第185話「修行と対象」
翌日の放課後。ユナは荷物をまとめながら自席で待つ。リンが声をかけてくるのは、もう日常のことになっていた。
「ユナちゃんはどうするの?」
けれど、いつものようにすぐには席を立たない。リンとググリはどうやら、このまま聞き込み調査という名の匂い嗅ぎをするようで、一緒に部室へ向かうわけではないからだ。
「とりあえず修行なんだけど、場所が……」
ユナはあまりスキルを使っているところを見られたくなかった。特に、修行なんていうのは安定した使い方とは程遠く、何が起きるかわからない。そんなところを見られたら、何がキッカケで【モンスターテイマー】のスキルに繋がるかわからない。
「部室じゃダメなの?」
「う~ん」
ユナの中で、まだコリー先生は安全と言い切れる対象ではなかった。いい人だなとは感じているものの、味方だなと言い切ることはできないような、そんな距離感。どちらかというと、スキルの練習をしているところは見せたくない人だった。
「森は?」
「工事の人がいるかも?それに近づきたくないよ」
塀を作るという話をしていたし、工事の人たちがそれなりの期間いることになるだろう。そもそも、ユナはあの場所が苦手だった。あまり近づきたいとは思えない。
「それもそっか。あとは、学園の外とか?」
「出れるの!?」
「さぁ」
あっさりとそう返すリンに、期待してしまったユナは、ガックリと肩を落とした。
「自分の部屋じゃダメなの?」
「それだと難しいっていうか…」
ユナはどう説明すればいいか悩み、言い淀んだ。【探知】を修行することで、より精度を高めようとした場合、やはり実際に何かを【探知】する必要がある。つまりは反復練習を行いたかった。しかしながら、頼れる人がいない。リンとググリはやることがあるし、コリー先生やクラ先生は頼れるほど信頼しきれてはいない。かといって、自室でやっていても、放課後の時間帯はみな部活に行っていて寮にはほとんど人がいないだろう。つまり、誰も【探知】することができない。それに何かの間違いで【探知】の対象に気づかれたときに逃げ場がない。
「鈍感そうな人が、ちょっとだけいて、こっちのことには気づかなそうで……」
「どゆこと?」
「対象が、必要か?」
ググリが助け舟を出してくれた。
「そう!」
「では、メイゲツはどうだ」
「メイゲツ、さん……」
ユナは右後ろに視線を移す。その先には、ググリと同じように笠をかぶっている生徒が目に入る。どうやらググリと仲がいいらしい、メイゲツだが、ユナにはそれ以外の印象はなかった。
「メイゲツは、とても、口が固い」
そういいながら、ググリは自分の笠に手を当てた。ググリの笠の下のことを、ユナは知らない。だがきっと、メイゲツは知っているのだろう。そして、メイゲツ以外は、きっと誰も知らないかもしれない。
「うん」
なんとなく。本当になんとなくだった。ググリの言葉は、心にすとんと落ちるように信頼できた。
「では、決まりだ。メイゲツ!」
「はい、なんでしょう?」




