第171話「魔物のような何か」
「まだ真っすぐで大丈夫」
「わかった」
ユナの言う通りに、ググリはそのまま真っすぐ進んでいく。【探知】無しで森の中をまっすぐ進むというのは至難の業だ。ユナはその凄さに気が付いていないが、ググリは道なき道をきちんと真っすぐ進むことができていた。
「うっ…」
「どうした?」
前にコッケツとこの森で会ったときと一緒だ。一瞬怖くて、そのあとに気持ち悪くなる。そういう魔物のような何かが、ユナの【探知】に引っかかった。
「その、あー…」
ユナはもともとこの何かがそこにいることを知っていたが、二人には話していない。そして、例の魔術陣から森の方向に向かっているという時点でこの何かが原因かもしれないというのに薄々感じていた。どう話したものか。
「その、森のもう少し奥の方に、なにかいる感じがして」
ユナは誤魔化すことにした。コッケツのことやふうちゃん、るーちゃんのことを他の人に話すわけにはいかない。
「魔物か!?」
「えっ!?」
ググリのその言葉に、リンも一気に緊張感が高まったようだ。
「あ、いや、そうなんだけどそうじゃないような」
「どういうこと?」
リンが分からないといった様子で追求する。
「魔物っぽい気もするけど、そうじゃないっていうか…。とりあえず動いてないから、動物じゃないかも?」
「寝てる、だけかも」
「うっ…」
鋭い指摘だ。ユナはまだこの何かが動き出すまで猶予があることを知っている。だが、それを知らないググリの立場で考えれば、夜行性でもない限り動物が夜に寝ていると思うのは当然だった。
「……引き返す?」
何かそのものについて話し続けると、思いがけずに余計なことを口走ってしまいそうな気がしたユナは、話題をずらした。
「……」
ユナとググリはリンの方を見る。この探索を提案したのはリンだ。進退を決めるならリンがふさわしい。
「……ううん、行こう。怖いけど、何かわからない方がもっと怖いもん」
「わかった。ユナも、いいか?」
「うん」
ユナの中にも、この魔物のような何かを知っておきたいという気持ちはあった。そのうち対処することになるかもとコッケツに言われていたのを思い出して、まさかこんなに早く近づく羽目になるとは思っていなかったが、むしろ一緒にいてくれる人がいるほうがありがたいと、そう思うことにした。
「もし動いたら、すぐに」
ググリからアイコンタクトがユナに飛ぶ。夜のとばり、森の中の、笠の内側であっても、それは鋭く輝いている気がした。
「うん、わかった」
それは怖いというよりは、頼りになるなと感じたユナだった。
それからしばらく、ググリから動いたかと聞かれては動いてないよと返しながら進んだ。そしていよいよ、視界にもその何かが入ろうとしたとき、突如としてそれは現れた。
「待って!」




