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お、お、オルフィックぅ……。

こちらまでいらしてくださりありがとうございます。


ほのぼのいちゃいちゃがメインなので、とくに大した事件や起伏もなく穏やかに話が進んで終わります。

R15です。


 オルフィックとグラモラの師匠は魔法使いである。界隈では実力によって確立した地位があったものの、変わり者としても有名だった。


「オルフィックくんの魔法はスッとするミントみたいでかっこいいし、グラモラちゃんは……ほらかわいいよ! 真っ赤なクーガーみたいで!」


 と師匠であるイハリスは言うが、魔法にかっこいいもかわいいもないし、師匠の身内びいきなうえに独創がすぎる評価である。誰にも意味が通じない。


 ちなみに “Cougar(クーガー)” とは別名プーマやパンサーとも呼ばれ、狩りをする動物である。山の近くにいくと見られる。真っ赤な、とはグラモラの髪色からとったのだろう。捕食後の口周りの色だとは思いたくない。クーガーとグラモラの類似点といえば、やや耳が小さいことくらいで。とにかく魔法に関しての評価ではなかった。


 兄弟子のオルフィックとは違い、グラモラには全く魔法の才能はない。魔法の源となる魔力がないことは、家に加わる前からわかっていた。それでも師匠はグラモラを弟子と呼ぶのをやめなかった。自身にも家族のいなかった師匠は、弟子と娘の意味を同一視していたのかもしれない。


 血の繋がらない三人はそれぞれ他に身寄りもなかった。自宅も研究室も一軒家で済ませて一つ屋根の下での朝から晩まで春から冬まで共同生活だし実質家族だった。



****



 目覚まし時計が鳴り、グラモラはベッドから起き出す。身支度を整えたらダイニングルームへ。シリアルやフルーツやパンを置いてあるので、朝は各々好きなように食べる。昼食と夕食はグラモラが作る。人間としての生活力のない家族を支えているのがぎりぎり未成年のグラモラだった。


 平日の朝は師匠と兄弟子を起こすために部屋を訪ねる。

 師匠が自室にいなかったので、いつも通り研究室のドアをノックした。どうしても邪魔してほしくないときは“Do() Not() Disturb(しないで).” の表札を掛けることになっている。今日は表札はない。にも関わらず、中からの返事もない。深く考えもせずドアノブに手をかけた。


「師匠、入るよ。おはよう」


 机に倒れ込むようにして寝ている。起こそうとして肩に手を置いて、違和感に気づいた。

 部屋をぐるりと見渡して、回れ右。


「お、お、オルフィックぅ……」


「どうした」


 自室の机の上で魔法反応を起こしている観察対象から目を離さずに、メモをとりながら怠そうにきく。おおかた昨日から寝ていない。


「イハリス師匠が、倒れて青い顔してるの」


「叩き起こしてベッドに寝かせろ」


「……息してなかった」


 ようやく彼の手が止まった。グラモラの表情の抜けきった顔を見て腰を上げる。こちらに歩み寄って止まった。グラモラが出入り口を塞いでいたからそれ以上進めない。冷えた手で彼の横腹あたり、真っ黒なシャツをぎゅうと握り込んだ。実験に使う薬草の液やら動物から採った液やらペンのインクまで染み込んだよくわからない匂いのするシャツだ。エプロンをしてくれと進言しても横着して聞き入れられたことはなかった。


「心臓止まってるの」


 オルフィックの長い腕が背中にまわり、骨張った手が後頭部を包みこむ。


「師匠が、し、し、……オルフィック……」


 どうしてもその単語を口にすることができない。

 小さな体を縦に抱えたまま隣の師匠の部屋に駆け込むので、グラモラは視界もなくつっかかりながら後ろ歩きするしかなかった。


「違う、研究室」


 さらに隣の部屋で、オルフィックはグラモラを背中側に押しやった。

 彼はそれからもうずっと、なにをするにも無言だった。

 


 若い頃に命に無頓着な生活を送ったしわ寄せが今になって来たのだろう、とは遺体を診てくれた医師の診断だった。


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