第9話「次の修行」
「もう魔力使えないから」
「え…」
絶句する。
(もしかして魔法使えない?でも”るーちゃん”や”ふうちゃん”のことはよくわかるようになったし、でもそれは魔素のおかげで?魔法?魔力?魔素???)
プシューとどこから聞こえてきそうなほど頭を回転させ、混乱したユナがそこにはいた。
「ふふっ。ごめんごめん。さっきパリンッて音したときあったでしょ?」
なんとか気を取り直して返事をするユナ。
「う、うん」
「あれ、魔力を生み出してるやつ壊した音」
「ええーーっ!?!?」
「でもおかげで、魔素はよくわかるようになったでしょ?」
「確かに…」
改めて、魔素を知覚する。偽神のいう通り、今まで何故気が付けなかったのか不思議なほど、ハッキリと魔素を実感している。
「多分だけど、変に加工された魔力よりも、魔素のほうが使える魔法は多いと思うんだ」
「ほんとに?魔法いっぱい使える?」
「うんうん!使えるとも!」
「よかった~」
紆余曲折あったが、魔法が使えるということで、やっと安堵することができたユナだった。
ーーー
「では、次の修行に入ろう」
「はい!」
次こそは魔法の修行!そう思い浮き足立つユナ。それを感じ取った偽神は、少し苦い思いがこみ上げながらも、次の修行内容を告げる。
「次は、魔素のコントロールの修行だ」
「はい!」
元気よく返事をした後で、その姿のまましばし固まる。
「…魔素のコントロール」
「ああ、そうだ」
「魔法のトリコロール」
「魔法じゃなくて残念だけど、魔素のコントロールだ。それにトリコロールなんて言ってない。ていうかよく知ってるねそんな言葉」
「へへん!もっと褒めてくれてもいいよ!」
「偉い偉い」
「ぶーぶー!!」
ぶー垂れているユナをおいて、偽神は話を進める。
「道具を扱うとき、例えば剣を使うなら、自分の身体が、どれくらいの筋力があって、どれくらいのものが持てて、どれくらいの速度で振れるか、それらを知るところから始めるだろう」
ユナは思い出す。剣の修行のとき、木剣でも精一杯で、お父さんの剣を持たせてもらえなかったことを。
「逆に、大剣をコントロールできる筋力があるのに、つまようじを振るっても意味がない。だからまずは、自分の魔素の特徴をつかんで、それをコントロールするところから修行を始めよう」
「うん…。わかった」
しぶしぶといった返事ではあったが、ユナはその必要性を身に染みてわかっていた。きちんと準備をしないと、怪我をしてしまうかもしれないということを。
木剣を初めて持たせてもらったとき、はしゃいで振り回し、手からすっぽ抜けて怪我をした時のことを思い出していた。すこし恥ずかしくなる。
「ぷぷぷ」
そうだった。偽神は読み取れるんだった。
ユナの顔が熱くなる。
「にーーちゃああああああああ!!!!!!!」
「ごめん!ごめんてゆーちゃん!!」
ポカポカと叩くユナとそれをなだめる偽神。”るーちゃん”と”ふうちゃん”はそんな二人を優しく見守っていた。
(感情が表に出ちゃうのも、悪くないのかも)
そんなことを偽神は思っていた。
ーーー
「といっても、僕と魔素の相性は最悪。魔素をちょっと流す以外は何もできないので、君の仲間たちに手伝ってもらう」
察したユナは二人を呼ぶ。
「るーちゃん!ふうちゃん!」
「ホウッ!」
「ワウッ!」
二人はそれぞれ羽ばたき、駆け寄り、すぐにユナのもとに来た。
「二人とも。ゆーちゃんの先生としてよろしく頼むよ」
「ホウッ!」
「ワウッ!」
「よろしくね!」
そう言って”るーちゃん”に抱き着くユナ。
羨ましいなと思いつつ、偽神は続ける。
「ゆーちゃんには、2つ。瞑想と流入をやってもらう」
「瞑想は知ってるけど”りゅうにゅう”って?」
「流し、入れると書いて流入だ。さっき僕がやったみたいに、魔素を外側に出す、魔素を流すことだよ」
偽神が手のひらを差し出す。フッと気合をいれると、魔素の丸い球が、ぼんやりと手のひらから生まれた。おそらくさっきまでのユナなら見れなかっただろう。だが、今はハッキリと見える。
「るーちゃんとふうちゃんは魔素のプロだ。きっとできるはずだよ。どう?」
それに応え、”るーちゃん”と”ふうちゃん”はそれぞれ魔素を放つ。
”るーちゃん”は身体をまとうような、電流のような魔素の流れを。
”ふうちゃん”は羽をはためかせ、竜巻のような魔素の流れを。
「すごいすごい!!」
”るーちゃん”も”ふうちゃん”も、へへん!と誇らしげだった。主人に似ているのだろうか。そんな姿のモフモフたちも可愛らしかった。
「素晴らしいね。僕じゃちょっと形を作るだけで精一杯なのに、電流に竜巻とは。これなら安心して任せられる」
ちょっと悔しそうにしながら、偽神が二人を褒める。ますます誇らしげだった。
「ゆーちゃんには、瞑想で自分の魔素と向き合って、特徴をつかんでもらう。ちょっとでも進んだな、わかるようになったなと思ったら、二人に魔素を流すんだ」
「るーちゃんとふうちゃんに、魔素を流せばいいの?」
「そう。そこで、るーちゃんとふうちゃんには、魔素のコントロールが合格か不合格か判断してもらいたい」
「ホウッ!」
「ワウッ!」
「それが次の修行だよ」
「ぐぬぬ…また瞑想…。わかった。ちなみに魔法の修行は?」
「まだ先かな。魔素のコントロールを覚えたら、次は属性の判定があって、魔法理論の座学があって、魔術理論の座学もやって、そしたらやっと魔法かな」
「ぐぬぬぬぬ…」
「るーちゃんもふうちゃんも、甘やかさないでね!」
「ホウッ!」
「ワウッ!」
任せろ!と元気に返事をした。ユナは恨めしそうに偽神を見やる。
「ちょっと暫くいなくなるけど、修行は毎日きちんと続けるんだよ。ごはんも用意しておくから。それと、ここ以外は安全じゃないから、あまり遠くまで行かないようにね」
「え、いなくなっちゃうの?」
「ちょっと、ほんの数日だけね。修行が終わるころには返ってくるから」
「1日で終わらせるもん!」
「そうかそうか、楽しみにしてるよ」
少し寂しそうにするユナ。その姿を見てか、自分自身も寂しくなってくる偽神。
それは自分に向けてか、ユナに向けてか。
「がんばってね!」
「うん!頑張る!」
「じゃあまた。行ってきます」
ハッ気づくユナ。出かけるときの言葉は、きちんと帰ってくるための言葉でもあるからだ。
だから心置きなく、こう返す。
「行ってらっしゃい!」
次回で一区切り着きます(予定)。着かせたい…!