第173話「遺跡」
「とりあえず、あれ見てみない?」
リンは石造りの建物を指さしてそう言った。
「そうだな。ユナは?」
「うん、行ってみよ」
「わかった」
ググリを先頭に三人は進んでいく。
「中に、入った。見えない」
確かに、ユナから見てみてももう人影は見えなくなっていた。しかし、【探知】にはまだひっかかっている
「こっちはまだわかるけど、ちょっと、うぇ…」
「どうした?」
「気持ち悪くて…」
強い。魔物のような何かの存在感が、近づけば近づくほどに強くなっていく。それはおぞましさのような何かで、身体の内側を這いずり回るような感覚だった。
「大丈夫?」
「うん、なんとか」
少し吐きそうになりながらも、ぐっとお腹に力を込めて耐える。ここまで来て引き返すつもりはなかった。
「でるぞ」
木々が途切れ、建造物の前に出る。
「遺跡、みたいだね」
リンが言う通り、祠や施設というよりは、遺跡という言葉が似合う雰囲気だった。台形で石造りのずっしりとした構えに、奥が暗くて見えない入り口、ツタをはじめとする植物がだいぶ覆っている様子は、まさに遺跡だ。今にもお化けがでてきそうだと、ユナは思った。
「こんなところに入っていったの?一人で?」
「ああ、入ってった」
「まだ進んでるみたい。地下に行ってるかも」
「行く…?」
ちょっとためらったように、リンが提案する。たしかに、この夜の暗闇の中でなお真っ暗な遺跡の入り口は、入ってしまえば本当に何も見えなくなりそうな気さえする。
「今さら、怖じ気づいたか?」
「そんなことないけど、ねえ」
リンはチラリとユナの方を見た。
「行こ」
「う…、明るくしてもいい?」
「さすがにな。見えないし」
「良かった!じゃあ行こう!【灯火】」
ググリが承諾してくれて一気に持ち直したリンは。さっそく明かりをつけ、意気揚々と進んでいった。
「やれやれ」
調子のいいやつだと言わんばかりにググリがため息をつき、リンに付いていく。ユナも遅れないように後に続いた。
遺跡の中はひんやりとしていて、どこかから水が滴るような音が聞こえる。外と同じように石で覆われていて、居心地の悪さを感じた。分かれ道に出る。
「こっち?」
「うん、こっちに行ってたと思う」
ユナは人影が通って行った道を示した。




