第36話「緑色の、薄い感覚」
「もう大丈夫かな?」
ふうちゃんの背に乗って飛ぶ。そろそろ外壁からも遠くなり、平原を越え、森も近づいてきた。
何が起きるかわからないので、街では魔素探知は控えめにしていたが、そろそろ広げても大丈夫だろう。
「えい!」
ユナは思いっ切り魔素探知の範囲を広げた。探すのは師匠であるサリナだ。ついでに探知で、他の冒険者がどんな風になってるかを教えれば、褒められるかもしれないなんて思いながら。
「ふうちゃん、少し回っていこっか」
大きく回りながら、冒険者の状況を確認しつつ、師匠が行きそうな方向へ向かうことにした。ユナは、バウハウンド(?)を最初に見つけたところに行っているんじゃないかとうすうす見当を付けていた。
「あ」
ふと、自分がまだうまく人を探知できるかどうかがわからないことを思い出した。昼間にあの怖いギリークという人を探知でひっかけたはいいものの、それが人間を探知できたのかどうかは、ユナにはわからなかったのだ。
「平原で広げたときはどうだったかな」
ムムムと悩みながら、最初にレンとサリナに探知を見せた時のことを思い出す。あのときは魔物じゃない野兎を見つけることはできたんだから、きちんと人間を意識すればできるのではないか。でも、野兎を見つけようとしたときの魔素探知は、レンとサリナは引っかかっていなかったような。
「魔素探知って、もしかして魔物にしか効かないのかな?」
「ホウ?」
「そういえばふうちゃん、薄いね」
ふうちゃんは、フウルフォールという梟の形の魔物だ。そう、魔物のはずだ。だが、今ユナが気にするまでは気にならないくらいの、うっすらした存在感、薄い探知の引っかかり方だった。
「森の魔物とか、ロートートル、バウハウンドの時はもっと怖かった…」
ユナは次に、普通の魔物のことを思い出す。探知に引っかかるときの感覚でさえ、あのギロリとした赤い目のように、赤くトゲトゲした感覚がした。だからこそあの森の中でさえユナは逃げられたのかもしれない。
「危険だ!って思ったらうまく探知できるのかなー」
「ホウ」
こんなことなら、街の中だからって怖がらずに、きちんと探知の練習もしておけばよかったと、後悔ばかりが募っていく。
「うーん、わからないね」
「ホウホウ」
「でも、師匠ならなんか見つかりそうな気がするよ」
「ホー」
根拠は何もないが、ユナはなんでか師匠であるサリナのことなら探知できそうな気がした。以前も、気配のようなものなら感じてはいたはずだ。ということで、ひとまず冒険者を探すことにした。
目でも探しつつ、野兎を探知した時のような感覚で、人間を見つけられますようにと思いながら、探知を維持して飛び回る。
だが、次に探知に引っかかったのは赤い感覚、魔物の感覚だった。それもそこそこの群れだ。
「ふうちゃん!あっち!」
「ホウ!」
しばらくして、ふうちゃんも気が付いたのか、探知の方向へとまっすぐに向かっていった。そこは森の中でも木々が薄いほうで、夜目が利くふうちゃんは見つけることができたのかもしれない。
「なんか動かないような?」
その気配は、おそらく11匹。作戦会議でもしているかのように動かない。昼に探知したときに感じた、あの赤紫の目をしたバウハウンド(?)と同じ感覚だ。
「止まって」
サリナでも敵わなかったバウハウンド(?)だ。まだこちらには気づいていない。だが、ユナがギリギリ目で見える認識できる、そんな絶妙な距離で止まった。
(もしかして、エサでも撒いておびき寄せたのかな?)
もしかすると、他の冒険者が近くで襲うタイミングを見計らっているのかもしれない。そう思ったユナは、人間に向けた探知にできるように、今度はきちんと意識しながら魔素探知をコントロールしていく。
(あの時の感じ、あの時の感じ…)
ふうちゃんがホバリングでファサッと羽ばたく。その音以外何もない。
集中する。
すると、ポッと緑色のような感覚がした。
「あっ」
たぶん、野兎の時と同じ感覚だ。でも、それは赤い感覚の中心にある。
「あれ?」
しかも、野兎の時よりも薄いような気がする。もしかして、撒いたエサまで探知できてしまったのだろうか。だが、周囲には他に緑色の感覚がないので、冒険者が撒いたエサというのも少しおかしな気がした。
「ふうちゃん、ちょっと高めに飛んで、もう少し近づけるかな」
「ホウ!」
ユナは中心の様子が気になって、バウハウンド(?)の群れと距離を取りながらでも、なんとか見えないかと、ふうちゃんに指示を出す。
言ったが先か、ふうちゃんは即座に応え、きちんと距離を保ちながら高さを上げつつ、中心が見えるような角度へと動いていく。
「なんか、やっぱり食べてるよね?」
「ホウッ!!」
ふうちゃんは見えたのだろうか、緊迫したような鳴き声で返事をした。そして、即座に引き返す。
「ふうちゃん!?」
その時、雲が一瞬途切れて、群れの中心が月明かりに照らされる。それは。
「鎧のような…?」
そう、ユナは一瞬明るくなった群れの中心が見えた。真ん中は、鎧のようなものがあって、月明かりを反射していたように見えた。いや、あれは人間が装備している鎧だった。
「ゔぇっ」
ユナは気づいてしまった。エサなんかではなくて、きちんと、人間を探知できていたということを。
それが、どうして野兎より薄い感覚だったのかを。




