第146話「放課後の居場所」
「あんまり人が少ないと、部室無くなっちゃうみたいで」
「えっ…?」
悩みに悩んでやっと決めた部活なのに。それが消えてしまうのか。
「部活、無くなっちゃうんですか?」
「部活は無くならないよ!無くなっちゃうのは部室ね」
「部室…」
部室が無いのと部活が無くなるのとで、何が違うのかわからなかったユナは、続く言葉が思いつかないまま頭の中で”部室”と”部活”がグルグルしていた。
「部室がない部活も結構あるんだよ?正しくは同好会っていうことになるんだけど、開いてる教室で活動したり、場所に縛られずに活動したりとかね」
「そう、なんですね」
そのときそのときで違う空き教室で部活をするなんて、ユナは迷子になる気しかしなかった。
「うん。でもねぇ」
そこでリンが視線を落とす。その先には抱えている本があった。
「本の場所が…」
「そうなんだよね。まあ逆にそれでちょっと見逃してもらってるって言ってたけど」
「見逃してもらってる?」
「コリー先生がね。その…」
「その?」
「そろそろ限界だから…、中、入ってもいいかな」
リンの腕がプルプルと震え始めていた。
「あ!ごめんなさい!」
ユナは慌てて部室のドアを開けた。
「ありがとう」
リンを通してから、ユナも部室に入った。今日から毎日、というわけでは無いだろうが、きっと教室の次にくることになるかもしれない場所だ。そう思うと、なんだか急にぐっと身近なものになったような感覚がした。
「ふぅ…」
まだまだ減らない積まれた本の隙間に、リンはドサッと本を置いた。丁寧に置く余裕はもうなかったのだろう、腕をプルプルと振っていた。
「お疲れ様です」
奥からコリー先生の声が聞こえた。
「おや、ユナさん」
「先生!ユナちゃん入ってくれるって!」
「おお!本当ですか!ユナさん!」
「あ、はい、その……、お願いします」
「嬉しいですね!これで一安心かな?」
「ちょうどその話をしてたんです。二人で大丈夫なんですか?」
「う~ん、たしかニ、三人と言っていたような気がするんですよね」
「そこ!そういうとこですよ!!もう」
「いや~、申し訳ない」
頭をポリポリと掻きながらコリー先生はいつものように謝った。
「もう一人ぐらい来てくれたら大丈夫だと思うんですけどね」
「もう一人かー、ユナちゃんだれか入ってくれそうな人の当て、ない?」
「う~ん…」
ユナの脳裏に真っ先に浮かんだのはイツツだった。ユナが誘えば間違いなく入るだろうという謎の確信があった。だが、それは一番ありえない選択肢だった。
「ないかも……、です」
「そうですか。研究会は、やっぱり勉強が続くみたいで嫌なんですかね」
「放課後までガリガリ勉強なんて、嫌な人は嫌でしょうね~」
確かに、魔術陣は頭をたくさん使うような難しいことが多い気がする。机に向かって本を読んだりしながらうんうん唸ってるのは授業と重なるところが多いだろう。
「園芸部の人たちも、机に向かってゴリゴリやってたような」
「それはガリガリ勉強してるって言うよりは、ゴリゴリって調合してるほうね」
笑いながら突っ込むリンに、ユナはなんだか恥ずかしくなって顔を赤くした。
「何はともあれユナさん、ようこそ魔術陣研究会へ!歓迎します」
「ありがとうユナちゃん!よろしくね!」
「こちらこそ、…よろしくお願いします!」
前途は多難そうであるものの、居場所を見つけることができたユナだった。




