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第128話「分からない怖さ」

 バレていた。

 こっそり誰かをつけて回るのは悪いことで、それがバレてしまって、自分が悪いことをしてしまったんだという事実が。そしてそれがバレてしまったのがイツツなんだという事実が。ユナにとっては初めて経験するような、おかしくなってしまいそうな緊張感で、汗が止まらなかった。いつの間にか握っていた手が、じっとりとしてきた。


「どう、しましたの?」


 それは普通の問いだった。おそらく、あえて普通に聞かれた問いだった。けれど、其処に置かれた一拍が、ユナには重い重い圧に感じられた。


「あ、え」


 まるで首を絞められているような気分だった。さっきまでよりもずっと呼吸がしづらくて、つらくて、乱れる。


「わたくしに」


 沈黙さえつらかったのに、降りかかってくる言葉すら恐怖を覚える。


「何かあるのでしょう?」


 怖かった。怖く、恐く、恐ろしい。それが何かは分からない。分からないことが恐ろしい。なぜ自分がこんなことをしてしまったのか。イツツは何をそんなに怒っているのか。果たして怒っているのかさえ分からない。そして、自分がなぜこんなに怖いのかさえ分からない。


「はぁ、ぁ、ぅん、はぁ…」


 膝が震えて、他人から見ても分かるくらいに身体が震えて、それでもイツツはその態度を崩すこともなく、ユナの方が膝から崩れ落ちそうだった。


「…あら」


 その声は頭上から聞こえた。もう、ユナは俯いていたのだ。だが、次の声は遠くから聞こえた。イツツの声ではない誰かの声。


「お前!ユナに何やってんだ!」


 闖入者のおかげか、緊張から解放されたユナは後ろから聞こえてきた声の方へと顔を向ける。

 そこにいたのは、クラッソ・カノッソスだ。


「てっきり出てこない(・・・・・)と思っていましたのに」


「あ”??」


 どこかから現われたクラッソは、威圧しながらユナとイツツの間に割って入る。


「あなたみたいな方をなんいうか、ご存知ですの?」


「知るか!」


「……ストーカー、と言うんですのよ」


「っ!お前!!俺様をバカにしてるのか!!」


 先ほどからのクラッソの威圧もどこ吹く風。イツツは何も感じていないようだった。


「あなたには興味ないんです」


 それどころか、まるで虫けらでも見るかのような冷たい目がクラッソを突き刺す。


「ひぅっ」


 思わず怯えてしまうクラッソだったが、すぐに立て直す。


「それどころか邪魔してくるなんて」


「ごちゃごちゃうるせえ!!何やってたんだって聞いてんだ!」


 手のひらに火を灯す。それはクラッソのスキル【火炎操作】で作られた本物の火だ。


「……煩わしい」


 その声はユナにもクラッソにも聞こえない、呟きのような声だった。


「うっ…」


だが、その声と同時に、クラッソは膝をついた。


「なに、しやがった」


「興が醒めました。失礼しますわ」


 イツツは差していた傘を閉じると、すっかり暗くなった闇の中へと消えていった。


 ユナはずっと置いてけぼりだったが、やっと助かったと、そう思った。


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