第1話「逃げている」
小説人生初投稿です。月に2~4回、できれば毎週更新していきたいです。よろしくお願いします。
逃げている
鬱蒼とした森を駆ける小さな影が一つ。
それを追う様々な影。
「痛っ…!」
茂みは小さな影の背丈ほどあり、それは隠すと同時に、傷つけていた。
追う者たちの音は鳴りやまない。
「ハッハッハッ」
猟犬だろうか。酷くせわしない息遣いが耳を掠める。
「きゃっ!」
思わず驚いて転んでしまう。
目の前に迫る猟犬は鋭い目つきで、牙は肉を抉り取らんと鋭く輝いていた。
自分の顔よりも大きいその足に踏みつけられたら、逃げることはかなわないだろう。
「こな…いで…!!」
その捕食者を前に、すくみ上ってしまった。尻もちをついたまま後ずさることしかできない。
パアンッ!!
一閃。鋭い電撃が弾ける。
電撃は一瞬だが周囲を驚嘆で襲い、ものの見事に当てられた猟犬は痺れてその場から動けないようだった。
「るーちゃん!」
電撃の主を小さな影は見つけて呼ぶ。それに呼応するように”るーちゃん”とやらは、影の背中を鼻頭で押し、立ち上がらせた。
思考を切り替えてすぐさま走り出す。”るーちゃん”は先導し、茂みの隙間にうまく誘導してくれているようだった。
「あっちで音がしたぞ!!追え!!」
電撃は猟犬を足止めしつつも、遠くのものたちを誘う目印ともなってしまったようだ。
ますます増えていく音。それは森には似つかわしくない音。踏み荒らし、蹂躙せんとする音。
恐怖はますます広がっていく…
転んだときにぶつけたところが痛むが、そんなことにかまってはいられない。足を止めればすぐに捕まってしまう。
震えながら、痛む腕を抑えつつ走っていたその時、”るーちゃん”が足を止める。
そこは断崖絶壁だった。見渡す限り森は続き、下を覗くまでもなく落ちれば死ぬは間違いなかった。
音はますます近くなる。それは自分の息遣いと混ざりあって、ますます近く、怖くなる。
”るーちゃん”がこちらを見ている。そのまなざしは真っすぐ。ならば私もいかなければならない。みんなのために。
小さな影は鬱蒼としたその影から真っすぐ飛び出した。”るーちゃん”に捕まる。
するとすぐに荒々しい足音が近づき、いくつかは止まり、いくつかは遠吠え、いくつかは勢いのまま落ちていった。
「ふうちゃん!」
ヴァサッ!!
大きな羽を携え、小さな影を覆いつくしたそいつは、下に回り込むとふわりと背中に二つの影を乗せた。
「クソ!!」
崖の上から、追い付いてきた人間たちがこちらを見て罵詈雑言を吐き捨てている。
そんな声を置き去りにしながら”ふうちゃん”は翼をはためかせた。
まだ、風を切る音より心臓の音のほうが騒がしい。だが、恐怖はもうなかった。
ーーーその小さな影は、のちに知ることになる。そこはカストルファの死線と呼ばれ、その先には何があるのか誰も知らないということを。