第157話「時代は自己防衛!」
ミルクイス先生がほっと胸をなでおろした様子で部室を後にしてから、すぐにユナたちは気絶させる魔術陣の調査を始めた。
「と言っても、手掛かりはこれだけだもんね…」
リンが手に持っているそれは、先ほどミルクイス先生が提示していた魔術陣だ。陣を見たという生徒が描いたものをさらに描き写したものらしく、調査のために置いていってくれた。
「先生は気絶させる魔法ならあるって言ってましたけど、どんなものなんですか?」
「気絶と言っても、その原因は色々あってね、さっき言っていたように貧血で倒れてしまうのもそうだし、ストレスが原因になる場合もある。これは魔法では難しいね」
ユナはストレスというものがまだ何か具体的にわかっていなかったが、難しそうなのでスルーした。
「僕が知っているのは、強い振動を頭部に与えることで失神させる、どちらかと言えば物理的なものだ」
そう言いながら、コリー先生は部室の中でも数少ない魔法についての本が集まっている本棚に移動し、何か探し始めた。
「他にも、平衡感覚を狂わせて眩暈を起こさせたり気を失わせるものや、眠気を増幅させて昏倒させてしまうものもあったはずだよ。お、これだ」
それはやはりこの部室では珍しく、表紙に魔術陣が描かれていなければタイトルに魔術陣とも入っていなかった。
「なんですかその胡散臭そうな本は……」
リンがそういうのも頷ける。その本は”時代は自己防衛!”というタイトルだったのだ。まるで魔法の本とは思えない。
「あった、ここ、暴漢に襲われそうになったときに使える気絶させる魔法」
コリー先生が見せてきたページには、デフォルメされた真っ黒な人が女性を襲っているイラストが付いていた。タイトルの割にシチュエーションも含めてわかりやすそうなデザインをしていた。パッと見でも、”襲われそうなときに”、”気絶させる魔法”、詠唱などが目につく。
「うーん、この魔法だと正確に対象の頭部に向けて当てないし、詠唱も長すぎるから実用的ではない気がするんだよね」
コリー先生は苦笑しながらそう指摘する。
「今回の気絶事件でも、設置された魔術陣から正確に人間の頭を狙うのは難しいと思う」
確かに、ユナが最近授業で習った水を出す魔法の詠唱は、『空の恵をここより』だったことを思えば、3行も書いてあった気絶の魔法はなかなか覚えられそうにないくらい長い。それを言い切って発動するタイミングで頭に合わせるとなると、魔術陣に直そうとしたらどんな陣になるのだろうか。ユナには想像がつかなかった。
「じゃあ今言ってた眩暈を起こすやつとか、眠くなる魔法とかはどうなんですか?」




