第5話「修行」
私事ですが、一つ歳を重ねました。これからも精進していきたいです。
「ここは願いが集う場所。名もなき願いの湖なんだよ」
そういって偽神はふっと力を抜く。さっきまで纏っていた雰囲気はどこかへ消え去った。
そして、音も出さずに、すっと石像から飛び降りる。
「ゆーちゃんもどこかで感じてるはずだ。この湖がただの水でじゃないって」
そう言われて、ユナは考える。そういえば最初、何も考えずに歩いたことを思い出す。
「そういえばあれ、お水なのに歩けたよ?」
「え、もしかして何も考えずに歩いてたのか?」
なんて無粋な、とでも言わんばかりの視線を向ける偽神。
「だが、才能はあるというわけか」
「才能?」
「ああ、ゆーちゃんには他の人間にはない、特別な才能がある」
ユナにしかない特別なもの。思い当たるのは一つしかない。
それはもちろん、モンスターテイマーだった。
瞬間、チリッと場の空気が痛くなったような気がした。
「ユナ…」
先ほどの暴発させたときとまではいかないが、偽神からその時と同じなにかが漏れているようだった。
「にーちゃん…」
しばらく沈黙が流れる。
「…僕から言いだしといてすまない。感情のコントロールはあまり得意じゃないんだ」
偽神は深呼吸をして心を落ち着けているようだった。思考が読めてしまう偽神の前で、モンスターテイマーのことを考えるのはよくないようだった。
「そうだな、ゆーちゃん。気絶させたお詫びもかねて修行をつけてあげよう。好きだろ?」
「!!」
そうだ。ユナは毎日修行をしていた。モンスターテイマーにならないために来る日も来る日も、お母さんとお父さんに修行をつけてもらっていたのだ。両親と一緒に過ごす時間は、ユナにとって幸せな時間だった。
「でも、それはお父さんとお母さんだったから…」
ちょっぴり悲しくなったが、もう泣かない。偽神もそれを悟ってか、表情を崩さないよう一生懸命だった。
「そうなんだろうな。でも、友だちとの修行も、楽しいかもしれないぜ?」
ユナは思い出す。お父さんとの修行。お母さんとの修行。そして、魔物のみんなとの修行。ユナにとって誰かと一緒に過ごすということは、修行をすることだった。
「たしかに!!」
そういって、ユナは目をキラキラさせる。
「でも…」
ユナは”るうちゃん”と”ふーちゃん”を見る。偽神はおそらく魔物たちが嫌いだ。でも、ふたりとは離れたくない。
ユナは目をウルウルとさせた。
「…ああ、そいつらも一緒に面倒を見てやる」
「本当に!?ありがとう!!」
ユナはうさぎのように跳ねて喜んだ。そして”るうちゃん”を抱きしめた。”ふーちゃん”も優しい眼差しで見つめていた。
「ゆーちゃん」
「はい!」
「ゆーちゃんは自分のスキルのことも含めて、この世界のことを知らなすぎる。だから、最初の修業は座学!この世界について、お勉強しよう」
「えー…」
ユナの元気はどこへやら。
「でも、この湖が歩けた理由知りたいだろう?」
「知りたい!」
ユナは興味津々だった。美しい湖も、あの石像も。好きになったこの場所のことを知りたいと思った。
「じゃあ教えてあげよう」
そういって、偽神はぶほんとわざとらしい咳ばらいをする。
「魔素と生素について、ね」