第40話「生きてたけど」
「るーちゃん…!るーちゃん…!!」
「ワウワウ!」
涙を流しながら、ふうちゃんの羽毛とはまた違う、力強いもふもふに顔をうずめる。その暖かさに包まれて、また涙の波が来る。ちょっと鼻水がついたり、涙でびしょびしょになっても、るーちゃんは応えるように抱きしめてくれた。
ユナがるーちゃんと会うのは、ふうちゃんと同じで、探知を見せるためにレンとサリナと森に行って以来だ。長いような短いような、ユナにとって不思議な時間を越えての再会だった。
「うっ、ひっく、あーーーーー」
ユナの声が響き渡らないように、ふうちゃんは高度を上げて、るーちゃんはより力強くユナを抱きしめた。
二人と別れてからのことが、ユナの中を駆け巡る。
一緒にサリナが泊まってくれていたから寂しくはなかったけれど、でも、時折酷く不安になる日々だった。知らない場所で、知ったばかりの人に囲まれて、にーちゃんーー偽神ーーともいろいろあったユナの心は、酷く揺さぶられていた。まだ安定しないその幼い心で、【モンスターテイマー】を隠して抱えて、それでも必死に冒険者という仕事にしがみついて、ここまで来たのだ。
「うっ…、ズビビ…。今度ば師匠ぼみづげないど」
「ホウ!」
「ワウ!」
その不安な日々を支えてくれたサリナが、居なくなってしまわないように。三人は師匠を改めて探し始めた。
ーーー
るーちゃんを追いかけるのと、バウハウンド(?)から逃げるのとで、だいぶ右往左往してしまっていた。
「どっち行けばいいかな?」
月のない夜は方角がわかりにくい。サリナが出たであろう方角も、自分たちがしらみつぶしにしていた範囲もわからなくなっていた。それだけ必死だったからこそ、ここにるーちゃんは居るのだけれど。
「ホウー」
「さすがのふうちゃんもわからないかー」
今飛んでいる高さからは、街の外壁を見ることができた。そのため、今いる場所と街との距離は分かったが、方角は分からない様子だった。
「ワウ~」
「上空は匂い流れてっちゃうもんね」
「クウン」
るーちゃんも難しそうだ。
「私が探知の範囲を頑張って広げられないか、やってみるよ!」
「ワウ!」
涙が乾いてきて、ユナは探知に集中できるくらいには落ち着いてきた。ふっと息を吐いて、呼吸を整える。
そして、あやふやに広げていた探知をきちんと整える。
「あ!」
すると、ユナの探知に人間が引っかかった。だが、二人じゃない。サリナは、あの怖い人と二人だったはずだ。
「四人…?」
大丈夫。今度は生きている。全力で走っているのか、かなりの速度で動いているのがわかったから。街のほうへ向かっているのだろうか。
「もしかして!」
魔素探知を、人間じゃなくて魔物よりのものに変える。
「あれ?」
だが、探知には何も引っかからない。てっきりバウハウンド(?)から逃げているのだろうと思ったユナは戸惑う。
「…わかんないや。あっちで何かあったのかな?」
「ホウ!」
「行ってみよ!」
ふうちゃんの同意を得て、ユナはパーティーが逃げている方向と逆の方向、街から遠ざかるその方向へと向かった。
すると、ポツリポツリと魔物が引っかかり始めた。
「ふうちゃん!」
「ホウ!」
ユナは、その魔物と距離を取りつつ、視認ができそうな所へふうちゃんを移動させる。どの魔物も、同じ方向へと向かっているようだった。パーティーが逃げている方向とは、まるで逆だ。見てみると、やはりその魔物はバウハウンド(?)だった。
「これだけの数が集まってるとなると!ふうちゃん急いで!!」
「ホウ!!!」
ユナの直観だった。この群れは、どこかに集まったり、逃げたりするために走ってるんじゃない。何かを倒すために、戦いのために集められている。そんな直観。
果たして、その先には。
「師匠!!」
探知を人間に切り替えながら飛んだ先には、二人の影。目に移ったのは、師匠と、あの怖いギリークという人だ。
「生きてた!生きてたけど!!」
手前側、街に向けた方角のところは少し煙りが残っていて、その周りだけバウハウンド(?)が余り集まっていない。サリナが臭い玉を投げたのだろう。周辺には脱ぎ捨てられた鎧が散らばっている。少しでも早く逃げるために捨てていったのだろうか。街の方角というのも、先ほどのパーティーの逃げ道と一致する。
つまりは、他のパーティーを逃がして、自分たちは引き付けるために残ったということだ。
探知を魔物に切り替える。
「ぐっ!!!」
情報過多な感じがした。100、いや、200だろうか。それらが複雑に連携して、次々と攻撃を繰り返している。それなのに、今まさにその数はどんどんと増えていた。このままでは、サリナたちのキャパシティをオーバーしてしまう。
「ダラアッ!!!!!」
ギリークがパワーで周囲一帯を弾き飛ばし、その合間を縫って、サリナが技術で打ち漏らしたバウハウンド(?)を弾き飛ばす。
ギリークが吹っ飛ばしたバウハウンド(?)はぐったりしていて動かなかったが、サリナの攻撃で弾いたバウハウンド(?)は、また次の攻撃に参加していた。
ギリークが倒していく匹数よりも、増えていく匹数の方がずっと多い。
「えっっと!!!!ふうちゃんで助けて、いや!!るーちゃんの雷、いや、声で…」
ユナはパニックのまま、次の指示を出す。
「あー!!るーちゃん!!」




