第160話「男子トイレの個室」
そして現場となったのは、そんな研究棟の3階、北から2番目のお手洗いだった。
「ふぅ……」
「大丈夫?」
ユナ、リン、ググリの新入生三人組は、もちろん研究棟なんて全く知らなかった。部活棟のようにいい感じのところに地図が掲示されているわけでもなかったため、迷いに迷ったのだった。途中、話しかけるなオーラ全開の威圧的な先生から隠れたり、優しいおじいちゃん先生に教えてもらったりしながら、何とか辿り着いた。
「…うん、大丈夫」
森暮らしも経験し、体力に自信が付いてきていたユナだったが、意外と迷いながら階段を上り下りしたりするのは苦手なのかもしれないと感じた。リンとググリは全然息が上がっている様子はなかった。
「ここね」
そこはどことなく古さを感じる灰色のような薄い青っぽいようなタイル張りのトイレだった。もちろん男女に分かれていて、現場は男子トイレだ。
「あ…、どうしよう」
「こんなこともあろうかと!」
ふふんと胸を張りながら、リンは”調査中 立ち入り禁止”と大きく書かれた紙とテープを取り出した。いつの間に準備していたのだろうか。
「先生にちゃんともらっておいたの。ユナちゃん、男子トイレ入るのは嫌?」
言われてみれば少し抵抗があるような気もするが、調査の方が重要な気がした。
「大丈夫」
「よかった!ググリ、中に人がいないか見てきてくれない?」
「うん」
こんな調査なんていう活動をすることになるとは思っていなかったが、こういう風に性別が壁になることもあるかもしれないと思うと、男の子もいてくれてよかったと感じるユナだった。張り紙をしたとしても男子トイレに一人で入る度胸は、ユナには無かった。
「誰も、いなかった」
「よし、じゃあ行こっか」
目につきそうな入り口近くにペタリと紙を張り付け、三人で中に入る。
「おじゃましまーす…、へぇー、ほうほう」
リンは初めて見る男子トイレの小便器に妙に関心を寄せていた。ユナは流石にそんな風にまじまじと見る勇気は無かったので、とりあえず辺りを見回した。正面直ぐは壁になっていて、右に曲がって入ってすぐに手を洗う洗面台、それから左に曲がると、縦に空間が広がっている。右には小便器が奥に向かって4つほど並び、一番奥には窓が一つ。左には個室が2つと、一番奥は掃除用具入れだろうか。
「的が書いてあるのね…」
そうしてユナが見回している間もリンはまだじっくり見ていたので、なんだか恥ずかしくなってきたユナは催促した。
「その!気絶したっていう個室はここかな?」
左手の個室のうち、手前の個室。そこには壊れたドアと、使用禁止と書かれた紙が貼ってあった。証言の通りなら助けるときに壊して、そのまま修理待ちになっているのだろう。
「そうね、間違いなくそこだと思う」
「うん」
リンもググリも頷いて、三人で個室を覗く。
「ドアが壊れている以外は、普通の個室ね。肝心のふたが閉まっちゃってる」
そこには洋式トイレが一つ。奥が高くなっていて、替えのトイレットペーパーがいくつか置いてある。
「俺が」
割れた木製のドアは、ところどころ鋭いところがあって危なく入るのはためらわれたが、ググリが行ってくれた。
「開けるぞ」




