第29話「バウハウンド?」
翌日。冬でもあまり寒くならないこの地域で、珍しく肌寒さを感じる曇り空の中、ユナたちは街からでて、調査へと出発していた。依頼内容によると、目的の犬のような魔物、バウハウンドは、カストルファの森に近いところで目撃されたらしい。先導するのはレンだ。
その道中、昨日のことがなんとなく許せないでいるユナは、ついつい愚痴をこぼしていた。
「昨日の聖騎士の人ホント嫌だった!ね!師匠!」
「まあそうだな」
「教会?ってとこの人はみんなあんな人たちなの?」
「そんなことはないが、ああいうのも少なくはないな。あいつらもあいつらで矜持ってやつがあるんだ」
「きょうじ?」
「誇りみたいなもんだ」
「誇り…」
ユナは自分の誇りというものを考えたことがなかった。でも、言われてみると、お父さんとお母さんは自分の誇りだと思う。
「教会の人たちの誇りって?」
ユナの質問に対して、やっと話せる話題になったと、すかさずレンガ答える。
「それはもちろん、世のため人のためってやつさ。一番はスキルの判定だな。あとは、魔物をあふれさせないように迷宮を率先して攻略したり、怪我を治したり…」
「怪我治せるの!?」
「ああ。教会に所属している聖法師という人たちだけが使える特別な魔法があるんだ」
「特別な魔法?」
「そう。聖法って言って、治癒の聖法とかがあるんだ。彼らは魔法とは違うって言い張ってるんだけど、俺っちはあれも魔法な気がするんだよなー。サリナはどう思う?」
「俺もあれは魔法な気がするが、でも魔法師で治癒魔法が使えるやつはいないんだろ?」
「そこなんだよなー」
それを聞いて、ユナは咄嗟に思いついた。
「魔法師の人が聖法師の人に治癒魔法を教えてもらえば、違いがあるかないかわかるんじゃない?」
「お、賢いねユナちゃん。でも、それはできないんだ。教会は秘密主義でね。治癒魔法のことは何にも教えてくれないんだよ」
「スキルは見てくれるのに?」
「それもひと悶着あってね、スキルの取り扱いでギルドとずっともめてたから」
「あー…」
ユナは察したようにため息を漏らした。
誰しもが、何かのスキルを持っているこの世の中で、そのスキルを判定しているのは教会だ。それを思えば、教会の力の強さもうなずける。だからといって、あの聖騎士のような人がいるのは嫌だけれど。
すると、会話がちょうど途切れたいいタイミングで、ユナの探知に引っかかる。
「あ、魔物がいるよ」
「やっぱり俺っちより早いな」
すかさずサリナが問う。
「1匹か?群れは?」
「うーん、ちょっと待ってね…。1匹だと思う」
「だと思うじゃダメだ」
「ぶう。もうちょっと近づかないと」
「俺っちも確認したいし、もう少し近づく分には大丈夫だろう」
「そうだな、レンの探知に引っかかるまで近づくか。弟子よ、少しでも魔物が増えたらすぐに言うんだぞ?」
「うん!」
ーーー
「俺っちのにも引っかかった。1匹だ」
「私も1匹のまま、群れもないよ。犬っぽい形してるし、バウハウンドじゃないかな?ほら」
ユナは魔素の形でぼんやりと形はわかっていたが、実際に視界に入ってわかるようになってからその形を告げる。
「確かにな」
「やった!群れじゃないし、狩ってもいい?」
「そう…だな。前は覚悟ができてなかったが、もうできたのか?」
「う”…」
ロートートルを狩ったときの、あの感触、感覚が、まだこびりついているような気がするユナは、階位を早く上げたい気持ちと、ジレンマになって、くぐもった声で返事をするしかなかった。
「…。まあひとまず、今回はお手本を見せようか」
「師匠!お願いします!」
差し伸べられた手に、すかさず縋りつくユナ。そうして、サリナが先頭になって、バウハウンドらしき魔物に近づいていく。
「しっかり見てろよ…って、目が赤紫…?」




