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Abstract ―概要―
それが最初にどこで起こったのか、は現在に至るも結論が出ていない。アフリカの病院で、ある日コンピュータが一斉に使い物にならなくなった。南アジアの役所でスマートフォンが使えないと複数の職員が同時に騒いだ。南欧の地中海に面したホテルの監視室で、モニターが一斉に映らなくなった。この事件の初期にはそんな話が伝えられている。
災厄は世界同時多発的に発生した。その原因を発見した一人目と二人目の違いは、百メートル競走の勝者と二位程度の差しかなかった。一位と二位の差はオリンピックならば金メダルと銀メダルの差であり、当事者の名誉にとっては重大な事件となる。だが、短距離走の意義と名誉に何の関心もない者にとっては、一位と二位の差など、風が吹きすぎるよりも短い、一瞬の違いに過ぎない。
この発見物語がアフリカでも南アジアでも南欧でもなく、極東の島国で展開されたことは、単なる偶然が作用しただけのことだ。
もちろんその偶然は、発見した当人にとって重大な事件だった。