第18話「探知」
GWどこいった!!
「よし、じゃあ行くか」
「はい!」
サリナに面倒を見てもらうことが決まった翌日、ユナたちはユリクスセレファスの南門に集合してから、街の外へと出てきていた。
「なんで俺っちまで」
「ユナとスキル系統が似てるから参考にな!それに、何か来たらすぐに気が付けるし」
「サリナって子どもに対して過保護なとこあるよなー。でも平原だぜ?」
「文句あんのか??」
「いえ、ないです…。でも【探知】のスキルならギルド長のほうがいいんじゃ?」
「俺はあいつが嫌いだ」
「さいですか」
レン、サリナ、ユナの三人は、ユナのスキルがどれほどのものか試すために、平原へ向かっていた。
街を出て、整備された道を少し逸れ、しばらくして目的地へ着く。
「レン、やってくれ」
「なにを?」
「気配探知。モンスターか、動物でもいいから。最大限でな」
「あーね。了解」
「気配探知って?」
「気配探知はね、俺っちの【気配】ってスキルを外に向けると気配探知になるんだ。まあ参考になるかわかんないけど見ててよ」
そう言ってレンが一歩前に出て、少し手を広げる。何かを包み込むような腕の開き方だ。
「では改めて。気配探知」
そうレンが言うと、ユナは何かが見えた。何かが通り抜けて、広がっていくような感覚とともに。サリナのほうを見るが、何かを感じた様子はなかった。
「うーん、野兎が何羽かいるかな」
あえてぼかして伝えるレン。
「そうか。弟子よ」
「はい!師匠」
「ブフォッ!え?サリナ?え、師匠って?え??」
サリナが師匠と呼ばれるのがよほど面白かったのか、レンは思わず噴き出した。そんなレンを、サリナの鋭い眼光が捕らえる。
ちなみにユナは、修行と聞いてからノリノリでサリナを師匠呼びしていた。
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもないです…」
「ユナ、じゃなかった、弟子よ。【探知】で野兎が何羽いるか、探してみろ」
「はい!」
ユナは目を閉じ、瞑想を思い出すように行う。自分の身体の中を巡る白い魔素を感じる。
だが、魔素はダメだ。ユナはきちんと覚えていた。にいちゃんーー偽神ーーが、人間社会では魔力しか使われてないから、魔素は怪しまれるかもしれないと言っていたことを。あれから魔素探知もずっと控えてきていた。
そして今のレンのスキル。魔素の類ではなかった。るーちゃんやふうちゃんのあの電流のような魔素とも、竜巻のような魔素とも全く違う。
ユナは改めて体の中を巡る力を感じる。魔法が使いたいばっかりに、魔素ばかりを見ていたが、レンのような何かがないのか、探っていく。
「どうした?できないのか?」
「…師匠。ちょっと手つないでもいいですか?」
うまく見つけられなかったユナは別の手を考えることにした。サリナが魔素に気が付かなかったら、魔素探知を使うことにしようと。ここで探知ができないとサリナに思われてしまったら、修行をつけてもらえないどころか、街を出ることすらままならなくなってしまうかもしれないから。
「ん?まあ、いいが、ほれ」
差し出された右手を、ユナの右手で握手する。そこへ、いつかのように暴発しないようにうすーく引き延ばした魔素をこっそり流入させていく。
しばらく続けるが、何も感じた様子は無かった。
「なんだ?急に寂しくでもなったか?弟子よ。そうか!力比べか!」
そこから急にサリナが手に力を込め始めた。
「違う!!痛い痛い!!」
パッと手を放して、ユナは手をぶんぶん。
「師匠のばかー!!」
「さっさと力をつけるこったな、弟子よ」
「弟子よ、って言いたがりか」
「ん”?」
「なんでもないです」
サリナの威圧に即答するレンだった。
「でだ、探知はできるのか?できないのか?」
「できます!」
「じゃあやれ」
「はい!」
ユナは集中する。にいちゃんと修行していた時までは、ほぼ無意識に行っていた魔素探知を、きちんと魔素を意識しながら、バレないようにできるだけ薄めに薄めて、でも、レンと同じくらいの範囲は探知できるように、あの修行の日々を、魔素のコントロールを思い出しながら、整えていく。
そして、放つ。
「探知!」
バササッ!と数羽の鳥が遠くの森から飛び立った。
サリナは何も感じなかったが、レンの【気配】には引っかかったようだ。レンが驚いている。ユナは少しギクッとした。
その様子を見て、サリナが問う。
「えっと、野兎は12羽でした」
「レン、何羽だ?」
「今は10羽だね」
「ん?数が多くないか?」
「そうだねー、答え合わせするか。ユナちゃん、野兎のいるところ教えてくれる?」
「うん!」
「あの茂みに2羽、そこの巣穴に1羽、移動してるのが1羽…」
そうして10羽まで指をさす。
「うんうん。それで、もう2羽は?」
「向こうの岩の裏に、2羽」
「えーっと、その岩ってどこかな?」
「目じゃ見えない」
「…ここ平原だよ?多少岩があるとはいえ、ね?」
「いるもん!あっち!」
そう言ってユナは走り出した。つられるようにレンとサリナも走り出す。
ーーー
少し走り、点のような岩が見えてきた。ユナはそこで止まって、早く早くと言わんばかりにレンとサリナを待つ。
「あれ!」
「まだまだ先じゃねーか、ってレン?」
「…いる」
「なんて?」
「今、俺っちの気配探知に入った」
「おいおい、街一番の斥候役だろ?…何羽だ?」
「2羽…」
「マジかよ…」
「早く―!!逃げちゃうよー!!」
ユナの声は、茫然としているレンとサリナには届かなかった。