第127話「見つかって」
今イツツが出ていったはずの、魔術陣研究会の部室前をうろうろする。ユナは隠れるのもすっかり忘れていた。
(魔素探知を使えば…)
この間はやりたい放題【魔素探知】を使っていたユナだったが、かろうじて人前では使っていなかった。そのときに出会った人物は警備員だけだったし、その警備員とて通常の業務をこなしていたのみで、怪しんでいる様子などはなかった。
けれど、今回はイツツだ。得体の知れない人物であるのは、幼いユナでさえ感じられるものだ。
【魔素探知】はバレにくいとはいえ、気づく人は気づく。普通のスキルとしてならバレてもいいけれど、【モンスターテイマー】に関わるスキルだとバレたら一巻の終わりだ。では【魔素探知】を、イツツを探すために使ったとしたら。ユナは想像する。
(あぶない気がする…)
なんだかそんな気がした。ユナは幼いながらにそれなりにいろんな人たちに会ってきた。ほとんど両親だけとしか過ごさなかった時を思えば、本当に多くの人に会った。にーちゃん――偽神――、レイナ、サリナ、レンレンといった深くかかわった人たちを始め、ギルド長やユリー・ライラックの人たち、ギルドでも職員の人や他の冒険者の人たちと挨拶をされたり、学園に入ってからは初めて会う人だらけだった。その中でも、イツツは本当にユナにとって不思議で、不気味で、掴みどころのない、わからない人だった。
(例えば――)
ユナがそんな風に想像を広げようとしたときだった。
ポンッ、と肩をたたかれた。
「ぎゃっ!??!?」
ユナはまるで自分から出た声とは思えない叫び声をあげた。
「ふふっ、とてつもない驚きようですわね」
「へ!?い、イツツ…さん」
振り返ったそこには、今まさに探していて、想像していた人の姿があった。
その姿を認めると同時に、まだバレたと決まったわけでもないのにユナの頭の中は言い訳で溢れた。
「えっと、これは、その!」
「どうしたんですの?そんなに慌てて」
「あっ!!と、そうですよね、あはは…」
ユナはとりあえず誤魔化すように愛想笑いをして、落ち着く時間を作ろうとした。
「えっと、その」
イツツはユナの様子を伺うようにじっと見つめている。まるで巨大な魔物に見つめられているかのようだった。ユナはそんなこともあったなと、余裕もないのに思い出したりしていた。
「えっと、えっと…、その、肩を後ろから叩かれて、驚いて」
「あら、そんなに驚かしてしまいましたか?」
「ええ、それはその、はい」
「あらあら、それは失礼しました。ごめんなさい」
妙に素直に謝るイツツに、変なものを感じながらもなんとか誤魔化せたかと、ユナはそれに合わせる。ちょっと落ち着いてきた。
「いえ、そんな」
「わたくしてっきり、つけているのがバレて驚いているのだとばかり」
首を掴まれたような気分だった。この人はなんて意地の悪い人なんだろうと思ったけれど、どう考えてもつけていた自分の方が悪くて何も言い返せないまま、ユナは緊張の中で立ち尽くす。




