第143話「勧誘期間最終日」
ユナがどの部活にするか悩んでいる内に、あっという間に部活勧誘期間は最終日を迎えていた。
園芸部は、エゼンとイツツの関わりは結局聞けなかったものもあるが、ユナはベルがいない状態でエゼンと同じ部室にいる想像ができなかった。部員が多すぎるのもなんだか居心地が悪くて、教室でもまだ緊張しているのに、放課後まで人に囲まれて過ごすのは疲れそうだなとユナは思った。
魔術陣研究会は、イツツを尾行した日から行けていない。リンにもなんどか誘われて、本の整理だけでもと言われていたがすべて断ってしまっていた。一度それをイツツに見られたときは心臓が弾けてしまうかと思った。
果たして、イツツはどの部活に入るのだろうか。直接聞けばいいのだろうが、それすら今は怖くなってしまっていた。
目の前の席のイツツは、授業中は滅多に後ろを振り返ることもないし、何もしてこないという安心感があるけれど、放課後になって視界内に居なくなった途端にどこかから見られているんじゃないかという不安が襲ってくる。なんでこんなことになっているのか、ユナにはよくわからなかった。
最終日の今日、尾行すればどの部活に入るかわかるんじゃないかと魔が差したけれど、それをする度胸が、ユナにはもうなかった。ちらりとクラッソの席の方を見るが、すでに部活を決めたのか、授業終わりですぐに教室を出ていったようで、仕舞われていない椅子が誰か今から座るんじゃないかと待っているばかりだった。
「はぁ…」
部活には必ず入らなければならない。部活は研究会や同好会も含めれば何十個もあるわけだらか、ユナとイツツとでたまたま同じ部活に入ることなんて滅多にないだろう。しかし、ユナが縁のあった園芸部、魔術陣研究会には姿を現した。
ユナは、とりあえず別の部活に入ろうとイツツとは似つかないような部活もいくつか見学した。魔法彫刻部は美的センスが壊滅的で楽しくなく、料理は他の人がべちゃべちゃに触った食材が食べれなくて苦しく、部活系のものは人が多くて疲れてよくわからなかった。
そして、そのほとんどで後日イツツがその部室に入っていくのを見た。まるで示し合わせたかのように、毎回ユナが目撃するタイミングでだ。
「ストーカーって……」
あの日、イツツはクラッソに言い放っていたが、むしろイツツの方がストーカーだと思うユナだった。たまたまかもしれないけれど、とてもそうは思えなかった。
イツツが部室入るのを目撃しなかったのは、初日に行ったスキル分類研究会くらいだ。
最初に向かって大変な目に遭ったそのスキル分類研究会のほかに、もう一つだけスキルの名を冠した部活があった。それが”スキル向上同好会”だ。
一縷の望みを託して、ユナはスキル向上同好会にも見学に行った。けれど、入ることはできなかった。しないではなく、できないだ。
それはそうだ。なんせスキルを向上させる方法は、まず皆にスキルを見せて、皆で鍛錬の方法や別の使い道を探してみるというものだったのだから。スキルと魔法の組み合わせを即座にたくさん提案している先輩たちの姿には魅かれるものがあったが、まさにそのとき、見学者たちもスキルを聞かれたのだ。
「僕たちなら、君たちのスキルを今、見せてもらうだけでもいろいろ提案できるぞ!」
もちろん、ここに見学に来るような人たちだから順当にスキルを教えて、どうしたら強くなるかとかを順に話して言った。
いよいよユナの番になったものの、ユナはしばらく沈黙した。
「ごめんなさい!!」
そして黙りに黙って、耐えかねて、ユナは逃げ出すように部室を後にしたのだ。もうあの部室に行くことなんてできなかった。
その二つだけだった。イツツを見かけなかったのは。
一息ついて、入学した理由を思い返しながら、自分のやりたい、知りたいことを考えながら、ユナは誰もいなくなった教室をやっと後にした。椅子はちゃんと仕舞って。




