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第129話「普段と変わらない」

 翌朝。

 ユナは昨日のことを思い出しながら、自室のドアノブを握った。イツツももちろん寮に住んでいるので、ドアを開けた瞬間から会う可能性はある。


「すーっ…」


 深呼吸する。

 それでも緊張は抜けなくて、いったんドアノブから手を離し、ドアに耳を当てて足音がないか聞き耳を立てる。


 ーー音はしない。イツツが同じ階かどうかもよくわかってないが、十三組だったら個室なのでここの近くだろう。性別は、流石に女子寮の前で見かけたので女の子で間違いないと思うが、もはや性別すら違くても驚かないかもしれない。


 あまり眠れなかったユナは、そんなことを薄ぼんやりと考えながら、部屋を出ることにした。果たして、廊下には誰もいなかった。


「はぁ…」


 こんな緊張や寝不足が続くかと思うと、ちょっとうんざりするユナだった。



ーーー



 食堂でも出くわすんじゃないかと緊張しながら味のしない朝ごはんを食べて、教室へと着く。まだイツツには会っていない。

 ドアに一番近い前の席がイツツなので、もし先に着いていたとしたら目の前にいることになる。


(いっそ後ろから入ろうかな…)


「おい」


 後ろからかけられたその声は、聞き覚えがあった。


「またお前かよ。入るの、入らねーの」


 その声の主は、アキラだった。確か入学初日もこんな風にドアの目の前に立ってて怒られた。


「あ、その……」


 今ここでイツツの話をしようか、そんなことされてもわけわからないだろうし、などといろいろ逡巡してユナは動けなかった。


「チッ…」


 ユナの横をすり抜けるようにして、アキラはドアを開けた。


「あっ」


 ドアが開いて、もしイツツがいたら。


「なんだよ?」


「いや、なにも」


「ふん」


 ドアを開けて入りかけたアキラの奥。そこにイツツの姿はなかった。そしてその奥のクラッソと目が合う。


「はぁ」


 クラッソの大きなため息が聞こえた。それは、ユナに対してというより、緊張から解放されたかのようなため息で、きっと同じことを思っているんだろうとユナは思った。

 昨日の夜、どうしてクラッソがあの場にいたのかユナにはわからなかったが、イツツとあんなことがあってから、何か話して帰ることもできず、なんとなく女子寮の前まで送ってくれたクラッソとは玄関で別れた。お互い、イツツに謎の緊張感を植え付けられたまま。


 だからこそ、妙に通じ合ってユナもため息をついた。そして自分の席に向かっていたその瞬間。


「おはようございます」


 後ろから声がする。あまりにも普段と変わらない、普通のトーンの声だ。振り返ると、そこにはイツツがいた。


「お、おはようございます」


 そのまま固まってしまったユナ。


「席に座らないんですの?」


「あ、座ります」


「ふふっ。ええ、座ってください」


 あまりにいつものイツツで、昨日の出来事なんてまるでなかったみたいだった。


 ユナは、どうやったらこの人と別の部活に入ることができるだろうかと、まだ始まったばかりの今週いっぱいのことを考えてまた気持ちが暗くなるのだった。


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