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第6話「魔素と生素」

今朝見た夢なんですけど、自分の体を干からびさせて、やすりで身を削ることによって神に身を捧げるとかいう謎宗教の儀式に巻き込まれて、身を削るところで目が覚めました。狂気ですね。

 「魔素(まそ)生素(きそ)について、ね」


 そう、意味深長に言う偽神(にせがみ)


 「この世の神羅万象(しんらばんしょう)は、魔素と生素でできている」


 「そうなの」


 偽神がユナのことをじっと睨む。


 「ゆーちゃんわからないことがあると、すぐ『そうなの』って言うよね」


 ユナは、ギクッとイタズラがばれた子どものようなリアクションをした。


 「だってそんなの知らないもん!」


 「実はこの湖も生素でできてる、といったら?」


 「なにそれ!!気になる!!」


 ”るーちゃん”から身を乗り出して、目をキラキラとさせるユナ。押しつぶされた”るーちゃん”はフミュッと声を上げた。


 「この湖、この場所は願いが集う場所。生素は、主に欲求に影響を受けるんだ」


 「欲求?」


 「そこからか。欲求っていうのは、何かを欲しいとか、何かをしたいと思う心のことだよ」


 「ごはん食べたいとか?」


 その言葉で思い出したかのように、ぐぅ~とお腹が鳴る。


 「…そういうこと」


 偽神はやれやれと思いながらも、お腹を空かせたユナのために、ご飯を用意することにした。

 スッと姿が消えたかと思うと、またすぐにスッと姿を現す。その手には果実が握られていた。両の手に2つずつの全部で4つだ。それぞれ色が違っており、緑色、黄色、赤色、空色だった。


 「ほら」


 そういって3つを投げた。ユナは自分の方に投げられた赤い果実をキャッチする。

 あとの2つは”るーちゃん”と”ふうちゃん”に投げられた。二人とも口で器用にキャッチして食べる。


 「リンゴだ!」


 それは、ユナの手には収まらないほど大きなリンゴだった。赤々と輝いていて、採れたて新鮮だ。


 「いいの?」


 「もちろん。食べながらでいいから続けるぞ」


 そう言って空のような色の果実を食べながら、偽神が続ける。ユナもリンゴを食べ始めた。


 「生素は欲求とかに影響を受ける」


 シャクッ。


 「ふんふん」


 またリスのようなほっぺたになりながら、甘さをかみしめつつ、何とか話を聞いているユナ。笑みをこぼしながらも、なんとか眼だけは偽神を捉えていた。


 「一番強い欲求は、何だと思う?」


 ユナは考える。一番の欲求。ごはん食べたい?寝たい?修行したい?

 …ううん、そうじゃない。


 「一番の欲求は、誰かが誰かを思う気持ち」


 ユナもそうだった。お父さんと、お母さんとずっとそばにいて欲しかった。


 「そういった誰かのための願い事、例えばそうだな、『この子が無事に育ちますように』とかは大分多い(・・)。そういう欲求、願い事に生素が影響を受けて、神様に届けようとこの場所に集まるんだ。この湖は、そんなみんなの願い事でできてるんだよ」


 「願い事!じゃあ本当にーちゃんは願い事を叶える神様なの?」


 「ん、まあそんなようなそうでもないような」


 「そうなの」


 「まあでも聞き届けてはいるさ。それが僕の役割。といってもここを離れられないから、聞いて、ちょっとおまじないをするだけだけどね」


 そう言って寂しそうな顔をする偽神。


 「ここから離れられないの?」


 「…ああ、いろいろあって」


 そういいながら、偽神はごまかすように果実の最後の一口を高く放り投げ、うまいこと口でキャッチした。


 「まあそれはさておき、生素の話だ。生素の一番重要な役割は、魂だよ。ほとんどの生き物には魂がある。それのもとになるのが、生素だ」


 シャクッとしながらユナが質問する。


 「わらひにもあるお?」


 果汁が口の横から垂れ落ちる。


 「喋るか話すかどっちかにしろ。ああもうこぼしちゃって」


 そういってどこからか取り出したハンカチでユナの口元を拭く偽神。

 ユナはされるがままに拭かれた。そして、ゴクンと飲み込んでから続ける。


 「私にもあるの?」


 「もちろん。眼には見えないけどね」


 「ふーん。でも湖は見えてるよ?」


 「それは特別な才能があるからだよ。その子たちには見えてないはずだ」


 そういって偽神は”るーちゃん”を指さす。


 「ふうちゃんもるーちゃんも見えてないの?」


 二人に確認する。


 「ホーゥ?」


 「クゥーン」


 二人とも何かしら気配は感じているようだが、見えるの?と疑問に思っているような表情をしていた。

 ということは、魔物にもない、スキルにも現れない、不思議な力だということだ。

 ユナは俄然ワクワクしてきた。


 「どんな才能なの!?」


 「うっ…それは…」


 「それは!?」


 偽神が申し訳なさそうにつぶやく。


 「生素を見る力だよ」


 「生素を…見る力…?」


 ユナが固まる。


 「…それだけ?」


 「…それだけだ」


 「なにそれつまんない」


 「そんなことないぞ!生素が見えるっていうのはすごいことなんだ!!それに生素が見えなければ、僕たちは会えてないんだからな!」


 「会えてない?」


 「そうだ。僕は神の類だ。人間のゆーちゃんとは違う。だから普通の人には見えない。…はず」


 「そうなの?」


 「たぶんね。ふうちゃんもるーちゃんも、声は聞こえてるだろうけど、僕のことは見えてないはずだ」


 「見えてないの?」


 「フウ!」


 「バウ!」


 どうやら声の聞こえる方向を見ているだけで、ほとんど見えてないらしい。


 「ほらな」


 「へえー」


 「見えるってだけでも特別なことなんだ」


 「ふーん。そうなの」


 「その興味なさそうな返事やめろ!」


 「えー」


 ユナはブーブーと言わんばかりに口をすぼめる。


 「じゃあ、もっと興味ありそうな魔法の話をしよう」


 「魔法かー」


 「興味ないのか?」


 「だってスキルがないと使えないじゃん?」


 「そうなの?」


 「え、そうじゃないの?」


 ユナも偽神もそろってキョトンとした顔をする。


 「別に魔法使いなんてスキル持ってなくても、ほとんどの人が魔法は使えるはずだよ」


 「ほんとに!?私も使える!?」


 「ゆーちゃんも使えるっていうか、もう使ってない?」


 「え、全然使ったことないけど。魔力もほとんどわからないし」


 「使ってるような気がするけど…。そういえば人間は魔力って呼ぶんだったな。魔力が何を指すかは知らないけど、魔法は魔素を操って形作るものだ。ほとんどの生き物には魔素があるから、コントロールさえできればできるはずだよ」


 「どうやったら使えるようになるの?」


 「魔法もそうだが、この世の物質は魔素からできてるんだ。もちろん、ゆーちゃんの体も。だから、魔素を感じる才能は誰しもがもってる。それに、ゆーちゃんには魔法が使える師匠が二人もいるんだ。詳しいこと彼らに教えてもらおう」


 そういって”るーちゃん”と”ふうちゃん”のほうを見る。


 「にーちゃんは?にーちゃんの魔法見たい!」


 「実は僕は使えないんだ」


 「どうして?」


 「偽物とはいえ神様だから、かな」


 「どういうこと?どうして神様だと使えないの?」


 「僕みたいな存在と、魔素との相性は悪いんだ」


 「そうなの」


 「そうなんだ」


 ユナは変なことを聞いちゃったかなと気まずい気持ちになった。偽神もそれを感じ取り、しばらく沈黙が流れる。


 「…というわけで」


 偽神の雰囲気がまた変わった。”るーちゃん”と”ふうちゃん”が反応する。二人の視線がきちんと同じ方向を向く。どうやら二人にも見えるようにしてくれたみたいだ。偽神が二人に軽く手を振る。二人も軽く鳴いて挨拶をしたみたいだ。


 「1つ目の修業、座学はこれくらいにして、2つ目の修業に入ろうか。ゆーちゃん身体使って覚える方が得意そうだしね」


 「うん!」


 ユナにとって、修行といえば身体を動かすことだった。お父さんに習った剣も、お母さんに習った裁縫も。


 「でも今日はもう遅いから明日からな」


 「言われてみれば」


 すでに周辺は薄暗くなってきてる。だが、昨日までのような魔物の視線などはない。この場所は、本当に変わっている。


 「ここは魔物は寄ってこないから、安心して眠るといいよ。ふかふかのベッドとかいうのはないけどね」


 「ううん!安心して眠れるだけでも、全然違うから!」


 ユナはすっかり偽神に心を許していた。偽神はそんな純真さに危うさを感じつつも、このまま真っすぐに育ってほしいという、愛情のようなものを感じていた。


ーーー


 水浴びを済ませて、偽神に案内されるまま、湖の奥へ少し進む。


 「リンゴ、一個で大丈夫だったか?」


 「うん。でも明日の朝ご飯はもう少し食べたいな」


 「そうか。もうちょっと用意しておくよ」


 「ほんとに!ありがとう」


 そんな話をしながら歩くと、しばらくして少し開けた場所に出た。


 「ここは湖の次に綺麗な場所だ。ウロでも木の上でも、草原にそのまんま寝たっていいぞ。たぶん」


 「うーん、慣れたしウロでみんなと寝るよ」


 そういって3人で入れそうな大きな木を見る。ユナ10人分くらいの高さはあるだろうか。ウロは十分な広さがあった。


 「そうか、それじゃおやすみ」


 普通の寝るときの挨拶だ。だが、ユナにとって、それは久しぶりの挨拶だった。


 「うん!おやすみ!」


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