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幕間2「レンレンと短剣」

本編はお休みです!けど、更新です!

23話と24話の間の物語です。

 ユナがユリクスセレファスに来て三日目。探知を披露した翌日のこと。


 「今日は休みだ」


 「修行は!?」


 「お前な…」


 サリナがユナの頭に拳を置き、グリグリ。


 「いたたたっ!!」


 「ちったあ反省しろ!」


 それは昨日、探知を披露した後で、姿を(くら)ましたことを指してのことだ。深くは追及しないものの、反省までしなくていいとは言っていないと、サリナは憤慨した。


 「いいか、師匠の俺が休みと言ったら今日は休みだ!いいな!片付けでもしてろ!」


 そう言ってサリナは宿をあとにした。


 ユナが今いるのは、ナートの宿、豊穣亭。レイナが住んでいる宿だ。


 豊穣亭は、最近酒場の業務でてんてこ舞いで、宿の業務まで手が回らず、レイナのような自分で掃除できる長期利用客しか受け付けていなかった。ガサツでその日暮らしの冒険者で溢れかえる酒場と、そのような宿では客層が違いすぎて、部屋はいくつか空いていた。


 レイナも様子が気になっているというのと、なんだかんだナートさんも面倒は見てくれるとのことで、サリナとユナは同室で、豊穣亭に今日から一緒に暮らすこととなった。


 「なんでそんなにこいつに肩入れしてんだか…」


 その言葉は、宿代がサリナとレイナで折半となったことに起因する。そのおかげでサリナは、前の宿と大して変わらないのに風呂付きと(ちまた)でも噂の宿にランクアップできたが、もし自分だったら子どもとは言え、会って数日の人間にそんなに肩入れできないなと思った。すっかり子煩悩ならぬ弟子煩悩になるとは、この時のサリナは露とも知らない。

 ナートがサリナとユナという問題児ペアを受け入れてくれたのは、レイナの人望という名の支払い能力によるところも、あるのかもしれない。


 「片付けったって…」


 というわけで、ユナは同宿内でレイナの部屋から引っ越してきた。着の身着のままのユナは荷物があったわけではなかったので、本当にただ部屋が変わっただけだった。

 しかしながら、サリナもほぼ荷物がなかった。でかい巾着一つ。多少の着替えと得物が入っているらしいそれは、触るなと言われた。

 つまり、ユナは片付けるものなんて何もなかった。


 「なにしたらいいんだろ」


 これは何か自分で考えて何かしなくちゃいけないという、師匠からの試練なのかと、ユナはうんうん悩みながら、とりあえず掃除を始めた。

 ちなみにサリナは何も考えてなく、ただ素直に”ゆっくり休め”と言うのがむずがゆくて、適当に言っただけだった。



ーーー



 夜、サリナが部屋に戻ると、そこには部屋をピカピカに掃除したユナがいた。


 「あ、師匠。おかえりなさい」


 「…お前、ずっと掃除してたのか?」


 「はい!」


 「…そうか」


 サリナが相手する孤児院の子どもたちは、目を離したすきにすぐサボろうとするような悪ガキが多く、ユナのようなタイプは接したことがなかった。


 「やりずれー…」


 「師匠?」


 「あー…。弟子よ、お前まだここ来てからロクに休んでないだろ。俺が休みって言った日はきちんと休め」


 「…ダメでしたか?」


 そのユナの眼は、サリナの心に強く響く。自分の居場所に必死で縋りつくような、不安の眼差し。


 「…いや、ありがとう。でもな、別にやらなかったからって、追い出したりしねぇ」


 そう言って、サリナはしゃがみ、手をユナの頭にかざす。

 それが朝のように、頭をグリグリされるのかと、ユナは不意に目を閉じた。


 サリナは、ユナの頭を撫でた。

 思っているような痛みとは異なる感触がきたユナは、戸惑いながら目を開く。


 「ここはもう、お前の場所でもあるんだ」


 目線を合わせて、目を見て話す。


 「…うん」


 その言葉が、ユナは少しすんなりとは受け入れられなかった。おうちも、にーちゃんー偽神ーも、ふうちゃんもるーちゃんもいたから。

 それでも、その言葉は、ユナの心を少しばかり穏やかにしてくれた。


 「…わかりゃいい。晩飯行くか」


 「はい!」


 その日の晩御飯は豊穣亭の酒場で食べた。ビーフシチューが絶品で、冷えた体に沁みて、ユナは顔をほころばせたのだった。



ーーー



 そしてその翌日。


 「今日はレンと買い出しに行ってこい」


 「レンと?師匠は?」


 「俺は用事があるから。レンにはここに来るように言ってあるから待ってろ。じゃ!」


 そう言って早々に部屋を出ていった。


 「師匠のアホー…」


 ユナの言葉は虚しく消えた。



ーーー



 暫くしてドアをノックする音で、ユナはビクッと跳ね上がった。


 「ユナちゃんいる?レンだけど」


 「はい!」


 玄関を開けると、レンがいた。ギルドであった時とは違って、今日は装備ではなく、私服のようだ。遊び心のある(がら)が特徴的なのは、防具とおそろいだった。


 「サリナから聞いてる?」


 「はい!レンさんと買い出しに行けって」


 「…それだけ?」


 「はい…、それだけですけど」


 「はぁ~……この○○」


 その声はユナには聞こえなかった。


 「?」


 「いやいや!なんでもないよ。じゃあ行こうか!」


 ちなみにレンは、基本的に言葉遣いが荒い冒険者たちよりも、(ぐん)を抜いて口が悪かった。しかし、外面(そとづら)は非常にいいので、その口の悪さを実際に耳にしたものは居ない。

 しかし、あまりのサリナの適当さについ漏れかけてしまったようだ。慌てて取り繕いつつ、ユナを街へと連れだした。



ーーー



 「ユナちゃん、師匠があんなでいいの?」


 「…はい」


 「今一瞬考えた?」


 「うっ」


 「アハハ」


 レンに軽く茶化されながら街を歩く。いつの間にか手を繋がれていた。


 「お!レン!今日はいいのが入ったぞ!寄ってかないか!!」


 気前のよさそうなおっちゃんがレンに話しかけてきた。


 「ありがとう!でも今日はこの子をエスコートしなくちゃいけないから、またね」


 「そうか、残念だな。また来いよ!」


 「ああ!もちろん」


 ユナは陰に隠れながらなんとかやり過ごしたが、すぐに次の人が声をかけてくる。


 「レンちゃ~ん!」


 「リタさん!いつもお花ありがとうね!」


 「なんのなんの!その子は?」


 「ああ、この子はサリナの弟子だよ」


 「へぇ~!お名前は?」


 花屋さんのリタが、ユナに目線を合わせて聞く。


 「ユ、ナ!です!」


 人見知りして緊張したユナは、躓きながらも答え切った。


 「ユナちゃん!そう!可愛いね~!今日はデートかしら」


 「ああ、そうなんだ。ちょっと買い物にね」


 「そう!いってらっしゃい」


 「いってきます」


 「は、はい!いってきます!」


 「レン!今日は~」


 「レン!」


 「ねえレンくん~~!」


 街を歩けば歩くほど声を掛けられるレン。それに振り回されるユナ。お目当ての店に着くまでそれは続いた。


 「やっとついたねー」


 二人は目的のお店の前に、やっとのことでたどり着いた。


 「レンさん、いろんな人に好かれてるんですね!」


 ユナは人見知りしすぎて疲れつつも、いろんな人とお話ができるレンを尊敬の眼差しで見ていた。


 「まあ、それが取り柄だからね~。ユナちゃんほら、レンって呼び捨てで呼んでみてよ!」


 ぐいっと来るときは来る。それがレンの強みなのだろうか。ユナは若干圧倒されつつ、半分恥ずかしさもあって、ユナの呼びやすい呼び方で口にする。


 「…レンレン」


 「レンレンか!えへへ~嬉しいな~!」


 イケメンの笑顔は破壊力抜群だった。


 「ユナちゃん!さあ入ろうか」


 「ここが買い出しの場所?なに屋さん?」


 「それも聞いてないのか…。今日はね、ユナちゃんの武器を買いに来たんだ」


 「へ?でも、私、お金」


 「それは大丈夫!サリナに後で請求(・・)するから!!」


 事前に渡すとサリナに言われていたが、ついぞお金を受け取っていないレンは、私怨を込めて言った。イケメンでも怖いものは怖かった。


 「ふぇ…」


 「さあ!行こう!」


 手を引かれ、ユナは武器屋へと入っていった。



ーーー



 「ユナちゃんの探知は、俺っちの【気配探知】と近いから見てくれって、サリナに言われてきたけど、ユナちゃんは何がいいとかある?」


 「剣!長剣がいい!です!」


 「剣かー。そしたらトウカのほうがよかったかな」


 「トウカさん?」


 「ああ、俺っちのパーティーメンバーで大剣使いがいるんだ。まあ剣は初心者向けのもあるし、とりあえず見てこうか」


 そうして二人で手に取りながら、剣を見比べていく。銅のもの、鉄のもの、材質の検討もつかないもの。真っすぐのもの、曲がっているもの、派手な装飾がされているもの。


 「長剣だと、どれもまだユナちゃんにはちょっと早いかな?」


 「ぐぬぬ…」


 修行はしていたものの、やはりユナにはまだ重く、うまく扱えないでいた。


 「他には、短剣とか?」


 「短剣、うーん」


 やはり父に憧れのあるユナは、長剣が諦めきれなかった。それでふと、サリナの武器が気になった。


 「そうだ、師匠は何使ってるんですか?」


 「サリナは双剣だよ」


 「双剣?」


 「短剣を二つ、両手に構えるんだ。手数が圧倒的に増えるけど、その分取り回しが難しい武器だよ」


 「そうなんですね…」


 ユナは、思い出す。


 (「ここはもう、お前の場所でもあるんだ」)


 そう言ってくれたサリナの言葉は、少し師匠っぽくて、憧れのようなものを、ほんの少しだけ(いだ)かせた。理由はそれで十分だった。


 長剣の横に並んでいる短剣から、二つ手に取り構える。ユナでもなんとか扱える重さだ。


 「私も双剣にします!」


 「双剣か。確かにサリナに教わるならいいかもね!」


 それでパッとユナの顔が明るくなる。


 「でも、それならまずは短剣からかな」


 「え…」


 それでユナの顔は一瞬にして暗くなる。


 「まずは片方できちんと扱えるようになってから」


 ユナはしゅんとしてしまう。

 だからというわけではないが、レンは話し始めた。


 「サリナもそうだったんだ」


 「師匠も?」


 「うん。サリナもうまく扱える武器が短剣しかなくて、そこから始めた。手数が必要になって、双剣の練習をしたんだ」


 「…」


 ユナは二つの短剣を見て、自分には少し重かった方を置いた。


 「えらいぞ!ユナちゃん!」


 「うん!」


 「そうだな、双剣はサリナに、師匠に認めてもらったときに、師匠に買ってもらおうか!」


 それでまたユナの顔はパッと明るくなった。


 「うん!そうします!!」


 「じゃあ、短剣を一つ、買おうか。それでいい?」


 「うーん…。はい!このこにします!」


 「よし!」


 合わせて鞘と腰に装備するためのベルトを買って、レンがお会計を済ませた。

 ユナは初めて、自分の武器を装備する。


 ユナはやっと、きちんとした冒険者になれた気がした。


 「…よく似合ってるよ!」


 その言葉を言うか、レンは一瞬悩んだ。こんな子どもが武器が持つのは、果たして褒められたことなのか。それでも、冒険者として頑張りたいというユナを応援する気持ちも込めて、ハッキリ声に出した。


 「うん!ありがとう!レンレン!」


 「ああ!」


 後日、想像以上の額を請求されたサリナは、これなら先に渡しておけばと、後悔したのだった。


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