第103話「手助け」
リンが落としたのはたくさんの本だった。なかでも古い本が緩くなっていたのか、ほどけて散らばってしまったものもあり、大変なことになっていた。ページの順番もめちゃくちゃだ。
「とりあえず拾ったものから、ここにお願いします」
そう言いながら、リンはハンカチのうえに置いた本の山のてっぺんを指す。
「うん!」
踏まないように気を付けながら、端っこの紙から拾っていく。
「優しいんですね」
「え?…あ、そう、かもしれないですね?」
「ふふっ、どうして疑問形なんでしょうか?」
「…確かに」
「ユナさんって面白い人なんですね」
そう言いながら、リンはふふっとまた笑った。
「大丈夫ですか?」
そこには先ほどのリンと同じように、たくさんの書類を持っている白衣の男性がいた。クラ先生と同じように眼鏡をかけていて、背格好も似ているような気がしたが、どこかなよなよとした印象だった。
(弱そう…?)
ユナがそう思うのも無理ないような猫背が特に特徴的で、持っている書類でそのまま前のめりに転びそうなくらいだった。白衣で体形は見えないが、ひょっとすると内側はとっても細いかもしれない。
「先生!すみません、落としてしまって」
「とんでもない!無理をさせてしまってすみません。その…」
眼鏡の奥が良く見えないが、こちらを顔をこちらに向けているなと思ったユナは、自分のことかと思った。
「えっと、リンさんとクラスメイトの、ユナです」
「ユナさん!ありがとうございます。僕も両手が塞がってしまっていて…」
「本当にありがとう、ユナさん」
「い、いえ…」
二人に感謝されて照れつつも、なんとか拾い集めていくユナ。その中で、ふと中身を見てみると魔術陣が書いてあるページだった。
「あの、これって?」
「魔術陣よ!」
「やっぱり」
「もしかしてユナさん、魔術陣に興味が!?」
リンの目がキラキラとしていた。自己紹介の時は落ち着いた丁寧な感じの印象だったが、途端に幼い感じがした。
「えっと、前にちょっと見たことがあって」
「そうなの!?それはどこで?どんな魔術陣だったの!?」
「それは――」
脳裏でふと甦った景色。もう何度もチラついていたはずのにーちゃん――偽神――の記憶。その中でも、特に思い出さないように気を付けていた最後の別れの瞬間の記憶。
「っ――」
そのままユナは言葉に詰まる。その様子を見て、リンは何か良くないことを思い出させてしまったことに気が付いた。
「その、ごめんなさい。悪いことをしてしまったかしら」
「いやっ!その、そう、ですね…」
「ふふっ、素直なんですね」
「あ!いや、その」
ユナがうまく言葉を続けられない様子を見て、リンは気にしないでという風に続ける。
「拾ってくださってありがとうございました。また、教室で」
うんしょとリンが持ち上げるが、少し震えていて心もとない。
「あの!私も持ちます!」
迷って言葉が出てこなかったのとまるで正反対のように、即座に手助けする。ユナはすぐにリンの本の山から何冊か受け取った。
「…やっぱり、優しいですね」
「い、いえ…」
ユナ自身も、自分の気持ちの切り替わりがよく掴めないまま、リンに付いていった。
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