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幕間1「冬の日の出来事」

お休みと言ったな!あれは嘘だ!

というわけで、本編の進行とはあまり関係ありませんが、第11話の少し前のお話です。

どうぞ。


 それは、年の瀬も(せま)った寒い夜のことだった。


 「ん…」


 ユナは寒さに身震いし、目を覚ました。


 「ふうちゃん…?」


 ユナが寝るときは、いつもはふうちゃんかるーちゃんが、一緒に寝ており、もふもふ暖かくして眠りにつく。

 だが二人とも野生出身だからか、湖の周辺は魔物が来ないと知りつつも、寝かしつけた後は寝床をでて、周辺の見張りをしているようだ。今はどうやら二人ともいないみたいだ。


 いつもより寒い気がして、寝床のウロを出て外を見ると、そこは一面の白銀の世界だった。


 「わぁ~!」


 寒さの原因は雪だった。

 誘われるがままに、新雪に足跡をつけていく。


 「雪だるま作ろ」


 眠気がどこかへ消え去ったユナは、自分の心の向くまま、巨大雪だるまづくりを始めたのだった。



ーーー



 歩きなれた道、湖のほうに向かってゴロゴロと雪玉を進めていた。


 「でかく…しすぎたかも…」


 雪玉は、ユナの身長をとうに越えていた。


 「ゆーちゃん。夜更かしはよくないよ」


 「ワッ!!!」


 ユナはびっくりしてその場で飛び上がる。


 いたずらが成功した子どものようにニシシと笑う偽神(にせがみ)


 「もう!びっくりしたー」


 「こんな時間に何やってるの?」


 「雪だるま作ってるの」


 ユナの住んでいた村では雪は珍しかった。だからこそ、雪が降ったらすぐに遊ばないといけないのだ!


 「立派なの作ったね~。でも、こんなに大きいと上に乗っけられないんじゃない?」


 「あ…」


 「考えてなかったか」


 雪だるまを完成させるには顔を乗せる必要がある。だが、今転がしている身体になる雪玉は、すでにユナがピンと背伸びをしても上には届かないほど大きい。


 「手もこんなに冷たくしちゃって」


 偽神がさっとユナの手を包む。


 「にーちゃんあったかい…」


 ぽかぽかするのは、手だけではなかった。


 「しばらくあっためてあげるから、そのあと顔を乗せてあげようか」


 「いいの?」


 てっきり夜更かしを怒られ、雪だるまづくりここで終わりかと思ったユナは、びっくりしたように聞き返す。


 「今日だけは特別、夜更かししちゃおう」


 「やった!でもどうやってお顔乗せるの?」


 「魔法で!と行きたいところだけど、肩車でかな~」


 「肩車!」


 ユナは思い出していた。お父さんにしてもらった肩車は、とても安定感があって、自分の世界が広がったかのように遠くが見渡せて、歩かなくてもいろんなところに行けて、とっても好きだった。


 「それなら届きそう!」


 「ああ。でも、もう少し手があったまってからね。そうだ!夜更かしついでにいいもの見せてあげよう」


 「いいもの?」


 「うん!こっちこっち」


 手をつないで、偽神がユナを導く。今まできた道と同じ、湖に続く道だ。

 手の温かさを感じながら、導かれるままに進み、湖の手前までついた。


 「こっからは目隠しね」


 「えー、いつもの湖以外に何かあるの?」


 「いいからいいから」


 そういって繋いでいた手をはなし、偽神の手がユナの目に当てられる。


 「あったか~い」


 まぶたでもぬくもりを感じつつ、足を何度かぶつけそうになりながら、何とか進む。


 「はいストップ!じゃあいくよ」


 「うん」


 まったく期待していないユナだったが、それは裏切られる。


 「わあーーーーっ!!!!」


 昼間、神秘的なその湖は、陽光が差して美しく輝くことは知っている。だが、夜は輝くことがはない。そう思っていた。

 偽神が手を離し、眼前に広がったその景色は、それとは違っていた。


 「きれい…」


 思わずため息が漏れるようなその湖は、ポワリポワリと光の玉が浮いていて、夜空に輝く星のように、暗い湖を照らしている。


 「まるで…」


 「蛍みたい、だろ?」


 「うん!」


 それはユナが住んでいた隣の、そのまた隣の村。その村の近くにある川には、沢山の蛍が住んでいた。ユナが両親と出かけた数少ない思い出の一つだ。

 あのやっと暖かくなってきた季節の、涼しげな水辺で、大好きなお父さんとお母さんと一緒に見た光。濡らした葉っぱを用意してくれて、そこに水を飲みに来た蛍をじっと見つめていたあの時。

 今は打って変わって寒い季節だが、大好きな人、偽神(・・)と一緒に光を見ている。 その光は、どうだろうか。


 「なんかいつもよりいっぱい光が見える。これ、願い事なんだっけ?」


 「そう。どこかの誰かの願い事。年末年始はね、聖誕祭(せいたんさい)だとか初詣だとかで、普段よりずっと多くの願い事が、この湖にやってくるんだ」


 「すごいね…」


 ここにある無数の輝きそれぞれが、誰かが何かを願って、ここにきている。


 「ああ、すごいよ。願い事、つまり魔素(まそ)生素(きそ)には、速さの概念はあまり通用しなくて、世界中をぐるぐる周ってからやってくるのんびり屋さんの願い事もいれば、あっという間にここにたどり着く願い事もいる。もちろんここにたどり着くことができない願い事も…。それでも今夜は、これだけ多くの願い事が、この湖にたどり着けたんだ」


 「願い事…」


 「ゆーちゃんは、なにかあるかい?」


 ユナは想う。今は亡き両親のことを。でも、


 「死んだ人は、生き返らない」


 察し(・・)た偽神が、あえて言葉にする。


 「…うん」


 「今はまだ、夢とか、願い事とか、難しいかな」


 「そうかも」


 今のこの自分の状況も、環境も、そして将来を考えるということ自体の難しさも。

 ユナが願い事を見つけるのは、まだもう少し先になりそうだった。


 (今はもう少し、にーちゃんと一緒にいれたら)


 「ちょっとしんみりしちゃったね。まあ、綺麗な景色も見せられたことだし!雪だるま作って寝るとしようか」


 「うん!」



ーーー



 そうして雪だるまのところに戻りがてら、顔になる部分の雪玉を一緒に転がして作った。

 偽神がユナを肩車して、その雪玉を乗せる。

 雪だるまの()()は、ふうちゃんとるーちゃんを呼んで、木の枝や石を付けてもらった。


 「完成!!」


 「いえい!」


 「ホウ!!」


 「ワウ!!」


 立派な雪だるまの完成だ。ユナの身長の倍はあるだろう。新雪を使った真っ白で綺麗で大きな雪だるま。名前はまだない。


 「ありがとう!にーちゃん!」


 「どういたしまして!」


 笑顔を交わす二人。ユナと偽神は同じ気持ちだった。



ーーーーー



 雪が解けるのを待つ前に、二人の別れの時はやってくるーーー


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