表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/195

第15話「ギルド」


 レイナとユナは、手をつなぎながら大広場を歩いていく。

 ユナは、外の世界を興味津々(きょうみしんしん)と見渡す。大広場のど真ん中にある、水が湧き出ている場所が目につく。


 「噴水(ふんすい)って言うのよ。見たことある?」


 噴水に興味を示したユナをみて、レイナが説明してくれる。


 「ううん。聞いたこともない」


 「そうよね。私もここ以外じゃそうそう見たことないもの。こんなに水を使って、贅沢よね~」


 「うん!とってもきれー」


 待ち合わせのスポットなのだろうか、噴水の周りは人が多かったが、そんな人々を(ゆう)に超える高さを誇り、鮮やかに水を弾き出す噴水は、この町の活気を象徴しているようにも見えた。


 二人は歩みを進め、大広場をぐるりと回る。右にも左にも建物が並び、遠くにはより大きな、ランドマークになるような建物もいくつか見えた。その中でも一際(ひときわ)大きいのは城だ。来た道と正反対の方向、まっすぐ続く道の先に城が見える。


 「あのお山みたいなのは?」


 「あれはケイリア城。確かに山みたいにおっきいわよね」


 「けいりあじょう?」


 「ケイリア様のお城で、ケイリア城。この国で一番偉い、王様が住むところよ」


 「王様って、村長?」


 ユナの中で一番偉い人と言えば、村長だった。


 「村長…ふふっ、そうね、王様はこの国の村長よ」


 「てことはとっても偉いね!守ってあげなきゃ!」


 ユナの父の仕事は、村長と村を守ることだった。大好きな父が、一生懸命守っていたもの。それをユナも知りたくなった。


 「そうね~」


 一方で、ケイリア王がひと際強い魔法使いであることを知っているレイナは、その必要はないんじゃないかなと思いつつ、ユナにそれとなく合わせる。


 そんな会話をしていると、大広場の外側、馬車の停留所へ着く。


 「お、ちょうど来たわね。乗るわよ」


 ユナには少し高い馬車に、レイナに引っ張ってもらいながら何とか乗り込む。

 馬につながれた座席は、向かい合わせで5人ずつ、10人は乗れるが、すでに9席は埋まっていた。


 「しかたないわね。ほら」


 「えー」


 レイナが最後の一席に座り、膝をポンポンと叩く。

 人前で誰かに甘えるのが恥ずかしかったり、もうそんなに子どもじゃないよという気持ちが混ざって微妙な顔をしながらも、聞き分けの良さもあるユナは、しぶしぶとレイナの膝の上に座った。


 「いくぞー」


 御者(ぎょしゃ)の声とともに、馬車が動き出した。



ーーー



 「その子、れーちゃんの娘さんかい?」


 御者がレイナのことをれーちゃんと呼ぶ。普段からの付き合いなのだろうか。


 「そんなんじゃないわよ!結婚もまだなのに。ちょっといろいろあってね」


 「そうかそうか。お代は一人分でいいよ、一席だったしな」

 

 「ありがと!」


 馬車を降り、レイナが御者に一人分のお代を払う。


 「はい、確かに。またよろしくな!」


 「うん!また!」


 そうして馬車は、残り少なくなった客を次の場所へと運んでいった。


 停留所の目の前は広場があり、少し先に多くの人々が出入りするひと際大きな建物があった。


 「ここがギルドよ!」


 「へぇー…」


 ユナが近くで見た建物の中では、一番の大きさだった。偽神(にせがみ)と一緒に過ごしていたあの森の木々よりも、ひょっとすると高いかもしれない。


 「行きましょうか」


 すっかり見惚(みと)れていたユナを(うなが)すように、手を差しだす。


 「うん!」


 膝の上に乗るのは抵抗があるが、手を繋ぐのは嬉しいユナだった。



ーーー



 広場を抜けて数段しかない階段を上がってアーチを通り、ギルドへと足を踏み入れる。入り口は吹き抜けで、奥に受付があった。


 「大きな魔物の素材がくることもあるから、こうして大きくなってるのよ。今みたいな冬は寒いんだけどね」


 ユナが森で出会った巨大な魔物は流石に入らないが、それでもそこらの大人の数倍の高さはあった。


 「右はショップで、左は冒険者向けの集会所とか。とりあえず受付に行きましょうか」


 レイナが案内をしてくれつつ、受付へと向かう。


 「レイナさん!お疲れ様です。あれ?確か今日お休みですよね?」


 「お疲れ様。そうなんだけど、ちょっとこの子のことでギルド長に相談にね」


 ギルド職員の制服を身にまとい、書類を抱えたその男性が、ユナのことをチラリと見る。


 「そうなんですね。ギルド長どこにいたかな…。マリさんなら知ってると思うので、聞いてみてください」


 「うん。わかった。ありがとう」


 「いえいえ!では!」


 あたふたと書類を落としそうになりながら早歩きで去っていった。


 「レイナさんの知り合い?」


 「知り合いっていうか、同僚ね。こう見えても私、実はギルドの受付なのよ!」


 「そうなの」


 「…ってそうか、ギルド知らないんだもんね」


 ギルドの受付と言えば、エリート職の一つだ。荒くれ者も多い冒険者たちと対等に相対(あいたい)し、薬草や魔物の素材などの幅広い知識を有し、それでいて事務仕事をきちんとこなせるだけの素養と教養が必要になる。さらには緊急依頼など、的確な判断や冷静さが求められるシーンもある。難しく、大変なことも多いが、一目(いちもく)置かれ、憧れられる存在なのだ。

 しかし、ユナはそのことを知らなかった。ユナにとってレイナは、村の外の世界で、初めてできた人間の繋がり。優しいお姉さんだった。


 そこへ、何者かが現れた。


 「れーちゃーん!!!」


 「レン!無事だったのね、って抱き着こうとしないで」


 顔面を押さえつけられ、ハグを拒否される”レン”と呼ばれる男性。


 「って、え?もしかして隠し子…!?!?」


 「んなわけないじゃない!!」


 「なんだーよかったよかった!…ん?ねえ君」


 「ひゃいっ!?」


 ユナは自分に話が振られると思っていなくて、人見知りを存分に発揮し、レイナの後ろへと回り込んだ。


 「ああ、驚かせたいわけじゃないんだ。もしかしてさ、どっかで会ったことないかなって」


 「レン!ユナちゃんにあったことあるの!?」


 「いや、なんかそんな()がしてさ」


 「ユナちゃん、レンに会ったことある?」


 ユナには一切心当たりがない。村から逃げ、森から逃げてから、話した人間はレイナだけだ。


 「ううん。ない…です」


 「そっか。レン、こんな子どもにも色目(いろめ)使おうっての~?」


 「いやいや、本当にそんな()がしたんだって、ほら知ってるだろ?俺っちのスキル」


 「あーそうね。でも、気のせいじゃない?ユナちゃん、昨日ここへ来たばっかりだし」


 「昨日かー…。そうかー、そうかもなー」


 そういいながら、”レン”はジッとユナのことを見回す。


 「…あの…!」


 「ああ、失礼失礼。俺っちとしたことが自己紹介を忘れてたぜ」


 そう言って佇まいをなおし、改めて自己紹介をする。


 「俺っちはレリファス。レリファス・ランドロードだ。【ユリー・ライラック】というパーティーで冒険者をやってる。気軽にレンと呼んでくれ」


 軽やかに礼をするレン。ユナはやっと初めてレンのほうをきちんと見ることができた。改めて見てみると、整った目鼻立ちに、茶目っ気のあるハネた茶髪、急所を的確に抑えた軽装備は、遊び心のある(がら)が入っていた。端的にいってイケメンだった。

 しかしながら、少し目の下のクマが玉に(きず)だった。夜更かししていたのだろうか。


 「ユナです。よろしくお願いします」


 「ユナちゃん!よろしくね」


 手の(こう)にキスでもしそうな勢いで近づいてきたので、ユナはまたレイナの後ろへと引っ込んだ。


 「フルネームで呼んでやりなさい」


 レイナに促されるまま、ユナは覚えたての名前を発する。


 「レリファス・ランドロードさん?」


 「ゔっ!!やめてよ~!れーちゃーん」


 「キザったらしくフルネームで名乗るからよ」


 ユナは何のことかわからずぽかんとしていると、レイナが説明してくれた。


 「レンはね、家名も恥ずかしいっちゃ恥ずかしいんだけど、レリファスっていう自分の名前が恥ずかしいのよ」


 「名前が?」


 「ええ。この街を守り背負うんだって、この街、ユリクスセレファスから名づけられたらしいんだけど、本人はそんな大層な名前恥ずかしいって。親からもらったいい名前なのにね」


 「守り背負う…。とってもいい名前だと思う!」


 「お、おう」


 ユナの言葉に、思わずたじろぐレン。


 「お!ユナちゃんやるね~」


 そういいながら、ニシシっと笑うレイナ。


 「じゃ、そういうことだから、またね~レン」


 「そういうことってどいうことだよ!じゃあまたなレイナ、ユナちゃん」


 「はい、また」


 そうして手を振りながら、レンは去っていった。ユナも小さく手を振り返した。


 「時間食っちゃったわね。急ぎましょうか」


 「はい」


 ちょっと敬語が残っているユナと、ちょっと童心に帰ったレイナの二人は、受付へ進む。

 先ほど言っていた”マリ”という人だろうか。女性が対応中の受付へ並ぶ。


 「…はい、ありがとうございました。またお待ちしております」


 「おう!」


 お金を受け取ったらしい、重そうな鎧をまとった男性が、野太い声で返事をしながら去っていき、順番が回ってくる。


 「レイナ!またレンとやってたわね」


 「マリ!そうなのよ、しつこいもんよね」


 「えーお似合いだと思うけどなー」


 「やめてよ!ただの腐れ縁よ」


 「そういいながらも??」


 「マーリー!!」


 「ごめんごめん」


 ”マリ”とレイナの二人は、気心の知れた仲と言った様子だった。


 「ところで、お休みの日に来た理由はその子かな?」


 「うん。そうなの」


 受付が高く、背伸びをする形になりつつも、ユナは自己紹介をする。


 「ユナです。よろしくお願いします」


 「まあ!ご丁寧に。マリって言います。よろしくね、ユナちゃん」


 ユナは、レイナと似た雰囲気を持ったマリに対しては、人見知りを乗り越えて無事に自己紹介をすることができたようだ。


 「ところで、おとうさ…、えーっと、ギルド長はいる?」


 童心に帰っていたせいか、思わず漏れてしまったようだ。


 「素直にお父さんって呼んじゃえばいいのに。喜ぶと思うよ?」


 「いいの!それで、ギルド長はどこにいるかわかる?」


 「執務室(しつむしつ)にいると思うよ。結局徹夜だったから、寝落ちしてるかもしれないけど」


 「じゃあそっとはいることにするよ。ありがとう」


 「いってらっしゃい」


 マリは手を振りながら、二人を見送った。



ーーー



 受付の裏手から階段を何階分か上り、奥へ行った部屋がギルド長の執務室だった。


 レイナがコンコンッと小さくノックをする。


 「…失礼しまーす…」


 ガチャッと、レイナがドアを開いた瞬間。

 ユナは探知されたことに気が付いた。


 「…お、レイナかどうしたんだ?」


 「起きてたんだ、良かった。お疲れ様ですギルド長。この子のことで相談がありまして、今お時間よろしいでしょうか?」


 「…ああ、大丈夫だ」


 ギルド長は、どこかしょんぼりとしたように見えた。


 「失礼します」


 「…失礼します」


 レイナに合わせて、ユナも執務室へと足を踏み入れる。

 ギルド長も、奥の執務用のデスクから立ち上がり、目の前のソファへと移動する。テーブルをはさんだ向かい合わせのソファへ、レイナとユナも移動した。


 「それで、相談とはなんだ?」


1話にまとめようと思った話が4分割くらいになりました。ペースアップしていきたいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ