第49話「入学試験」
ドオンッ!!
また、遠くで派手に音が響く。
実技試験の内容は、レンやサリナから聞いてはいたが、聞いてみるのと、実際にやるのとでは訳が違った。というか、聞いていた話とも違い、日はすでに傾き、空は赤くなりつつあった。
実技試験は筆記試験から続けて行われた。午前は十時から二時間の筆記試験が行われ、昼休憩を挟み、十三時半から実技試験が行われた。各種説明があり、実際に始まったのは十四時。
「ふぅーっ…。もう、一時間以上は経ったと思うけど…」
現在時刻は十六時なので、実際にはすでに二時間が経過していたが、ユナに知るすべはない。
ーーー
入学試験対策を始めたばかりのころ。サリナがレンにいろいろ吹き込まれてきたことを、ユナに教えていた。
「実技試験は鬼ごっこらしい」
「鬼ごっこ?なんか怖そう…」
「もしかして、鬼ごっこ知らないのか?」
「はい、知らないです」
「マジかよ。そうだな、鬼ごっこってのは、鬼に捕まったら負けの逃げる遊びだな。子どもが集まったときの定番だ」
「逃げるのが、実技試験なんですか?」
「らしいぞ。学園に入学するのは、だいたい託宣を受けてスキルがわかってからだから、だいたい七歳くらいで、大半は戦闘系のスキルで、冒険者にあこがれてくるやつが多いらしい。ギルドで募集呼びかけてるのも見るくらいだしな。まあでも、それくらいの歳のやつが、スキルって言う大きな力を持つと、どうしたって気が大きくなる」
「うっ…」
自分にも思い当たる節があったユナは、思わず苦い顔になる。
サリナはそれを見て、様々な思いが駆け巡ったが、あえて口にはせず、説明を続けた。
「そういう生徒が事故を起こして、一度ものすごい学園が叩かれたことがあったんだ。それ以来、実技試験が今みたいになったらしい。きちんと逃げられるなら良し。立ち向かう力量があるならなお良しってな」
「…そうなんですね」
ユナには、その事故がどんなものだったのか、想像がついた。きっとその生徒は、もう生きていないのだろう。
(私は、師匠のおかげで今も生きているけど…)
ユナはサリナの左腕を見る。ユナを守ったときに失った左手。その先端は赤紫で塗り固められていて、傷口はない。それでも、ユナには生々しく、痛々しく見えた。少し、心がキュッとなる。
(私のせいで。本当は私が師匠のそばにいて、助けてあげないといけないのに)
そんなことが脳裏を過る。それを察してかどうかはわからないが、サリナはふと告げた。
「俺の弟子なら、問題なく受かるさ」
「はい!」
後ろめたさを振り払うように、ユナは元気に返事をした。
「ちなみに、試験は大体三十分、長くとも一時間くらいで終わるらしい。それくらいなら【探知】もつよな?」
「うーん」
無意識に【魔素探知】を使い続けていることはあったが、意識的に使うようになってからはどうだったか、ユナは思い出してみる。
やはり一番長く使っていたのは、あの夜だろうか。師匠であるサリナを探すために、敵から逃げるために、一時間くらいは使っていた気がした。
「大丈夫です!たぶん!」
「たぶん?」
「あ、いえ!大丈夫です!」
「…そっちの対策も一応しておくか」
「…はい」
少し照れながら、正直に答えたユナだった。
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実技試験は、学園の想定をはるかに上回る時間が経過しても終わっていなかった。
「まだやってるんですか?今年は優秀ですね」
別室では、教師陣による入学試験のモニタリングが行われていた。
授業を終えたらしい教師が、ずっと見ている教師に話しかける。
「ええ。すでに過去最長ですね」
「一番短いときはどれくらいでしたっけ?」
「確か、ミリス先生が暴れたときの十分ですかね」
「あー、あれは酷かった。あれ、今年もミリス先生担当じゃないですか?」
「そうですね。それも含めて優秀ということです」
「と、いうのは?」
パァンッパアンッ
モニターから二発の号砲が聞こえた。
「終わったみたいですよ。行きましょうか」
「は、はい!」
他に見ていた教師たちも、次々に部屋を後にしていった。このあと、教師陣での合否会議が行われる。
「ふふ、楽しみですね」




