第115話「やっぱり個室かな」
そんな驚いたユナの様子を見て、クラ先生はユナに諭すように告げる。
「何か困ったことがあったら、いつでも相談してくださいね。授業のことでも、それ以外のことでも」
「それ以外のこと……」
「そうです。今ユナさんが言ってくれたこともそうですが、寮の生活で困っていることや、他人とのかかわり方…はちょっとわたしも不得手ですが、遠慮することなく頼っていただければと思います。いいですか?」
「はい!」
いつも説明や授業ばかりで、ユナはクラ先生という人物のことがよくわかっていなかったが、なんだか少し頼ってもよさそうだなと、良い人そうだなと思った。
ーーー
幸先よく、クラ先生にお願いすることができたユナは、ご機嫌なまま放課後を迎えた。
「るーちゃん、ふうちゃん」
そう静かに口にしながら、にへ~という可愛らしい表情をするユナ。昨夜、【魔素探知】で感じた怖い雰囲気の何か。クラ先生が封印物といっていたあれは、クラ先生が担当の先生に説明してなんとかしてくれるはずだ。
だとすればユナは労せずして、コッケツの提案であるふうちゃんとるーちゃんに会える権利を手に入れたことになる。
ただ会えるというだけでも嬉しいのに、物事が順調に進みそうで、ますますご機嫌だ。
「でも、そしたら」
そしたら。封印物が先生たちによって対処されるなら、ユナが強くなる必要はない。そして、ふうちゃんやるーちゃんと会うことができるなら、わざわざどんな危険があるかわからない人だらけの寮内に連れ込む必要がなく、個室である必要もなかった。つまりは、ランキングで上位になるような強さを手に入れる必要が無いというわけだ。
「うーん…」
ユナは考えてみる。個室じゃない部屋で、無理に強くなんてならないまま、スキルのことだけを考えて過ごしていく学園での日々を。
その最初でユナは躓いた。同年代の人と同じ部屋で暮らしたことが無いのだ。どうしたらいいかわからない。教室は人が多いし、先生が喋るだけだから何とかなるものの、4人部屋でも不安だが、まして知らない人と2人部屋なんかになり、朝から晩までと思うと、ユナは思考がフリーズする勢いだった。
「個室は欲しい……」
次は強くならないままでいられるか。そんなのは無理だと、ユナは思った。弱いままではいられない。封印物のことがなくとも、スキルがきっと何かを呼び寄せる。そんな気がする。そうでなくとも、ふうちゃんやるーちゃんに何かあったら。
さっきまで機嫌が良かったというのに、ユナはそんな想像をしただけで少し泣きそうになってしまった。
「強く…なる…!」
そのまま流れるように、スキルのことを考えた。全てに関わってくる、スキルのこと。人生を一変させながら、それでもふうちゃんやるーちゃんに出会わせてくれた【モンスターテイマー】。このスキルを調べるというのも、学園に入学した理由の一つだ。
「それだとぉ…」
スキル関係のことを調べるのに、この学園にはあまりに人が多すぎる。ユナは人付き合いが苦手なので、主に本で調べようと思っているが、教室でとてもそんな本を読むなんてできない。イツツなんかは絶対に何の本を読んでいるのかと聞いてくるだろう。2人部屋で本を読んだりしていたら、後ろからのぞき込まれるかもしれない。
「やっぱり個室かな…」
「個室がどうかしたの?」
「わっ!?」
目の前にリンがいた。
「驚かせちゃった?でも、このままだとずっと百面相してたと思うよ?」
「え」
表情に出てたのかなと、ユナは恥ずかしくなって顔を赤らめた。そしてすぐにあることに気づいて質問する。
「あ!…っと、私なんか言ってた?」
もし、スキルのことを口にしていたら。
「ん?個室がどうって」
「それ以外は!?」
「それ以外は聞こえなかったよ」
「ほっ…」
ひとまず安堵し、やっぱり個室だなと思ったユナだった。