第197話「中庭の散歩」
「【探知】は……」
ユナは今まで使ってきたときのことを振り返りながら、言葉にしてみる。
「自分の近くから……」
【探知】を放つときの感覚。
「遠くまで、広い範囲で……」
【探知】を使うときのシチュエーション。
「目で見えないところまで見たくて……」
【探知】で知りたいこと。
「危険があれば、見つけておきたくて……」
【探知】をもっと使いこなしたくて。
「魔物か、人か、知りたいくて……」
「そして、より出力や範囲をコントロールしたい、と」
「うん」
「わからない」
「うん……、うん?」
「やはり見えてこないな。一旦散歩でもしよう」
エリックはそう言うや否や、すぐに歩き始めた。
「え、ちょっと!」
ユナは慌ててその後ろを追いかけた。アラタとメイゲツに何か言わなきゃと思って振り返ったが、少し遠くの方で集中した様子で手合わせをしていたので、とりあえずエリックを追いかける方を優先した。大声を出すのは恥ずかしいし、すぐに戻ってくるだろうと思って。
「あの、どこに向かってるんですか?」
エリックの横に追いついた。
「中庭だな。平たくて歩きやすい」
中庭とは、部活グラウンドと寮の間に位置し、体育館や図書館、試験場などにも繋がっている交差点のような場所で、かなり大きめの芝生や整備された道でできたエリアのことだ。中央に位置している噴水や、ベンチ、カフェなどいくつかのお店もあり、学生たちの憩いの場でもある。
「中庭の、どこへ?」
「散歩だ。目的地があるわけじゃない」
そう言って、エリックは思考の海へと潜り始める。聞こえるか聞こえないかという独り言がぶつぶつとこぼれてくる。その様は明らかに周りの人間から引かれていて異様だったが、自分のスキルのために考えてくれていると思うと、ユナは止められなかった。
まだ歩いたことのない場所もあって、ユナはきょろきょろと周囲を見渡す。すれ違う生徒もなかなか多いが、談笑している人、ベンチで仲睦まじくしているカップルなど、グラウンドとは全く違う雰囲気だ。
「って、いない!?」
エリックの姿が忽然と消えていた、数歩戻って、直前の曲がり角を見てみると、少しうつむきながら、やはりぶつぶつ何か唱えていそうなエリックの後ろ姿があった。
「ほっ…」
学園内とはいえ、まだ一人では少し心細かったユナは、安堵が一番最初にやってきた。とりあえずエリックのところまで駆け付ける。
「置いてかないでくださいよ」
「ん?あぁ…」
生返事をしながら、またすぐに思考に耽っていく。果たして聞いてくれているのだろうか。
そんな調子でしばらく振り回されながら、二人で中庭を歩きまわった。そして、エリックが立ち止まったのは小さな池の目の前だった。
「どうかしたんですか?」
その池は、用水路に繋がっていて、いくつかの植物と小さな魚たちが放されているビオトープのような場所だった。
「…食べられなさそう」
ユナが小さな魚を見つけてまず思ったことがそれだった。まさに見ていたその魚が跳ね、水面に波紋を作った。
「これだ!」




