第122話「渦のやつ」
「ぐるぐるってした魔術陣ってどれなんですか?」
それは、ユナがこの街にくる原因になったと言ってもいい魔術陣。ユナが転移したときににーちゃんが使っていた魔術陣だ。
「ぐるぐるっていうと?天廻魔術陣ではなく?」
たしかに、空を回っている星々はぐるぐるという表現に当てはまっている。しかし、ユナが思い描いているのはそれとは違った。
「そっちじゃなくて、渦みたいな、中心に向けてぐるぐるってなってるやつで…」
うまく言葉が出てこないユナはうんうんと唸ったが、その間にコリー先生は思い出した。
「それは説明した4種類の魔術陣に当てはまらない、他の系統の魔術陣のことかも」
「他にもあるんですか?」
「うん。他の系統の魔術陣としては、今ユナさんが言った渦のもの、ボールとかに当てられるように湾曲したもの、半円にしたり四角や三角といったシンプルなものにしようとしたものから、より複雑にしようとしたものまで、実は様々な試みがなされてきたんです」
「先生」
「ん?ああ、ごめんごめん」
ユナもついに気が付いたが、コリー先生は集中して話をしようとすると敬語になる癖があるみたいだった。リンはそれに気が付いて、話が長くなる前に止めているようだ。
「手短にね。4種類に当てはまらない魔術陣というのは、どれも実用に耐えずに廃れてしまったんだ。使い物にならなかったんだね」
「うーん、ん?」
ユナが見た限りでは、にーちゃんは使っていたような気がするが、あれは違うのだろうか。そんなユナの様子を察してか、コリー先生はリンに確認するように視線を合わせて許可を得てから話を続けた。
「魔術陣はその特性上、魔力を保持し続けたり、起動し続けたりすることができる。けれど、円以外の形にしようとすると途端にその役割が損なわれてしまう。えーっと、例えば三角とかになると、うまく魔力が回らなくて漏れてしまったり、逆に爆発したりしちゃうんだ」
「渦のやつだとどうなっちゃうんですか?」
「渦のやつは確か、中央部に集まりすぎた魔力が保持しきれずに爆発するか、保持せずにその場で起動したとしても、集約された魔力に対して中央部に配置された物体が耐え切れないって書いてあった気がするな。おそらくだけど、渦型にするくらい複雑で強力な魔術陣ならそれなりに魔力が必要になるし、逆に簡単な魔術陣をわざわざ渦型でつくる意味がなくなるってことだと思うな。なんか僕も気になってきたな。他の系統の本は…」
コリー先生は辺りを見渡すが、本の山の中からパッと見つけることは叶わなかった。そしてリンと目が合う。
「……片付けていたら見つかるかもしれないですね。それじゃあ片付け始めましょうか」
リンはニッコリとしつつも、目は笑っていなかった。
「ええ、ぜひ」
コリー先生は、怯えているときにも敬語になるようだった。




