第190話「スキルって、変えられますか」
「このスキルのことをより深く知るために、協力してほしいんだ。君に」
エリックの視線がユナに突き刺さる。こんな風にド直球に求められるのは初めての経験で、ユナは背中がむず痒くなるような感覚を初めて味わった。
「ユナ」
アラタが振り返って声をかけてくる。
「相手は上級生とはいえ、断ってもいいんだぞ」
そういわれて、エリックのネクタイの色を確認する。ユナたち1年生が身に着けているネクタイはシックな感じの暗い赤色だが、エリックが身に着けているのは森の中のような、深緑の色合いだった。確か、あれは2年生の色だ。
「うっ…」
そんなことに気が付いていなかったユナは、その情報を知ってしまったばかりに緊張し始めてしまった。
「そいつの言うとおりだ。別に無理にとは言わない。だが、君にもメリットはある」
そいつ呼ばわりされたアラタはむっとした様子だったが、話を遮ることはしなかった。
「君は、そのスキルをうまく制御できていないな?」
「……」
制御できていないわけではないが、より精度をあげたいという点で、半分あたりで、半分外れといったところだろうか。ユナはどう答えていいかわからずに悩んでいると、エリックはそれを肯定と受け取ったのか、提案を続ける。
「わざわざグラウンドに来てまでスキルを使いに来るやつは、訓練と相場が決まっているからな。そしてそれをうまく扱えず、無差別に放って僕に当てた。それが何よりの証拠だ」
得意満面といった様子で推理を披露するが、ユナはやはりどう答えればいいかわからなかった。こういったタイプの人間に対するコミュニケーションは、まだユナの経験値では足りていなかったようだ。
「僕が被験体になろう。こういっては何だが、【敏感】は君のスキルをかなり詳細に評価できる。相性がいい」
「でも、嫌なんじゃないの?」
彼は”このスキルのことが嫌いだ”と言った。服装にしても、できる限り【敏感】の特性を覆い隠すような格好をしている。スキルを身体に受けるというのも、それなりに嫌なことなんじゃないかと、ユナは思った。
「そうだな、不愉快だ。けれど、その程度のことで協力してもらえるなら、自分の多少の不愉快さなど些末な問題さ」
手で顔を覆いながらエリックはそう言った。決めポーズかなんかなのだろうか。指の隙間から見える眼光がやたら鋭い。
「ユナ、断っておいたほうがいいんじゃ…」
アラタはエリックの雰囲気に若干引きながら、ユナに提言した。
「ん~……」
悩む。ユナはまだエリックのことを全然知らない。スキルの【探知】以外の部分がバレてしまう可能性もある。
「あの」
けれどユナは、なんとなくこの人は大丈夫だと思った。そして同時に、この人の力になりたいとも思った。自分と同じような、大変なスキルを背負ってしまった境遇を持つ者同士として。
「スキルって、変えられると思いますか?」
だからこそ、素直にその質問がこぼれた。ずっと脳裏にあった、このスキルから解放される術。
「いや、無理だろう」
エリックのその答えに、ユナはガクッと肩を落とした。
「……だが」
その言葉が続いて、ユナは顔をあげる。
「解釈は変えられる。解釈が変われば、在り方は変えられるかもしれない」




