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第61話「生徒手帳と血」

 それぞれ名前を呼ばれ、クラ先生のもとへと生徒手帳を取りに行った。

 ユナも自分の生徒手帳を受け取り、席に戻ってそれを眺める。表には、”ユリクス魔法学園”の文字と、紋章(もんしょう)が描かれていた。

 ユナは両親に教わっていたのもあって、問題なく文字は読める。だから、”ユリクス魔法学園”の方は問題なかった。

 しかし、紋章の方はわからなかった。物語の中で登場する国や騎士たちなどでは、紋章というものが存在することは知っていたが、ユナは校章という存在を知らなかったのだ。


 (なんか、転移したときの魔術陣に似ているような?)


 そのため、ユナは勘違いをした。

 その校章は、円の形をしていた。抽象化された剣と杖が中央でクロスしてはいるものの、その背景の模様は、複雑な模様が描かれており、それはユナがにーちゃんー偽神ーの手によって転移させられた時の魔術陣に似ていた。校章を知らないユナは、その紋章が魔術陣に見えたのだ。


 (魔法の学園だもんね。そんなものなのかも)


 そう区切りをつけて、今度は裏面を見る。そこにはユナのことが書かれていた。名前と学年、組、学籍番号。そして、また同じ魔術陣と、”この者を本学園の生徒であることを証明する”という文字。

 ユナの学籍番号は”2231317”だった。十三(13)という数字が見えると、今はどうしても自分のいるこの十三組と結びつけてしまうユナだった。


 「全員に配れましたかね。では、いまからケースと針を配ります。気を付けて後ろに回してってください」


 ユナは、次は中を見ようとしていたが、それをクラ先生が遮る。その手には、ちょうど生徒手帳が入りそうな、透明なカバーと、針が握られ、一番前の席の生徒に配っていた。


 「カバーは生徒手帳に付けるものです。そして針は、生徒手帳を身分証明書にするために使うものです」


 ユナはギルドでメンバーカードを作ったときのことを思い出した。


 「針、身分証明書…。ということはもしかして…」


 そんな独り言の答えはすぐに返ってきた。


 「皆さんには、この針で血を出してもらって、この生徒手帳の裏表紙、皆さんのことが書いてある、他よりもちょっと固い素材でできているココに、血を付けてもらいます」


 ユナは思わず肩を落とした。まさか、もう一度あれをやる羽目になるなんて。


 「身分証明書の最も一般的な、メンバーカード。今はギルドカードって呼ぶ人が多いんですかね。冒険者になるときには、メンバーカードを作ることになるのですが、何らかの方法で血を付与する必要があります」


 ”もうそれやったことあるよ”という小さな優越感と、”やっぱりまた血を出さなきゃいけないんだ”という小さな絶望感へと(いざな)う言葉だった。


 「そのメンバーカードと同じ素材で、この生徒手帳の裏表紙はできています。最初に触れた血に反応する特殊な素材ですね。そのうち授業で知る人も思うので、お楽しみにしててください」


 (そんなのなんもお楽しくないよ…)


 もう血はコリゴリなユナは、そんなことを思った。


 「では、わたしに見えるように、血をに付けてください」


 それを合図に、各々で針をチクッと刺し、血を生徒手帳に付け始めた。


 「これくらいよゆーよゆー!!」


 クラッソが声高に宣言し、ブスリと指に針を刺した。


 「いってぇええーー!!!」


 「うるさいわね!!」


 目の前の席のキオラは耐えかねて、甲高(かんだか)い声で不満を漏らした。


 「だって、血が!血がーー!!!」


 「そりゃでるでしょうに!!あーもうっ!」


 キオラはクラッソの手を取って、生徒手帳に付けさせ、絆創膏のようなものを取り出して、クラッソに渡した。


 「自分でつけなさい。ふんっ」


 「お、おう」


 そんなひと悶着も耳に入らないほどに、ユナは針と向き合っていた。


 「この針を…指に…針を…指に…ふぅ…ふぅ…」


 (はた)から見るとちょっと怖いくらいに針と自分の指を近づけて、プルプルしていた。

 ギルドでメンバーカードを作ったときでさえ、ユナはレイナに頼んで刺してもらっていた。もっと(さかのぼ)れば、ふうちゃんやるーちゃんと契約するときにも、自分では血を出せなかったのだ。


 「ふふふ、ユナさん、針が怖いんですか?」


 そう声をかけてきたのは、目の前の席のイツツだった。


 「あ…。えっと、そう、ですね。その…」


 変な集中で緊張していたユナは、指から針を離して、いったん落ち着いた。


 「ふぅ…。その、針が怖いのもあるんですけど、血が、怖くて」


 「わたくしが刺して差し上げましょうか?刺して…ふふっ」


 「えっ!いいんですか?」


 「ええ」


 どこか信用ならないような、でも、なんでか安心できるような、不思議な雰囲気のイツツに、果たして頼んでいいのか一瞬悩んだユナだったが、それでも自分でやるよりも何倍もマシだと思うと即座に決めた。


 「お願いします」


 針を渡す。


 「はい、お任せください」


 それを合図に、目を閉じて、左手の人差し指を差し出す。


 「ふふっ」


 プスッ。そんな音が聞こえた気がした。


 「イタッ」


 「はい、できましたよ」


 「あっ」


 ユナはちゃんと血が出ているのを確認して、その人差し指を生徒手帳に擦り付けた。


 「ありがとうございます!」


 無事に終えたユナは、忘れていたお礼をした。


 「いえいえ。ふふふっ、お綺麗ですね」


 「えっ?」


 その視線は、今擦り付け終えたばかりの、人差し指に注がれていた。そして、その手をイツツが取った。


 ちゅぷっ…。


 「えっ!?」


 次の瞬間には、ユナの人差し指はイツツの口の中だった。


 レロレロ、ちゅぷんと淫靡(いんび)な音を立てて、口から解放される。


 「こうしたら、すぐに治るかしら」


 「あ、そうですよね!怪我には、確かに…」 


 確かにユナも、父に唾でもつけておけば治ると言われたこともあった。だが、だとしても、それとこれとは話が違う。

 やはりちょっとイツツのことがわからなくて戸惑うユナだった。


キオラが、キ”ア”ラと表記揺れしてしまっていました…。失礼しました。

“キオラ・ランドロード”が正解です。遡って修正します。

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