表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/195

第17話「サリナ」

 「はあ!?俺に子守りしろって!?」


 ユナは、ギルド入って左、冒険者向け集会所のその奥、個室になっている会議室にいた。

 指名依頼を受けたり、素材の商談をしたりと、様々なことに使われる部屋だが、今回は毛色が違うようだ。


 「そう、サリナが適任かなって!ギルド長にも、もうオッケーもらったから」


 会議室には、ユナのほかにレイナと、”サリナ”がいた。


 「娘だからって職権乱用しやがって…。俺は嫌だぞ、そんなガキの面倒見るのは。依頼もまともに受けれなくなっちまう」


 サリナは横柄(おうへい)な態度の冒険者だった。ユナにはとてもこんな人がレイナの信頼する人には見えなかった。緑色の短髪、勝気(かちき)なつり目といった要素も、その威圧感に拍車をかけている。


 「ユナちゃん、【探知】使えるのよ!ね?」


 「こんなちんちくりんが?」


 「むっ!これでも7歳だもん!」


 身を乗り出して、ユナは抗議する。


 「なるほど、じゃあもう託宣(たくせん)は受けてスキルは使えるってわけか」


 「そうなるわね」


 「うん!」


 託宣。ユナが、【モンスターテイマー】だと告げられた、教会での儀式のことを指す。

 一般に、子どもが7つになる誕生日に教会で託宣を受け、スキルが”確定”すると言われている。

 人々は、スキルを指針に自分の生きる道を決める。神より(たまわ)った、自分の生きる道標(みちしるべ)だと信じて。

 だが、ユナはそうではなかった。スキルが道標(みちしるべ)にならない、ユナはそう思い、”託宣”という言葉に顔を(うつむ)かせる。


 「で、スキルは【探知】以外はなんか使えるのか?」


 「サリナ!あんまり他人のスキルを聞くのはマナー違反よ!」


 「レイナだって【探知】ばらしたくせに。それに、街の外に出たいってんならよ、知っておくのは当然だろ?」


 スキルは、どんなのが一般的なのか、ユナはまだ知らない。レンのスキルは聞けなかったし、レイナのスキルも知らない。ギルド長が【探知】を使っていたし、今の会話から見ても【探知】は大丈夫だとして、この意地悪い感じのするサリナには、戦えるということをアピールしたほうがいいだろうか。


 「【剣術】が使えるよ」


 「ユナちゃん!?」


 「お、2つスキル持ってんのか。それもバリバリの戦闘系か。それで?どれくらい使いこなせる?」


 「…それは、まだ…」


 ユナが偽神(にせがみ)(おこな)ったのは、魔素(まそ)生素(きそ)の修行だけだ。剣の修行もしていたとはいえ、ユナが振ったことがあるのは木剣のみ。実践に用いることができるかと言われれば、そうではなかった。


 「話にならねーな」


 「サリナ。誰にだって初めてのことはあるでしょう?」


 「戦えるようにするところから面倒見ろってか?その間の俺の稼ぎはどうするんだ、飯も、宿も、タダじゃねーんだぞ」


 一拍置いて、サリナの雰囲気が変わる。


 「それに、そいつはまだガキ(・・)だ。ガキを戦わせるのはごめんだ」


 そのサリナの雰囲気に飲まれることなく、レイナは答える。


 「だからこそ(・・・・・)よ。この子は、一人でも生きていけるようにならなくちゃいけない。それができるのは、サリナ、あなただと思うの」


 しばらく沈黙が流れる。ユナは、サリナの雰囲気に飲み込まれかけていた。


 「おい、ガキ。お前、覚悟はあるか?」


 「覚悟?」


 「ああ、魔物と戦って、生きていく(・・・・・)覚悟だ」


 「…」


 さっき答えられなかった問いに、似ていた気がした。

 『ユナ君。君は、どうしたいんだい?』

 そう、ギルド長のアーガスに言われたとき、ユナはるーちゃんとふうちゃんに会いたくて、街の外に出たいと言った。そして、

 『それは、どうしてだ?』

 と問われ、言葉が出なかった。

 魔物と戦って生きていく。それは、【モンスターテイマー】というスキルを持っているユナにとって、普通の冒険者とは違う意味を持つ。

 るーちゃんやふうちゃんが大好きなユナ。だが、彼らは魔物だ。

 ユナは、人間と生きていくのがいいのか、魔物と生きていくのがいいのか、わからない。 だが、るーちゃんとふうちゃんとは、ずっと一緒にいたい。そして、にーちゃんーー偽神ーーにも、少し、会いたい。会って確かめたい。生きて、やりたいことがある。そう思った。


 「覚悟は…わからないけど、でも、生きたい、と思う」


 「…」


 その言葉をサリナは聞き届ける。聞いて、足を組み、目を(つむ)り、何かを考えこむ。

 そして目を見開き、視線が合う。

 サリナの瞳は、深い黒の中に、少し緑がかった透き通るような瞳だった。


 「…そうか、いいだろう。面倒を見てやる」


 「ホントに!?ありがとうサリナ!やったねユナちゃん!」


 「うん!…うん??」


 ユナはサリナに張り合い、話に流されるまま、サリナに面倒を見てもらうことに決まったことに今気づいた。この、強気で勝気(かちき)な人と、果たしてうまくやっていけるのだろうか。


 「ところで、宿なんだけど、ナートさんのところに移ってユナちゃんと一緒の部屋にしてくれない?」


 「はあ?なにいってんだ??」


 間髪いれずに反論するサリナ。

 すると、レイナがここぞとばかりに目を細め、サリナに問いかける。


 「孤児院の院長をぶっ飛ばしたのをフォローしたのは?」


 「ゔっ」


 「ユナちゃんが孤児院に入れない原因を作ったのは?」


 「………わーったよ!やりゃいんだろ、やりゃ」


 「ありがと♪ ちなみにお金はわたしも出すからさ」


 すっかり言い負かされてるサリナの様子を見て、ユナは少し親近感を覚えた。


 「それを早く言え!ったくよー…。そういうわけだ、よろしくな、ガキんちょ」


 「ユナ!」


 「…まだガキで十分だ」


 「レイナさん!サリナさんが呼んでくれない!」


 サリナを言い負かした様子を見て、すかさずレイナに頼るユナ。


 「サリナ!孤児院の件お父さんに言っちゃうわよ!」


 「ぐっ…職権乱用常習犯め…!!じゃあ弟子はどうだ。俺のことは師匠と呼べ」


 「えー、しかたないなー。師匠」


 「ああ、弟子」


 「まあなんとかなったわね。ユナちゃん、サリナにも敬語じゃなくて大丈夫だから。むしろ敬語とか苦手なタイプだから、気軽にタメ口でいいわよ」


 「うん!」


 「言わなくてももう敬語じゃないわね」


 そう言って軽くレイナは笑った。


 「ふん」


 「…ところでユナちゃん。サリナの性別ってわかる?」


 「女の人でしょ?」


 「!?」


 思わずサリナが驚いた表情をする。


 「どうしてそう思ったの?一緒の部屋でって言ったから?それとも名前?」


 「それもあるけど、でも最初から、そう感じてたから」


 「だそうよ。師匠」


 「…チッ、やりずれーな。やっぱり名前も変えるか」


 「師匠舌打ちダメだよ!」


 「はいはい」


 「ぶー!!」


 「あらユナちゃんリスみたいにぷっくり」


 「ははっ、やっぱりガキんちょだな。明日から修行っつったらついてこれんのか?」


 「修行!?修行してくれるの?」


 「おっ、おう」


 「うん!!明日からでも!!修行っ!修行っ!」


 「…変な弟子だな」


 「ふふっお似合いよ、師匠」


 「レイナまで師匠呼びはやめろ」


 照れ臭そうにするサリナだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ