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第14話「外の世界」

ギリギリ…!

 「ギルドへ」


 「ぎるど?」


 「ギルド聞いたことないの!?」


 「うん」


 「それぞれの街に、一つはあるはずよ?」


 「ふーん」


 ユナの村には家々と、数軒の商店、あとは教会と、診療所(しんりょうじょ)くらいしかなかった。

 もしかしてギルドとやらを知らないことは、何かまずいことなのだろうか。


 「あ!えーっと、あの…」


 「今時ギルドがないド田舎となると…、いやでも…」


 慌てふためくユナと、考え込むレイナ。

 進行役は不在だった。



ーーー



 「ごちそうさま!」


 「お粗末様(そまつさま)でした」


 そんなこんなで食事を終え、食器を片付けるレイナ。ユナも自分の食器を持っていく。自分の家でも、いつもやっていたことだが、偽神(にせがみ)と過ごした野宿のような半年を越えても、身体はきちんと覚えていたようだった。


 「ちょっと、ギルドに行く前にお風呂入ってもいいかな?」


 「お風呂!!入りたい!!」


 ユナはどちらかというとお風呂は好きだった。

 修行で沢山汗をかくためか、ユナの家はお風呂周りはきちんとしていて、毎日お風呂に入っていた。

 お風呂の時間はお父さんかお母さんが一緒に入ってくれて、ユナはそこでお話をするのが好きだった。


 「乗り気みたいね、じゃあ一緒に入りましょうか!」



ーーー



 「あったかいのがでてくる!すごいすごい!」


 蛇口から、お湯が出ている。

 普通は蛇口から出てくるのは水だ。ユナがいたような田舎では、蛇口さえ珍しく、水と言えば、湧水(わきみず)を引いてくるか、魔法で水を出してくれる水屋(みずや)かだった。


 「すごいでしょー!このユリクスセレファス広しといえど、蛇口からお湯がでる家はそうそうないわよ!」

 お風呂が珍しく、変に思われることも多いレイナにとって、こんなに喜んでくれるユナはとても可愛いく映った。


 「へー!」


 ユナは”ユリクスセレファス”が何かわからなかったが、目の前のお湯と、お風呂の前では些末(さまつ)なことだ。


 「早くはいろ!」


 「先に洗ってからね」


 そう言ってユナを椅子に座らせるレイナ。なにやら液体を手に取ってユナの頭に付ける。


 「何それ?お薬?」


 「シャンプーって言うの。お薬って言われたら、そうかもしれないけど、化粧品みたいなものかしら?最近流行ってるのよ。汚れも落としやすくなるし、髪が綺麗になるって」


 「へー。なんかいい香りするね!」


 「そうでしょ!目ちゃんとつぶっててね」


 「うん!」


 レイナがわしゃわしゃと、手慣れた様子でユナの頭を洗っていく。


 「はい、流すよー」


 コクリとユナがうなずくのを見て、レイナがお湯を頭から流した。


 「はい、お風呂はいっていいよ」


 「うん!」


 言うが先か、動くが先か。ユナはあっという間に湯船に()かった。


 「っはあぁ~…」


 一番最初に逃げ始めてから、実に半年ぶりのお風呂は、ユナの心にまで()み渡る。


 (るーちゃんとふうちゃんも…。いや、二人は水でも十分だったし)


 一瞬、二人のことを思いやるそぶりを見せたユナだったが、寒くて水浴びすら諦めたユナに対し、二人はどうしたのと言わんばかりに平然と水浴びをしていたのを思い出し、少しすねた。

 洗い終えたレイナが湯船に入る。


 「どうしたの?ぷっくりして」


 「ううん!なんでもないの」


 「そっか。それじゃあこっちおいで」


 そういって手招(てまね)きするレイナの身体に、身を預ける。


 「はい!これでよし!」


 そうして後ろから抱きしめられるような体勢になった。ユナの頭の後ろに、ぽよんとしたものが当たる。


 「レイナさん、おっきいね」


 「レイナでいいわよ。そうね~、あんまりにも見られるから好きじゃないんだけれど」


 「でも、レイナの柔らかいの好きだよ」


 ユナは、お父さんと入ってた頃の、ガチガチの胸筋枕を思い出していた。


 「あら、ありがと!」


 そんなユナの比較対象など露ほども知らないレイナは、素直に受け取った。



ーーー



 ユナがのぼせる前にお風呂を上がって、ギルドに向かう準備をした二人は、玄関を出て、階段を下る。

 レイナの部屋は集合住宅の3階で、宿が併設(へいせつ)されていた。共用の玄関はそれなりに活気がある様子だった。


 ユナにとって、その玄関の外は、初めての”外の世界”。

 閉鎖的な村でもなく、人っ子一人いない森の奥深くでもない。人間たちが暮らす、”社会”を、ユナは初めて目にする。


 「うわあ!」


 圧倒的な人の数に目を奪われ、足を止める。


 「今日は休日だから、流石に人が多いわね」


 玄関を出て一本道を抜け、大広場に向かっただけで、道を行きかう人、人、人。

 それぞれが、それぞれの目的を持っている。パンを買ったり、花を買ったり、待ち合わせをしたり、魔法で大道芸をしている人も、歌を歌っている人もいた。

 その光景に、ユナは無性に憧れや興奮を覚えるのと同時に、偽神やふうちゃん、るーちゃんのフォローがないなかで、これからうまくやっていけるのか心配になった。

 そして、急にレイナが、自分と全然違う人間のように見えた。

 こんな場所で、自分とは全く違う生活をしている、年も全然違う大人の人。

 急に心細くなる。


 「行きましょうか」


 そう言って再び歩き出すレイナ。その手は、ユナの手を取って引いていた。

 たったそれだけで、ユナはまた、レイナがすぐそばにいてくれる気がした。

 そして、元気に返事をする。


 「うん!」


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