さんも少しホッとした顔をする。


 再び転換が開始され、今度はR&Bのバンド、ベジタブルブルースの位置決めになり、それが終わると、しばし休憩…と言っても次のリハーサルがめちゃくちゃ大変。


次回、オリエンテーションコンサート Part2


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