第4話「にーちゃん」
初めて予約投稿?をしてみました。うまくいきますように!
「神様のまがい物、偽神様とでも呼んでくれ」
ユナは怪訝そうな顔を向ける。
ただでさえ神秘的な石像の上に乗り、「死ぬほどつまらない」などと罵り、気絶させ、あまつさえ偽物とはいえ神を名乗るなどと、そのようなものに、ユナは未だかつて会ったことがなかったのだろう。
「罰当たりすぎない?」
「ん、まあなんだ。そうとしか言いようがないというか」
「そうなの。じゃあにーちゃんね!」
「もしかして君のその魔素ちく…、お仲間さんと同じ名前の付け方してないか?」
ユナは不機嫌な顔をしながらぷいっと顔を背ける。
「また言ったでしょーそのなんとか畜生って。私知ってるんだからね。畜生がひどい言葉だって」
ぷっくり膨れた姿はまるでリスのように、まんまると膨れている。それを目の当たりにしたにーちゃんは、どこか愛おしい気持ちになっていた。
「まあなんだ、親しい人間はニックネームだとか愛称だとかいうもので、お互いの仲の良さを周囲に誇示すると聞いたことがある。誇示する相手はいないが…。いや、いるな、いいなそれ、よし!お互いをニックネームで呼ぶこととしよう!」
「やった!私はね、ゆーちゃん!お母さんもお父さんもそうやって」
ハッと気づくような顔をして、ユナの顔に陰りが出る。
束の間、忘れてしまっていたことを苦しく思うように、ユナは息を殺すように泣き始めた。
「…うっ、う、ひっく」
にーちゃんこと偽神も、顔を伏せているように見える。
「うっく、あ”、あ、うぅ」
嗚咽を漏らすが、それでもどこか、泣いてはいけないような気がして、前を向くって、泣いて立ち止まってるなんて、おとうさんも、おかあさんも、
「おとうさん、おか”あ”さ”ん”!!!」
いよいよ泣きださんとしているユナを抱きしめたのは、”るうちゃん”でも、”ふうちゃん”でもない。
にーちゃんだった。
「…にーちゃん?」
ユナの首筋に、自分のものではない涙があたる。
「ユナ。我慢しなくていい。立ち止まるんじゃない。もう一度立つために、泣いてもいいんだよ」
「ああああ”あ”あ”あ”あ”あ”」
ユナはめいいっぱい泣いた。この不思議な場所なら、大丈夫な気がしたから。
ーーー
…ペロペロ
「…ん」
ユナはもう知っていた。これが”るうちゃん”の仕業だと。
起き上がって顔を拭う。自分の涙か、”るうちゃん”のよだれか、よくわからなかった。
「起きたか」
また膝枕をしてもらっていたようだ。
「…ありがとう」
「ああ」
しばらく沈黙が流れる。にーちゃんは、何も聞かないでいてくれた。
いや、多分バレているのだろう。どうしてかユナの考えは読まれているようだし、だからこそ偽物とは言え、神様なのだろうか。
「君の思うとおりだ。僕にはある程度考えていることが読める。それは思考も、欲求も、感情もだ。君は魔素もそれ以外も、ダダ漏れだから、簡単に読むことが…」
ユナはじっとにーちゃんを見つめていた。
「…なんだ」
「ゆーちゃん」
「ん?」
「君じゃなくて、ゆーちゃん!」
「…ゆーちゃん」
「うん!」
にーちゃんは照れ臭そうに、ゆーちゃんはにっこりと。そうして二人は友だちになった。
ーーー
「だから、僕にはゆーちゃんが何を考えているかとか、何を感じているかがわかるんだ」
よく見ると偽神も目の周りが少し赤くなっている。ユナが肩に感じたあれは、やはり涙だったんだ。
「ごめんね、悲しいの、渡しちゃって」
「いや、いいんだ。こんなに近くで人の感情に触れたのは久しぶりで、悲しいけれど、でもどこか嬉しかったから…」
「でも、いっつも悲しくなってたら大変じゃない?」
「ああ、大変だな、と、そう感じるときもあるよ。でも、それが僕の、役割の一つだから」
一つ一つ重みを確かめるように言葉を紡ぐ。
偽神の纏う雰囲気が変わる。何もない中空へと足を踏み出し、歩みを進め、石像の肩へと座る。
「言っただろう神様だってさ」
その姿は、ユナと同い年の少年とも少女ともわからないと思った最初の姿とは、一緒なのにかけ離れて見えた。
場の空気さえすべて入れ替わったように、どこか懐かしい花の香りがした気がした。
「神は人の願いを受け止め、聞き届けなければならない」
そうして、ユナは初めてこの場所の意味を知る。
「ここは願いが集う場所。名もなき願いの湖なんだよ」
まだ寒い日が続きますね。お体に気をつけて。




