セスくん友人だから(後)
「オルフィックってばぜんぜん他人を信用しないし家のこと絶対口にしないから育った環境も家族仲も悪いのかと思ってたけど、アレね。家族が大切すぎるから近づくな、ってことだったのな。はーなるほどなるほど逆だったわ」
「お前に理解されるとはな」
釈然としない、といったオルフィックと対照的にセスは長年抱えた大問題を解いたように喜んでいる。
「それなりの年月を孤高オルフィックと友達でいるからね! お家にお呼ばれされたことないけど!」
「お前なんか呼ぶかよ」
オルフィックは学校での交友関係を家で話題にしない。おかげでグラモラはセスの存在すら知らなかった。
「グラモラちゃん、オルフィックは家で俺のこと話してないの?」
「……聞いたことないかな……」
「はぁーん?!」
急に至近距離で大声を出されて、グラモラはオルフィックに縋る。大きな手が背中を撫でて、力を抜いた。セスは意気消沈している。
「友人だと思ってたのにな〜〜」
「……せいぜい腐れ縁だろ」
不服そうにだが認めた。
「え。やだ、ちょっときゅんとしちゃったサンキュ! そうだよねオルフィック俺の名前覚えてるもんね」
それでも階級の高い位置らしく喜んだ。オルフィックの中ではその他一般(塵芥)と腐れ縁で大きく隔たれた壁がある。
「妹弟子がいることも新事実だったわ。ふむ、妹弟子。いもうと、でし。そっかー」
言葉を噛み砕くように繰り返すセスがオルフィックとグラモラを見比べる。
「ロリコンだったか……学校の女子の誰にも靡かないわけだわ」
グラモラの発育の悪さから年齢を読み違えたセスは大変な失言をした。オルフィックは構える。
「そうか、ウェルニック野も破壊してやるよ」
ウェルニック野は脳機能で言語の理解に関わり、ここに障害があると聞き取った言葉を理解する能力が失われる。
「うぉおおい!やめてマジやめてすみませんでした。俺の魔法防御、オルフィックに敵わないんだから!」
セスは深呼吸をして体勢を立て直した。
「いやでも、しばらく姿を見なかったから心配してたんだって」
「ああ。育ての親が死んだんでバタバタしてた」
「師匠に引き続いてか? 師匠は新聞に載ってたもんな。
……親まで。それは、ご愁傷様です。大変だっただろ」
黙想し、声を落とした。
「いや、同一人物だ」
「ん?……あれ、偉大なる魔法使いイハリスだろ? いやいや師匠が育ての親?! 師匠の話はしてくれたけど親の話はしてなかっただろ。んん、だからか! いまのいままで知らんかったわ! お悔やみの手紙出したのに返事こなかったし?! まぁ手紙は儀礼だからいいけど!」
彼のテンションの高さに圧倒されて、師匠の名前に引き摺られて悲しむ気持ちも引っ込んだ。イハリスのふざけた名乗りが一般に浸透しているのだと、グラモラは感心してしまったほど。
「セスは俺のこと調べなかったんだな」
オルフィックはセスを見直したようで、悪かったと謝った。近づく輩は躍起になって身分を探ろうとしてきたのに、セスは馴れ馴れしいが分別を持って接してくれた。家の場所を知ってさえ、突撃訪問もしたことがない。
余談として、過去にオルフィックの身辺を調べたり近づいて利用しようとした者たちは、オルフィックとイハリスが全力を以てその意気をことごとくボキボキ挫いてまわった。
「だって友達だと思ってたからさ。タイミング合えば教えてくれるかなって」
オルフィックのどこを気に入ったのか食いついて離れず、そのうちオルフィックも観念して相手をするようになった唯一の相手がセスだった。顔を見れば距離を詰めてくるわりに、個人情報を無理に引き出そうとはしないこの友人に、心地良さを感じているのは否定しない。
「セス」
なに、と返した青年。
「茶でも飲んでいくか。家で」
オルフィックが人生で初めて友人を誘った瞬間だった。グラモラも頷いて歓迎している。
セスは目を丸くした後、ニッと歯を見せて笑う。
「んー、ありがとう。でも今日は遠慮しとく! 急なお呼ばれはドギマギしちゃう。ティーパーティならちゃんと招待状送ってよ」
夕方だし、帰ったらすぐ夕飯だろうし、約束もしてないのにお邪魔するのは気が引ける。おちゃらけてはいても、優しい気遣いと遠慮はできる男だった。
「知るか。次会ったときは来ればいい」
「じゃあ次はお呼ばれされるね! それにしても、オルフィックは師匠がいなくなってほんとにずっと独りなのかと思ってたから、グラモラちゃんがいてくれてよかったよ」
「生活には困ってないって言っただろ」
「衣食住じゃなくて、精神面の話だよ」
「精神面にも全く問題ないが?」
「人には他者との交流が必要なんだよ、オルフィック。オルフィックが心を開いた人じゃなきゃストレスになっちゃうけど」
「俺にはもういまの人間関係が手一杯だ」
オルフィックには大事な家族も心を許せる友人もちゃんといる。セスは顔を崩した。
「じゃあ俺たち親友な!」
「調子乗るんじゃねぇよ」
けらけら笑うセスと手を振って別れた。




