第194話「変えるチャンス」
ユナは生唾を飲んだ。
今ここに至って、今さらながら自分のスキルを誰かにきちんと”解析”されてしまうということに、言い知れぬ感情が湧いてきてしまった。
「どうした?いつでもいけるよ」
エリックの声に反応して、とりあえず手を前に出してみる。
「…………すぅ…」
息を吸って、息を吐く。緊張、しているのだろうか。
「はぁ…………」
「…………怖いか?」
図星だ。エリックの視線が突き刺さり、思わず顔をそらした。
「そうだね、何かとスキルは隠すように言われているやつも多いだろう。だがそれがなんだ!いまここで、自分のスキルを、自分を変えるチャンスなんだぞ!」
いかにも研究者といった細身の身体であるが故か、そこまでの威圧感はなかった。けれど、言葉はどれも熱い。熱血漢というよりかは、ひとつ芯が通っているかのような、そういう言葉だ。
ユナは頭を振って、思考を振り払った。エリックの言われたことが本当にその通りだと思ったから。
「いきます!」
ユナのその言葉に応じて、エリックはもう一度両手を広げて、受け止める姿勢を取った。
「すぅ……」
息を吸う。初めて人前で使った時のように、きちんと魔素を意識しながら、できるだけ薄めに薄めていく。それがユナが選んだ妥協点だった。
「【探知】」
指向性を持たせて、エリックの方へと放った。
「んっ」
エリックが明らかに反応を見せた。ユナは【探知】を止める。
「うーん、少し弱いな。もう一度いいか?強くできる?」
「は、はい、…強めで」
拍子抜けして返事がおざなりになってしまったが、気を取り直して、ユナはもう一度エリックの方へと手を向けた。今度は薄くしつつも、薄くしすぎないように気を付けて。
「【探知】」
「んっ」
再度エリックが反応を見せる。さきほどより、若干声がうわずっているような気がした。ユナは【探知】を止める。
「……難しいな」
エリックは上着を羽織った。漏らした言葉とは裏腹に、すでにわかったということなのだろうか。話を聞くべく、ユナはエリックの元に駆け寄る。
「何かわかりましたか?」
「いや、わからない。悔しいな、今まで経験してきたものとはどうにも違う」
違うということがわかるだけでも、ユナには十分な驚きだった。ユナの使う【探知】は、スキル由来のものではあるものの、そのスキルは【モンスターテイマー】だ。【モンスターテイマー】自体、おそらく一般的なスキルとは違うからこそのあの扱いなのだろうし、使い方も本来の使い方をしているわけではない。特に魔素を使う点でも、通常のものとはかなり違うだろうことは、ユナも気が付いていた。けれど、今までそこに対して気づかれたことはなかったのだ。
「ん」
エリックが手を差し出す。
「はい?」
ユナは何かわからずきょとんとしてしまった。
「手に直接放つことはできる?手をつないで、そこから直接当てるイメージ」
「そ、それはちょっと」
それだと直接的に行う魔素流入になって良くないことがバレてしまう危険性がかなり高そうだし、なにより男の人と手をつなぐのは恥ずかしかった。
「そうか。じゃあせめて近くでやろう。あと、顔に向けて」
エリックはユナの両手をガッと掴んで、自分の顔の前に配置した。
「よし、ここで。もう一度」
エリックが眼鏡を外して目を閉じた。顔の神経に集中するためだろうか。得も言われぬ戸惑いのような感情がユナの中を駆け巡ったが、もう一度頭を振って、指示に従った。集中しなおして、魔素を薄めていく。
「【探知】」
「んっ」
今度はさっきより反応が少しだけ早かった気がした。
「どう、ですか?」
「今の出力は?」
「しゅつりょく?」
「強さだ」
「さっきと同じ、強めくらいです」
「そうか。何かはわからなかったが、どうすべきかは分かった」
「ほんとですか!?」
それは最も理想的な回答だった。スキルの正体はバレないまま、けれど修行を行うことができるという願ってもない状態。
「ユナくんはスキルの出し方が下手だ。かなりムラがある。自分で出している感覚が一緒でも、受け手側としてはかなり違う強さに感じた。あとは、手や腕、顔で感じるタイミングが違った。顔で受けてみても、右の頬と左の頬で受けるタイミングが違ったことからも間違いないだろう」
「しゅつりょく?がバラバラだとうまく方向も決められない?」
「その通り!たぶん遅い方に傾くだろう。物理法則と同じとは限らないかもしれないけど」
「じゃあどうすれば……」
「ユナくんは、自分のスキルをどうイメージしている?」
「イメージ?」




