第33話「仮職員カード」
「ひぃ!!」
ユナは思わず目をギュッと閉じて、腕もぎゅっと閉じて、お守りのようにおでこに仮職員カードを押し付ける。
「魔物の気配が刺してきたかと思ったが、気のせいか?なんだてめえ、それ仮職員カードか?」
ブンブンッ!!とユナは首を縦に振った。
「”祭り”が始まるわけか、グッグッグ」
やたら太い首の筋肉のせいか、くぐもった笑い声ともつかない奇妙な振動がユナを揺さぶる。
「場所は?」
「ひゃいっ!!」
「だから場所は、つってんだろ?」
「ギルドでひゅっ!!!」
今度はなんとか発音できた。
「ギルドか…めんどくせえな」
そうぶつくさ言いながら、その男はギルドのほうへと向かっていった。
男が視界から消え去るのを見届けると、ユナはそのままペタリと座り込んでしまった。
「怖い…」
泣きだしたら殺されていたかもしれない。そう思うほどの恐怖だった。
このユリクスセレファスの街へ来て、レイナに助けてもらって、サリナが師匠になって一緒の宿に泊まってくれて、レンが一緒に買い物をしてくれて、いい人たちばかりの街だと思っていた。ギルドで見かける冒険者たちは、ちょっとは怖い人もいたけれど、それでも。
「こんな人がいるなんて…」
それは、ユナの人生で初めて味わった”人間”の恐怖であり、初めて触れた狂気だった。
またこんな人が来るかもしれない。でも、まだ一人しか集められてない。恐怖と、自分の役割とのジレンマの中で、ユナはしばらく動けないでいた。
ーーー
冬で日が短いからか、あっという間に暮れてきた。そろそろ、ギルドへ戻らなければならない。
仮職員カードを首からぶら下げ、とぼとぼとギルドへの道を引き返す。もちろん魔素探知は発動していなかった。
だが、そこへ声をかける冒険者が一人。
「もしかして、緊急依頼かい?」
軽鎧を装備した、見るからに冒険者然とした様子の大人の男の人たちだった。4人組の男女混合パーティだったからか、ユナは余り警戒することなく話すことができた。
「うん、じゃなくて、はい。えっと、”緊急依頼です。ギルドに来てください”!」
「そうか、ありがとう」
「でもどうして?」
察しのいいその冒険者は、ユナに教えるように言う。
「その仮職員カードを、ギルド職員じゃない服装の人が持って駆けまわってるときはね、だいたい緊急依頼で冒険者を集めてるときなんだ」
(そうか、それでさっきの怖い人も気づいたんだ)
すると、そこへ他の冒険者が駆け抜けていく。
「緊急依頼でーす!!冒険者の方はギルドへ!!」
その手には仮職員カードが掲げられていた。他にもよく見てみると、【ビーストテイマー】が使役しているだろう鳥たちが、仮職員カードをぶら下げて、空を飛び回っている。鳴き声も強烈だ。
「じゃあ、急いでギルドに向かうよ。君も頑張ってね」
そういって、その冒険者4人組はギルドのほうへと走っていった。
(そう、怖い人ばかりじゃないんだ。優しい人もたくさんいる)
ユナは魔素探知こそしないものの、大きな声で冒険者を集めながらギルドへと向かっていった。




