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第21話「メンバーカード」

 レンはちょっと調べたいことがあるとかで別れ、ユナはサリナとふたりでギルドへ向かった。

 多少のトラブルはありつつも、ユナの探知能力は、無事に師匠であるサリナのお眼鏡にかない、ギルドのメンバーカードを作ることになったのだ。


 「やあユナちゃん、いらっしゃい」


 「レイナ!」


 ギルドは昨日にも増して慌ただしい様子だった。ユナは人ごみをかき分けながら、ギルドの受付に駆け寄る。


 「ギルドに戻ってきたってことは、無事にメンバー登録できるってことかしら?」


 「ああ、うちの弟子は立派なギルメンになるだろう。それにしても忙しそうだな」


 「すっかり師匠ヅラね。ええ、やっぱり森の様子が怪しそうだってんで、情報収集に回ってる冒険者が多いのよ」


 「押し付けたくせに」


 「嫌じゃないでしょ?」


 「…まあな」


 そのやり取りをみて、弟子のユナはにまにまとしていた。


 「じゃ、早速取り掛かっていいわね?」


 「ああ、頼む。ユナ、文字は書けるか?」


 「うん!」


 「お、頭いいんだな。じゃあレイナ、あとは頼む。出来上がるくらいに戻ってくるから」


 「はいよ!じゃああっちで書こうか」


 そう言ってレイナは受付の(はし)を指さす。受付はユナには背が高くて、文字が書きにくいが、端は少し低くなっていて、ユナでも十分に書けそうな高さになっていた。


 「ちょっと重かったり大きかったりする荷物を取り扱うときに使うカウンターなんだけど、子ども用も兼ねてるの」


 端について、レイナは紙を差し出す。


 「はい、これがメンバーカード発行申請書よ」


 そこには名前と所属、生年月日と、スキルの記入欄があった。他にも実績欄など、いくつか書く内容はあったが、ユナにはあまり関係なさそうだ。


 「必須なのは最初の二つ。名前は自分の名前ね。所属はどこにも入ってないから未所属。後は任意なんだけど、生年月日はわかる?」


 「うん」


 ユナは、少し(つたな)いながらも、用紙を埋めていく。

 名前は”ユナ”。

 所属は”未所属”。

 生年月日は”215年7月27日”。


 「スキルは…」


 ユナはビクリとする。【モンスターテイマー】のスキルは、ここにはもちろん書けない。


 「ひとまず未記入でもいいわ。でもせっかくだから、探知は書いておきましょうか」


 「…全部(・・)書かなくてもいいの?」


 「ええ。昔は全部書かせてた時期とか、スキルを鑑定(かんてい)してからじゃないと入れない時期とかもあったんだけど…」


 「かんてい?」


 「その人が、何のスキルを持っているのか(あば)くスキルよ」


 「ひ!!」


 思いがけずユナは、声を上げてしまう。


 「やっぱり最近の子はそういう反応よね。【盗賊】とか【透過】とか、本人の意思(なん)てお構いなしにスキルは全人類に授けられる。だからこそ、その偏見からは一生(のが)れられない。たまに変わる人もいるらしいけどね。それでも、勝手に実力を暴かれるのは嫌だとか、変な目で見られるのは嫌だとか、そういう声がだんだん大きくなって、スキルの記入は任意(にんい)になったの。プライバシーってやつね」


 「…。でも、」


 「でも?」


 「もし、本当に危ないスキルを持ってたら、ギルドが危ないんじゃない?」


 ユナは、自分の【モンスターテイマー】というスキルで、心が痛くなりながらその質問をする。だが、それを聞いたレイナは少しキョトンとした様子だった。


 「うーん、確かにそうね」


 「そうなの!?」


 「ええ。でもねユナちゃん。ギルドは、最後の(とりで)なのよ」


 「最後の砦?」


 「うん。このユリクスセレファスみたいに、最近の大都市はどこも発展してきて、”きちんと”してきた」


 レイナの顔に、少し(かげ)が落ちる。


 「きちんとした身分があって、きちんとした家がある人が増えてきたの。でも、ユナちゃんみたいに、身寄りのない子どもも、まだまだ都市に追いつかない地域もいっぱいある。だけど、きちんとしてきた都市はね、そういった身分のない人たちを、段々追い出そうとしてきてるの」


 「どうして?」


 「知らない人たちが、わからなくて、怖いからよ」


 ユナは思い出す。全てを見知った村から、何も知らない()に飛び出すことの怖さを。


 「スキルは、どんな人にも授けられ、力を与える。それが、例えどんな人(・・・・)であっても。だから、発展して安定して、身分証明書という安全を手に入れた都市は、外の人間を(うと)ましく思うようになったのよ」


 「それは、そうかも…」


 ユナは、自分の【モンスターテイマー】がそれに当たることをどこかで自覚しながら、少し諦めたように言葉を漏らした。


 「ギルドはそれを受け入れるための場所でもある」


 「ギルドが?」


 「ええ。ギルドのメンバーカードは、きちんと身分証明書として使えるのよ!名前と、血さえあれば、誰でも作ることができる身分証明書なの」


 「え、血?」


 身分証明書として使えるということよりも先に、ユナには”血”という単語が引っかかった。


 「そう、血と名前。それさえあれば、ギルドは誰でも受け入れるし、身分証明書も発行する。これからの世の中の、最後の砦というわけよ。かくいう私も、そのおかげで今ここにいられるの。というわけで、紙の右下のところ、ここにもう一回名前と、血判を」


 「ひぃ!!」


 レイナから差し出された針に、思わず全身が逆立つユナ。


 「ほら、痛くないから、ちょっと指先がチクっとするだけだから」


 「ホントに?」


 「ホントホント。ユナちゃんより年下の子だって登録することもあるんだから!」


 ゴクリ。ユナは生唾を呑み、ギュギュギュっと、目をこれでもか!と閉じて、左手を差し出した。


 「やって!!!」


 「いいの?」


 「うん…!!」


 「じゃあおてて借りるね」


 レイナの手がユナの手に添えられる。(あった)かさとドキドキが入り混じりつつ、そのぬくもりが人差し指をつつみ…。


 「イタッ!」


 「はい、もういいよ」


 「ひ!血!」


 「そのまま名前の横に押して」


 ものすごい勢いでユナは紙に人差し指を押し当てた。


 「もう大丈夫だよ」


 そう言われ、手を放す。


 そこには真っ赤な指の跡がついていた。


 「はい、これで完成。お疲れ様!カード作ってくるから、そこの椅子に座ってちょっと待っててね」


 「はい…」


 言われるがまま、受付近くに用意されたベンチにちょこんと座るユナ。


 「ふう…」


 ユナは、修行で転んだりした時のような、鈍い広がるような痛みには耐性があったが、鋭い血が出るような痛みはとても苦手だ。それに、血が出てると不安になる。


 「どうした、そんなに疲れた顔して」


 「あ!師匠!」


 「できあがり待ちか?」


 「うん!」


 「無事に終わったんだろ?」


 「うん…。その、血が苦手で」


 「血か。そういえばカード作るときは必要だったな」


 「血が苦手だと、冒険者向いてないかな…?」


 「血か?そうだな、血は俺も苦手だ」


 「師匠も?」


 「ああ。血なんて見なくて済むなら見たくないね。それに、俺は強いからな!血なんて流すやつは三流冒険者、白色だよ」


 「白色?」


 「なんだ説明受けたんじゃないのか?」


 「ううん?」


 「ユナちゃーん!できたわよー!」


 メンバーカードの発行ができたようで、レイナが受付から大声でユナのことを呼んだ。周りの冒険者や職員の注目を浴びて少し顔が赤くなるユナだった。


 「お、いいタイミングだな。レイナにきちんと教えてもらえ、メンバーカードのこと」


 「うん!」


ちょっと気温差が激しくって夏バテ風です。

皆さんも体調にはお気を付けて!

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