第172話「人のような影」
「待って!」
ユナの小さな叫び声に、ググリはピタリと、リンはビクッと縮こまるようにして立ち止まった。
「どうした?」
小声でググリが問う。
「ちょっと、待って」
ユナの【探知】上に突如として現れた影、それはおそらく魔物ではない。魔物だったらハッキリとわかるが、そうでないということは、動物か、人か。
「突然何かが現れて」
「魔物か?」
「ううん、普通の生き物だと思う」
「猫とか?」
リンの可愛らしい想像に、ユナはふとコッケツのことを思い出す。確かに突然現れるが、コッケツはユナの【探知】に引っかかるような真似はしなかった。
「わざと…?」
ユナは、わざとコッケツが【探知】に引っかかることで何かを伝えようとしているのかと思ったが、他の人もいる場所でそんなことをするとは思えなかった。
「わざと?」
「あ、いや」
どうやら口から思考が漏れていたようで、慌てて否定する。
「集中して探ってみる」
「できる、のか?」
「たぶん」
「そうか、頼む」
ユナは目を閉じて、【探知】に集中する。何かの気配が強くて難しいが、感覚的には人に近いような気がした。
「……うーん、人、かも」
「こんな夜中に?森の中に?」
「リンの、言う通りだ。それも、立ち入り禁止」
「そうなんだけど、ね」
ユナは改めて確認してみて、やはり確証は得られないけれど人な気がした。
「やっぱり人だと思う。もしかしたら管理人さんとかかもしれないし」
その影はゆっくりと移動して、立ち止まった。ユナたちからそこまで離れていない。
「もう少しいけば見えるかも」
「危なくない、か?」
「むしろ人が近づけるなら大丈夫ってことかも」
「魔物のほうは大丈夫かもしれないけど、人の方がヤバイかもしれないってことじゃない?」
「あ、そっちか。う~ん」
ユナは魔物の気配が強くてそちらの脅威ばかりを考えていたが、確かに人の方が危険という可能性もあった。
「でも、見ておきたい。その人が何か知ってるかもしれないし」
ユナはこの魔物のような何かと相対することになることを考えて、少しでも何か情報が得られるなら欲しいと、そう思った。多少の好奇心もあったけれど。
「確かに、ここまで来て帰るのも、ね」
リンも同意してくれた。
「危なければ、すぐ帰るぞ」
「うん、もちろん」
「…こっちか?」
「うん、そっち」
ググリはユナの指示に従って進み始めた。素早く、でも音は殺しながら。
ーーー
「あれは、祠か?」
人の姿が見えるより先に、石で建てられたような何かが見えてきた。
「こっち」
ユナは弧を描くように回って、木々の間から見えそうな場所を探る。まだ人影は立ち止まったままだ。
「ここ」
森の中は多少の起伏があって、ユナが立ち止まった場所は比較的高い位置だった。見下ろすような形で、その人影の方を確認する。
「うーん、暗くてよくわかんないね」
ユナもリンと同様で、何かぼんやりと影が見えるが、人だとは断定できなかった。
「人だ」
ググリはハッキリと人だといった。
「何か、入り口に向かって手を合わせてる」
先ほどググリが祠かと思ったそれは、石造りの人より多少背が高い程度の台形の建物だった。そこには入り口があり、人がいる。
「……上着脱いだ、…制服、女」
そこで、ユナの【探知】でも人影がハッキリ人だとわかった。
「良く見えるね」
「…目は、良いほうだ。上着を、たたんでる」
「あ!」
「歩き始めた」
ユナが気づくと同時に、ググリが対象が動いたことを伝えた。
「……どうする?」
「とりあえず、あれ見てみない?」
リンは石造りの建物を指さしてそう言った。




