第7話「起き上がる」
前話は少し文量を多くしてみました。今回もちょっと多めです。
ーーー夢を見ている。
「ゆーちゃん、起きなさい」
「う”う”~ん、まだ暗いよ~~…」
「もう」
お母さんは私の布団をめくり、私の体をすくっと持ち上げベッドから降ろし、そのまま立たせる。
私は、朝起きるのが苦手だ。
「よいしょっ。ほら時間よ、起きて」
そして私の肩をゆする。
ユサユサ、ユサユサ…。
「うにゃんうにゃん」
ユサユサ。ユッサユッサ。
「うにゃんうにゃん」
ユッサユッサ…。ブンブンブンブン!!
「うにゃん…。うわわわわわっ!!起きた起きた!!おはよう!!」
「はい。おはよう。早く準備してね!」
私は、ほぼ毎日お母さんに振り回されて起こされていた。他のおうちがどうかはわからないけれど、うちのお母さんの起こし方は、多分強引だと思う。
二度寝することなく無事にベッドを離れ、準備をして玄関に向かうと、お父さんとお母さんが待っていた。
「ゆーちゃん。おはよう」
「おはよーお父さん」
「それじゃあ、行きましょうか!」
私たちの朝は、体力づくりから始まる。家族三人そろって、村をぐるっと一周するランニングだ。まだ少し暗いうちから走り始め、走っている間に朝日が顔を見せる。
朝日が昇り、少しずつ辺りが暖かくなってくるころ、ランニングを終え、やっと朝ごはんを食べる。お父さんが言うには、運動した直後にごはんを食べると筋肉が付きやすいんだとか。私はいつもベタベタな汗を流すのが先か、ペコペコのお腹を満たすのが先かで悩む。
朝ごはんが終わると、瞑想を行う。この時間が、私は一番苦手だ。魔力をコントロールする力を身につけるには、瞑想がいいと言われているらしいが、私にはちっともわからない。それにごはんを食べた後は、とっても眠くなるから。
寝ていると、トンッとお父さんに頭をチョップされる。私は毎日チョップされていた。
瞑想を終えると、剣の稽古をつけてもらう。お父さんがお仕事でいなくなるまでの間、振るところを見てもらって、その日やることを決めてもらう。
私はまだまだ筋力が足りなくて、木剣でも精一杯だ。でも、お父さんみたいに、いつか立派な剣を振るうのが夢だ。だからよくおねだりした。
「お父さんの剣持たせて!」
だがそう言うと、お父さんはいつも決まって
「まだ早いといってるだろう。いつか、ゆーちゃんにも守るものができたらな」
と言って、持たせてもらえはしなかったけれど。
そして、仕事へ行くお父さんを見送って、一人で剣の稽古を続ける。
お昼ご飯をたべてからは、お母さんに裁縫を習った。私は意外とちまちました作業も好きで、身体を動かす次くらいには、裁縫が好きだ。
「いつか、お母さんとお父さん以外にも、作ってあげたい人が現れるかもしれないわね」
「うーん。でも、お母さんとお父さんにずっと作るよ!」
「うふふ、そうね…。ずっと作ってほしいかも」
「うん!作る!」
その時私は、将来のことなんて想像もできなくて、そんなことを言っていた。無邪気に、ずっとみんなで一緒に居られると思っていた。
夜ごはんを食べて、お風呂に入ったらあっという間に眠くなる。朝は早いし、修行でへとへとだし、当然だった。
お母さんにずっと手をつないで、頭をなでてもらいながら眠る。お布団の暖かさだけでは眠れない、私のわがままだった。
もう、そんな毎日は返って来ないーーー
ーーー
誰かが顔を拭ってくれる。
「ゆーちゃん。おはよう」
偽神の声だ。
「おはよう…」
もう、もち上げて起こしてくれるお母さんはいない。私が、私自身で起き上がらなければならない。
「悲しい夢でも見たか?」
偽神ならユナがどんな夢を見たのか、すでにわかってしまっているだろう。でも、聞いてくれた。
「…ううん。良い夢だった」
一拍置いて、続ける。
「とってもいい夢!」
「そうか」
もふもふるーちゃんのお布団は名残惜しいが、もうウロの外は明るい。
私は起き上がった。
「昨日まで大変な日々だっただろう。だが、実はあまり時間がない。早速次の修業に入りたいんだが、大丈夫か?」
ちょっと苦しそうな、複雑な顔をする偽神。
「うん!大丈夫!ばっちり元気になったよ!身体も動かしたいし」
偽神のその苦しそうな顔が晴れるように、ユナは元気に言った。
それに、逃げている間は一生懸命走るか、身をひそめるために全く動かないかのどちらかだった。まともな身体の動かし方をしていなかったので、身体を動かすのが好きなユナにとって、身体を使う修行は楽しみだった。
思いがはっきり伝わって、偽神はハッと気づいたようになる。
「悲しそうにしていたから来たのに、僕のほうが元気付けられてしまったな」
「へへん!褒めてくれていいよ!」
「ああ、偉い偉い」
「もう!素直じゃないんだから!」
「それじゃあ、昨日言っていた通り、次の修業に入ろう」
グゥ~
「えへへ…」
「そうだな、まずは朝ごはん食べてからにしようか」
「うん!」
ーーー
朝ごはんを終えて、昨日と同じ開けた草原にみんな並ぶ。
「じゃあまず、みんなの実力を見せてもらおうか」
「まず魔法が使える、るーちゃんとふうちゃんから見ていこうか」
「バウ!」
「ホウ!」
偽神がどこからか用意した丸太をめがけ、それぞれが魔法を披露する。
パアンッ
「ふむふむ、さすが雷霆狼だ。雷の魔法で威力は十分。魔素のコントロールも申し分ない」
”るーちゃん”が魔法を当て、丸焦げになった丸太を見ながら、そう考察する。
「森閑梟はやはり恐ろしいな。るーちゃんの魔法で聞き取りづらかったとはいえ、おそらくほぼ無音の攻撃だろう。魔素の気配も、僕のレベルでは感じ取れなかった。すごいよ」
”ふうちゃん”が魔法を当て、すっぱり真ん中で分かれた丸太を見ながら、そう考察する。
「ホウッ!」
”ふうちゃん”が誇らしげに胸を張っている。
「まだまだ伸びしろはあるが、2人とも魔素のコントロールは僕から言うことはないレベルだ。じゃあ次に、ゆーちゃんのも見ていこうか。魔法は使えないんだよね?」
「うん。そういうスキルじゃないし」
「うーん。じゃあ試しにいつもやってたやつ、瞑想だっけ?やってみようか」
「わかった」
その場に座り足を組み、目をつぶる。いつもやっていたみたいに、自分の内側に、魔力を感じるように…。
ペタッと、偽神の手がユナの首筋に当てられる。一瞬集中が乱れるが、すぐに振り払って、集中を続ける。
しばらくして、何か考え込むようにボソッと偽神がつぶやいた。
「魔力…か。もういいよ、ありがとうゆーちゃん」
ユナは目を開けて、偽神を見る。私はどうだったのだろうと。
だが、偽神はしばらく何も答えなかった。
そしてやっと何かを発したかと思うと、それはユナにとってもわからないことだった。
「魔力ってなんだろうね」
「童心にかえる」って「返る」か「帰る」か定まってないんですね。
「返る」か「帰る」かで、意味が少し変わってきそうです。
童心ではないですが、今話では「返る」にしました。小さなことですけど、こだわっていきたいです。