第8話「魔力」
ヘブンバーンズレッドが熱いです。
おタマさん推しです。
「魔力ってなんだろうね」
ユナは一瞬ぽかんと口を開け、呆けてしまう。
「え…?神様ってなんでも知ってるんじゃないの?」
その呆けた顔を見た偽神は、くすりと笑いながら言う。
「神様だって何でも知ってるわけじゃないさ。知ってることだけだ。それに僕は紛い物だしね」
「なんだー残念」
偽神はごほんと咳ばらいをしながら、笑っていた顔を整えて、話を続ける。
「今見せてもらった感じだと、魔力って魔素と似てはいるんだけど、別物っぽいんだよね。てっきり人間たちは魔素のことを魔力って言ってるだけかと思ってたんだけど、どうにも違う」
偽神が”るーちゃん”に近づく。
「ちょっと確認したいことがあるから、首の当たり触っていいかな?あと魔法も」
「ワウ!」
”るーちゃん”の首元に手を当てる。
もふっ
なでもふなでもふ
「はわぁ~!」
感嘆の声を漏らしながら、思わず顔がほころびる偽神。
「にーちゃん!私のるーちゃん勝手になでなでしないで!」
ユナが駆け寄って”るーちゃん”と偽神の間に割って入った。
「ああ、ごめん。あまりにももふもふでつい…」
「最初はあんなにるーちゃんたちのこと嫌ってたのに!ぶーぶー!!」
またしてもユナの頬はぷっくりだ。
「いやーごめんごめん」
両の手を前で合わせながら謝罪をする偽神。
「もう勝手になでなでしないでね!」
「気を付けるよ。では改めて」
再度”るーちゃん”の首元に手を当てる。もふもふをかき分け、肌に触れるところまで手を差し込む。
「じゃあよろしく!」
「ワウ!!」
一声返事をすると、先ほどと同じ雷の魔法をバチバチチッと空に向けて放った。
「さすがだ。ありがとう」
そういって何気なく”るーちゃん”をなでなでする偽神。
「あー!!なでなでしないでっていったのに!!」
「いやあ~神をも惚れさすもふもふだよ~」
「にーちゃん!!」
「ごめんごめん。でもるーちゃんも喜んでるし」
「ワフウ~♪」
「ぐぬぬっ…」
何やら悔しそうなユナを横目に、偽神は真剣な顔をして話始めた。
「やっぱり人間の言う魔力は魔素とは別物だよ。るーちゃんが魔法を使うとき、身体の中では魔素が循環していた。でも、ゆーちゃんがさっき瞑想したときに流れてたのは、魔素とは明らかに違う。多分これが魔力って呼ばれるものなんじゃないかな。なんか純粋な魔素じゃなくて、何かが混ざったり、コーティングされてるような感じがしたけど。人間はみんなこんな感じなのかな?ゆーちゃんだけがそうなのかもしれないけど…」
偽神の怒涛の考察に気圧されたユナ。言う言葉は、いつも一つ。
「そうなの」
「まあ確かに魔素だ魔力だって話してても『そうなの』って感じだろうけどさ!ゆーちゃんってほんと考えるのめんどくさがりだよね…」
そういいながら、偽神がユナの後ろへと回り込む。ユナは偽神のほうをずっと見ていたので、自然と振り返って上目遣いの体勢になった。とてもかわいかった。
「どうして急ににやけてるの」
「なんでもないなんでもない」
感情のコントロールが苦手だとすぐ顔に出る。威厳を保とうと、偽神は一生懸命にやけ顔を抑えながら言う。
「ゆーちゃんは魔素を使えてるっぽいんだけど、それは外側だし無意識っぽいんだよね。だから、身体の内側から魔素の感覚がわかるようになれば、一気にわかるようになるはず。そこから試してみようか」
「そしたら魔法使えるようになる?」
「かもしれない」
「やった!はやくやって!はやく!」
「はいはい、またさっきみたいに首に手当るから、むこう向いて瞑想して」
「うん!」
そう元気よく返事をして、その場に座って瞑想を始める。だんだんと呼吸が整っていく。
偽神の手がユナの髪をかき分け、先ほどと同じように、首筋にペタッと当てられた。
「一度、魔素を流してみるから、何か感覚があったら手を挙げて」
「うん」
偽神も眼を閉じて集中する。魔素と相性は悪いが、集中すれば少しはコントロールできる。
「魔素はやっぱり嫌いだ…。いくよ!」
一生懸命集めた魔素を、気合を入れて流した瞬間。
「ぴゃっ!」
ユナは両手をビックリ挙げ、奇声を上げ、座っていたのにもかかわらず器用に跳ね上がった。
「やりすぎたかな…?」
「もう!びっくりした!!」
「まあまあ、落ち着いて。ばっちり感じたってことは、やっぱり魔素には適性があるってことだから。ね?魔法使えるから」
「魔法!」
目を輝かせながらユナ言う。
「てことは魔法使えるようになった!?やったやった!!」
「いや、それは気が早い。なんか引っかかる感じがあったからもう一度試していい?」
「えー、早く魔法の修行したいよ~、あんなビックリするのもうしたくないよ~」
怪訝そうな顔で嫌がるユナ。
「もう一回だけだからさ」
「もう一回だけだからね」
いやいやながらも、もう一度瞑想を始める。偽神はもう一度手を当てて、気を付けながら魔素を流す。
「ンッ」
息は漏れたが、今度はびっくりさせずに済んだようだ。
「…やっぱり魔素の引っかかりがあるな…、いや、なんか吸収されてるような…、魔力に…」
ぶつぶつと独り言を続ける。
「ゆーちゃんは生素も才能あるし…。やっぱり引っかかり邪魔だしなー…」
考え事をしているのか、偽神からの魔素の流れが止まったが、ユナは一応瞑想を続けた。
(なんだか魔素を流す前より魔力がわかりやすいような…。魔力…黄色みたいな感じ…。そんなことより集中集中!)
しばらく沈黙が流れた、が。
「えいっ」
パリンッ!!
「わっ!!なにごと!?!?」
突然何かが割れるような音がしてユナが飛び上がる。”るーちゃん”と”ふうちゃん”も警戒してか、バッとこちらに振り向いた。
「また驚かせちゃったね。ごめんごめん。なんか魔素の流れを悪くしてるやつがいたからさ、生素を流せば、その邪魔者消せるかなーと思って…。やっちゃった」
テヘペロと言わんばかりに舌をペロッとだしてウィンクする偽神。
「にーーちゃーーー!!バカーーー!!!」
テシテシと偽神を叩くユナ。
「でも、魔素の流れが良くなったはずだからさ、るーちゃんとかふうちゃんとか見てみ?多分ちょっと違う風に感じると思う」
「もう!」
そうは言いつつも気になり、”るーちゃん”と”ふうちゃん”のほうを見るユナ。
「すごい…」
思わず息を漏らすように言葉が漏れる。
「だろう?」
初めて世界をこの目で見たような感覚だった。
「そこにいるって、はっきりわかる。ふうちゃんとるーちゃんが、どれだけすごいか、わかる」
いままで魔素を知覚できていなかったユナにとって、ふうちゃんとるーちゃんは頼りになる優しいもふもふたちだった。
でも今は違う。きちんとその強さがわかる。
それだけじゃない。自分のいる場所が、世界が、一つクリアな視界になったような、そんな感覚。
「無意識でもなんとなく魔素探知はやってたみたいだけど、きちんとわかってて使うと違うみたいだね」
「魔素探知?」
「ああ。たぶんそれがあったからここまでこれたんだ。なんとなく魔物の気配がわかったり、視線を感じたりしなかったか?」
「うん。した。とっても怖かった…」
ユナは思い出して身震いする。数々の突き刺さるような視線たち、そしてあの恐ろしく巨大な魔物のことを。
「でも、おかげで避けてこられただろ?」
「それは…。うん」
「もちろん、るーちゃんもふうちゃんも魔物を避けていてくれただろう。でも魔素探知だけで言えば、ゆーちゃんのほうがずっと上手だったんじゃないか?魔物を避けていけば大丈夫って気持ちが多分あったはずだ」
ユナは思い返す。確かに”魔物さえ確実に避けていけば、生きてこの森を出られるはずだ。”と思ったことがあった。今思えば不思議だが、確かに避けていけるという自信が、ユナにはあったのだ。だが、あの巨大な魔物にあってからは、そんな気持ちはどこかへ吹っ飛んだ気がするけれど。
「言われてみればそうかも?」
「そうだろうそうだろう。そんでもって、知覚できる今なら、自分の魔素がダダ洩れなのがわかるだろ?」
”るーちゃん”と”ふうちゃん”がきちんと魔素を抑えているのに対し、ユナの魔素はダダ洩れだった。
「うわぁ…私の魔素ダダ洩れぇ…」
「まあおかげで、弱い魔物は近づかなかったというのもあるだろうけどな」
「これなんとかならないの?」
「そこからだな。修行は」
「そっか、頑張らなくちゃ!魔法のためにも!」
目を輝かせて、ユナは自分が魔法を使えるようになった姿を想像する。
「あ、言い忘れてたけど、たぶんゆーちゃん」
そこに水を差すような偽神の言葉が降りかかる。
「もう魔力使えないから」
いっぱい書けた気がします。